《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

勝負を吹っ掛けて 気になる相手の気持ちを引き留めようとする滝島一族の粘着性。

S・A(スペシャル・エー) 13 (花とゆめコミックス)
南 マキ(みなみ まき)
S・A(スペシャル・エー)
第13巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

光の傍に居るために計画を進めていた彗だったが、祖父によって計画を阻止されてしまう。光はSAメンバーと共に彗の救出へ向かうが、蒼の妨害に遭い…。

簡潔完結感想文

  • 蒼による光軟禁計画(2回目)。祖父とのラスボス戦が複数回あって ダレる。
  • 滝島によるSA軟禁計画。好きな人へのサプライズは大抵 相手を不安にさせる。
  • 続く日常回。もうSAの「つがい」枠は満杯なんで失恋する者が続出するだけ。

坤一擲(けんこんいってき)の大勝負は1回限りでいい 13巻。

ラスボスが滝島(たきしま)の祖父だということは ほぼ確定でしょうが、
その祖父が、どうしてもラスボスっぽく見えない。

ちまちま と狡(こす)い手を使って孫と その交際相手の仲を裂こうとしているようにしか見えない。
全体的に見れば、中盤から姿を現した祖父ですが、
その姿が見られるようになるのは、もっと後で良かったのではないか。

初登場の威圧感や風格が、登場する度に失われていくような気がする。
恋愛関係も これ以上の発展は望めないし、
男女7人いるSAのメンバーも全員が恋人、または恋人候補が登場済み。
物語として、根幹を支えるような話題が祖父関連しかないとはいえ、
2~3巻に一度、ちまちまと攻撃を繰り返して、中弛みを防ぐ手法を駆使することによって、
最終盤の盛り上がりを欠けさせてしまったのではないだろうか。
発展性のある話は終わってしまったから「別れる詐欺」を繰り返しているようにしか見えない。

この頃に本書がアニメ化され、再び注目をされるようになったから、
今回の人気の波が引くまで連載を継続させる必要性が出てしまったのだろうか。
何だか無駄に長引かせているだけのように見えてしまう。


島の、自身のロンドン行きを回避するための計画は祖父によって妨害された。
さらには一週間後に、ロンドンの大金持ちの孫娘・アリサとの婚約の発表も予定されてしまい、
滝島自身は軟禁状態となってしまう。

一方で日本にいる光(ひかり)も、祖父の息のかかった部下・蒼(あおい)によって、
陸の孤島となった別荘に少なくとも一週間は滞在するように仕組まれていた。

今回の蒼の仕事は、滝島の婚約発表まで光を滝島から引き離すこと。
祖父は既成事実さえ公表してしまえば、2人の仲を引き裂けると思ったのだろう。

祖父が小さく思えるのは、自分の会社を大きくするために滝島の結婚を縁組みするのではなく、
なぜだか祖父の中に生じる光への敵対心から、彼女を遠ざけている点である。
40~50歳 年齢が離れている少女に固執する時点で、あんまりラスボス感がない。

だがSAコネクションは蒼の陰謀を打ち負かす。
というか こういう時に活躍するのは ほぼ違う学校に在籍する八尋(やひろ)。
本書においての八尋は万能過ぎる。
SAよりも財界的に上位存在で、滝島並みに有能設定だから、即座に解決してしまう。
逆にSAのしょぼさが際立つ。
独自のコネも行動力もないから、役に立ったためしがない。
たまにはSAだけで解決してみやがれ、と思ってしまう。
これは、SAには滝島がいて、彼が万能でい続けるために、他のメンバーを無能にしてるのかなぁ…?
SAがどんどん中途半端な位置づけになっているのが残念。


れで万事解決かと思いきや、蒼もまた その有能さをフルに使い、
彼らにロンドン行きの足を失わせることで、SAの行動を阻止し続けた。

飛行機の手配が出来ずに日本に留まる光たちを動かしてくれたのは、滝島の両親。
これは光との出会いで、両親それぞれに光を応援したいという気持ちが生じたから、という話の流れが良い。

ロンドンに到着し、SAは協力して光の願いを叶えようとするのだが、
祖父の権力は天の網のように張り巡らされており、SAは万事休す。

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いつもはバラバラだが共通の敵がいると結束するSA。だけど割と無能なので役に立たない(笑)

起死回生の策は、またもや賭けや勝負の類であった。
本書らしいといえばらしいが、賭け事で人の優位に立つ展開はあまり好きではない。
その過程の努力や経験が大事なのは分かるが、そうやって勝負で人を動かす人間関係は貧しく見える。

蒼の行動は、彼が初登場(『6巻』)してからの光の努力の結果とも言える。
当初、光が分からせたかった SA内での滝島が いかに楽しく過ごせているか、
が 蒼にも伝わったから 彼の謀反ともいうべき行動になった。

賭けは権力者の反対意見も封じ込めるらしく、蒼の暴挙も許されることになる。
これで蒼は これまでのように頻繁には登場できなくなるのかな。
そして蒼にできなかった役割を果たす男性が『13巻』のラストに登場するが、それはまた別の話。


のお家騒動のお礼に滝島はSAをロンドンの別荘へ招待した。
…が、そのパーティーの実態は勉強合宿。
ロンドン渡航で勉学を疎かになった部分をカバーする授業を滝島が始める。
滝島は事前に理事長の了解を取り、いつも権力に丸め込まれる無力なSAの反抗心を奪う。

だがSAは滝島のやり方に少しずつ反感を持っていき、場は険悪になるばかり。
光だけが日本に残留することになった滝島を祝おうとするが、この別荘では不可解な事件が続く。
この雰囲気を発展させたミステリ仕立ての話も読んでみたかったですね。

ただ光が浮かれる滝島のパーティーでSAが険悪になるのは、もう何回か読んだなぁ…。

滝島の方もサプライズで用意して、沈んでいたこころが浮上する、というのは、
男女交際におけるサプライズプレゼントを贈るための、バイトでの金銭工面でのすれ違い、のようなものか。
いつも いつも滝島は重要なことを言わずに、上意下達でやろうとするからダメなのだ。
あんまり人の上に立つ器じゃない気がする。

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SAが一人ずつ欠けていくミステリも読みたい。今回は『そして誰も食べる物がなくなった』でしたが…。

回のロンドン滞在でSAはアリサと遭遇する。
滝島のロンドンでの別荘の事件の犯人はアリサ。
アリサは滝島の恋人を知るために、別荘に潜り込み、そして食料を漁っていたのだ。

SAの帰国と同時にアリサも日本にやってきた。

アリサは自分が好意を抱き始めた滝島の恋人が光であると知るが、彼への好意を明確に示さない彼女の態度に納得がいかない。
そこでアリサは光を滝島の立派な恋人に育てるため「恋の先生」になる。

単純に言えば、アリサのしていることは 大きなお節介で、光への指導も強引な流れである。
けれど、この回はアリサが自分の失恋を認める回かなと思う。
以前も書きましたが、八尋などの一つの恋に別れを告げるビターな話が好きです。

アリサは本書で初となる光以外に滝島を好きになる人だろうか(滝島のイトコの凪・なぎも いるか…)。
そんな彼女は光のライバルとなることなくサイレント失恋をする。
アリサが滝島を本気で好きだと知ったら、光は譲りそうで怖い。
そのぐらい光の「恋愛」というのは信用ならない。

アリサの中に生まれ始めた恋心を昇天させてあげるための通過儀礼として必要な話なのだろう。
が、一つ目の恋は昇天したが、二つ目の恋が降臨するという見事なオチとなる。
ここはアリサの恋が本物ではなく、主役カップルだけが本物の恋という傍証にしたいのかな。

SAでもなく、SAの「つがい」にならず、単独での存在となったアリサ。
帰国したのかと思ったら、留学先は日本にしたようで、この後も時折 登場する。


レンタイン回。
今度はフィンのために、光が恋の先生になる。

本書の中では、フィンは本当は女性だが、
例え同性同士の恋であっても、光は その背中をちゃんと押すだろう。

これまで存在感の薄かった どんどん竜(りゅう)が天然ジゴロになっていく。
逆に二重人格ジゴロキャラを確立した純(じゅん)は、キャラを奪われ、最も影が薄い存在になりつつあるなぁ…。


続いても日常回で、滝島の父親が入院し、
入院中、彼を一番喜ばせた人に滝島のヒミツを教えるという謎の勝負が提案される。

滝島家の男性たちは3代にわたって勝負や賭けでしか人を動かせないのだろうか。
(滝島の父親は婿だろうが)

この話は、いつぞやの母と同じく、滝島と親との距離感の話になる。
両親たちは、早くも一人前の息子に、最後の甘えるチャンスをあげたいのかもしれない。

もしかしたら光といることで滝島が柔らかくなり、
そのお陰で、滝島の家族は祖父との関係のような冷たい間柄にならずに済んだのかもしれない。
両親、そして弟と冷血漢だった滝島は、もう一度 家族の絆を再確認できた。
完璧すぎる長男が、恋を知って人としての柔軟性を身につけたのだろう。