《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

物語も折り返し地点を過ぎ、ヒロインを恋愛から遠ざける努力も終了。えっ、まだ半分⁉

S・A(スペシャル・エー) 9 (花とゆめコミックス)
南 マキ(みなみ まき)
S・A(スペシャル・エー)
第09巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

彗の祖父に呼び出された光はロンドンへ。彗が光のために無理をすると指摘された光は、彗と距離を置くことを決意する。そんな中、ロンドンで出会った某国の王子・フィンが日本へやってきて光にアプローチするが、フィンには秘密が——!?

簡潔完結感想文

  • 秋休みは2度目のロンドン。新キャラとの縁を作るためだけのロンドンでした。
  • 新キャラは当て馬かと思いきやBのL⁉ と思いきや ただの「つがい」でした。
  • 告白場面が淡白すぎて唖然。キスといい告白といいドラマ性が無さすぎて落胆。

愛から逃げ続けるのも折り返し地点までと決まっていたみたいな 9巻。

今回のラストで、少女漫画で最も大事なイベントが発生する。
ネタバレをしますと、それがヒーロー・滝島(たきしま)からの告白。

これまでは互いに自分の気持ちを秘めているばかりの2人でしたが、
今回、滝島がヒロインの光(ひかり)に告白をして物事は大きく動く(と予想される)。
流石に今回の告白もリセットされることはないだろう。

が、そんな めでたい場面なのに不満が山積する。
何といっても告白の予兆が一切ない。
なぜ この場面で告白したのか、その必要性も必然性も感じられないから読者の中でも達成感がない。

もしかして作者の中では『9巻』の最初から最後まで、
光が滝島を避け続けていて、2人の距離がこれまでで最大になったから、という理由があったりするのだろうか。
その上、新キャラのフィンが登場し、初の男性ライバルが登場したことに滝島が焦ったか。

それにしても この告白は酷くないか…?
潮が満ちると孤立する島だが、人工物もあって命の危険もない。
半日もすれば潮が引き、陸と繋がる。

上記の考えられる2つの理由も そういう描写が明確にある訳ではないので、
これまで頑として動かなかった滝島が行動に移すには理由が弱い。

キスといい告白といい、作者はドラマ性が苦手なのだろうか。
日常の中の不意打ちが胸キュンに変換されると考えたのだろうか。

だが本書のようにヒロインの鈍感設定を駆使して、
恋愛から逃げ回っていた お話に、そういう唐突さは不必要だ。

これなら もっと他に告白の機会なんて沢山あっただろう。
『9巻』の内容で言えば、ロンドンまで滝島が追いかけてきた場面でもいい。

てっきり、滝島の祖父の問題が解決してから恋愛解禁かと思いきや、
本当によくわからないタイミングでの告白になった。

1つ考えられるのは、作者が50話を目標や目安にしていたのではないか、ということ。
これは結果論だが、本書は全99話の物語で、50話が丁度 折り返し地点。
そこまでは恋愛から遠ざかるように光を爆走させていたが、
折り返し地点を過ぎて、今度は恋愛に近づく様子に描写が変化していった。

連載50話という節目が終わって、作者の中で変化を求めた結果が告白なのだろうか。
それにしても、もっと展開とか演出を熟考して欲しかった。

来るぞ来るぞ、という緊張感の高まりもなく、唐突な告白に目がテンになってしまった。
盛り上がるべきところで盛り上がらないのも本書の欠点だと思う。


そして『8巻』の表紙と、今回の『9巻』の収録分の作業が同時期だったからなのか、
光の顔、特に横幅が広がっているのが ずっと気になる。
目の位置を両側に寄せて(要するに目が離れている)、顔のバランスを取っている気がしてならない。
まつ毛が伸びたり伸びなかったりで、表情がまるで違うのも漫画と言えど気になる。


話が展開する契機となる出来事が、相変わらず外圧なのも気になる。

滝島の祖父が光をロンドンに呼べば、単独でホイホイ行ってしまうし、
この頃は友人となった他学校の生徒・桜(さくら)が自分の家族が所有する場所にSAを連れ出す。
以前も書いたが、SA自体は温室に入り浸るモラトリアムであることが気になる。
彼らに利発性はなく、変わらない毎日を送りたい現状維持の心ばかりが悪目立ちする。


冒頭は、滝島の祖父に呼ばれた光の話。
光がそれに従い、ロンドンまで単独で行く理由が薄すぎる。
また学校内の様子を直接見た訳ではない祖父が光に固執するのも疑問を感じる。

滝島の祖父がロンドンで仕掛けたのは、お見合い。
お見合いといえば聞こえはいいが、ハニートラップを仕掛けて、光を他の男と「つがい」にしようという魂胆だろう。
そうすることで滝島が日本に執着する意味を失わせるのだろう。

そんなお見合いの会場で出会ったのがフィンという新キャラ。
実はフィンこそが「つがい」の候補だが、それは別の話。

この話の解決はいつもの通り。
滝島がロンドンまで駆け付けて、最強のヒーローになる。
舞台が海外なだけで、本当に50話中半分はこういう終わり方だった気がする…。

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ロンドンで運命的な出会いをする光とフィン。フィンが本当に当て馬になって中盤を担って欲しかった。

が、滝島がわざわざロンドンまで迎えに来た気持ちを考えずに、
滝島の祖父の「滝島が だれくらい君のために無理しているか」という言葉を受けて、滝島と距離を置くことにする光。

鈍感時代の光ならともかく、好きになったのに距離を置くというのが謎ですね。
滝島の意に反した行動を取らせようとする祖父の言葉を信じるなんて、光は6歳児並の判断能力しかないようだ。

だが日本に帰ったら、 距離を置きたいのに滝島と二人で放課後 校内見回りを命令される。
これは理事長権限の一方的な通達でSAでも拒否権はない。
本当、外側や権力者からの圧力でしか動かない物語であることに辟易する。
偉い人の命令に従って右往左往する話にカタルシスは生まれない。

一方、滝島は祖父と秘密の契約を交わしたらしいが それは明かされない。
彼も彼なりに、光を守りたいのだろう。

学園内の差し当たっての脅威には2人で協力して対応する。
このところパパラッチが光を狙っており、彼らを捕縛して その理由を問い質すと、
小国の王子が日本の学生と婚約したという噂が裏には会った。

前者がフィン、そして後者が光だというが…。


んな小国の王子・フィンが婚約指輪と共に来日。
光は いつの間にか婚約者となる。

それを回避すべく光はフィンの婚約者を一人で探すが、見つからずに窮地に追い込まれる光。
そんな光に対し滝島は、光が俺の恋人になればいい、という告白を潜ませた提案をする。
それの どこが解決法なのかよく分からんが。
だが自分の気持ちはともかく、他人の気持ちには まだまだ鈍感な光は、からかいだと判断する。

その後にSA全体も光を守るために奮闘するが、フィンには通用しない。

だが光の正論で、フィンの勢いは減速する。
光の正論はどんな人にも通用して、そしてどんな人とも仲良くなれるキッカケになる。

そして嫁探しを続ける為にフィンが1年間 通うことになる。
この学校の、そしてSA以外での初めての友達ですね。

そういえばフィンはSAの楽園の温室に出入りしているが、それは許されるのだろうか。
それもこれもSAの「つがい」特権としか思えないなぁ。

これによって絶対的なヒエラルキーが瓦解していて残念。
一般生徒には厳しいのに、王族だからか「つがい」だからか知らないけど、
温室にまで入って来るのはルール違反じゃないだろうか。
こういう点も作者が信用ならない点です。

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SAでもないのに なぜか温室に入れるフィン。こういう作者の身勝手なルール変更を私は許さない。

SA内でフィンが目をつけたのは、
自分を慕っていた双子(芽(めぐみ)と純(じゅん))に去られた竜(りゅう)。

彼を使って、光との縁を取り持ってもらおうとするフィン。
だが、光との仲は進展しないが、竜とフィンの距離は縮む。

これによって竜の中にフィンとの友情を超えた関係が生まれ、
明(あきら)に失恋した八尋とは種類は違うが、竜も双子から卒業していくという話になる。
同時にそれは竜自身の恋愛解禁の合図ともなるのではないか。

しかし上述のフィンの温室入室といい、どんどんSAという集団が形骸化していく。
学校にも居場所はないし、誰かから誘われないと どこにも行かないし。
一向にSAメンバー同士の関係性の厚みが出ていない。

竜がフィンにドキドキしている時に、フィンの秘密が明らかになる。
その秘密は竜を安堵させ、そして秘密が竜に負担をかける…。


たまた外圧の桜の招待で、温泉地に行くSA+α。
全員参加する理由は薄い。

竜はフィンの秘密を守るのに必死。
秘密を守るのに加えて、フィンとのスキンシップにもドキドキ。

フィンが思わぬ行動に出て、ここでもカップル成立か。
このところ毎回のようにカップルが成立して、いよいよ内輪感がエグい。


に冒頭に書いた通り、予想外に もう一組カップルが成立しようとしている。

フィンの話ばかり続いたからか、光と滝島のプチ遭難話なのかと思って油断していたら、
折り返し地点を過ぎたからか、前触れもなく滝島が告白してきた。

牢屋を見て、酒乱の醜態(『8巻』)を光が思い出して、
滝島をボロボロにしてしまうという光の恐怖がMAXになった、のだろうか。

『9巻』の全体を貫く、光が滝島を避ける理由が強引すぎて全く理解できない。

そして そんな状況下での滝島の唐突な告白は誰の心の推移も掴めないまま起きたことで唖然とするばかり。
折り返し地点なのに、打ち切りが決まって強引に両想いにしたかのような展開だ。

作者のお話の作り方があんまり理解できないなぁ…。