南 マキ(みなみ まき)
S・A(スペシャル・エー)
第12巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
彗の祖父と直接対決した光。何とか彗の祖父を退け、胸を撫で下ろしていたが、ライバル高校・黒泉館学園と温室を賭けて対決することに…!?
簡潔完結感想文
- 温室解体の危機。物語にとって需要な問題なのに、扱いが軽いことに違和感。
- エリート高校生大会。『ホスト部』っぽい はじけっぷり。SAが再評価される。
- ブラコン話×2。連載も円熟期か。話の繋げ方が本当に上達していて感心する。
最終回っぽい話が続くけれど、まだまだ最終回じゃない 12巻。
『12巻』冒頭のSAの拠点ともいうべき温室が無くなるかもしれないという話は最終回に回せばよかったのに、と思った。
本書のクライマックスは滝島(たきしま)の祖父との問題の解決だろう。
そうなる確率は高い。
その問題が収束した後に、最終回として、
もう一度 タイトルにあるSAの問題に立ち返る展開も ありだったのではないか。
この学校内の温室って本書において大事な場所で、物語は ここから始まったと言える。
だから最後にSAメンバーが力を合わせて自分たちの楽園を守り切るという話で、
SAの絆を強さを見せても良かったのではないか。
なのに今回、唐突に温室消滅の危機となり、
しかも その処遇を他校との勝負に勝ったら温存するという、またもや賭けバトル漫画が始まってしまった。
大切な温室を賭けの対象にして欲しくなかったなぁ。
そして いつしか他校とのバトル内容がメインとなって温室問題は結末すら語られないまま終わった。
違う角度から丁寧に描けば感動するような内容になるのに、
大事なことを雑に扱っているようで納得が出来ない。
(少なくとも この頃の まだ新人作家の)作者のバランス感覚を私は信用していない。
ちょこちょこ、私の考えとチューニングが合わないんですよねぇ…。
そもそものキッカケは、八尋(やひろ)たちの通うライバル校に負けない施設を作ることになったことから始まる。
その施設の決定権は あみだくじで光(ひかり)に委ねられ、皆が好きなことを光にプレゼンしていく。
自分の好きなことを話すSAメンバーが壊れ気味なのが面白い。
だが、その新施設は温室を取り壊して、その場所に建てることを光は知る。
なのに光が温室の取り壊しについて皆に黙っている流れが納得できない。
「こんな気持ち 皆に迷惑 掛けるだけだ」と黙っている意味が全く不明である。
これは、皆を滝島に置き換えるパターンもよく見られる。
SAの絆を誰よりも信用していないのは光ではないだろうか。
最初に光の口を塞いで、気持ちを落ち込ませたところに仲間が温かな言葉を掛けて良い話風にしているけれど、
こういう時だけ光を内気な性格にしていることに違和感ばかり残る。
滝島のロンドン行きにしろ、光が何か意思を持つこと自体が彼女の中で「フェア」じゃないと判断されていることが おかしい。
もっと堂々と意見を表明して、その上で納得できる解決策を見つければいいのに。
どんどん光から意思が奪われていく気がする。
そして温室消滅を回避するために、またもや権力側(理事長)から通達されるのが、
お決まりの対決への出場である。
今回は学校対抗の その名も「エリート高校生No.1(意訳)」。
本当に、勝負でしか物事を決められない漫画ですね。
最大のライバル校は八尋たちの学校。
だが竜(りゅう)が滝島の浮気現場を複数回目撃し不機嫌で、チームワークは崩壊寸前。
といっても、これまで特段 親しい感じを出せてない滝島と竜の いざこざ は唐突にしか思えない。
宙(ただし)ならまだ分かるが、存在感が薄く、性格すら理解していない竜が、
こんなに感情を剥き出しにしていることのほうが違和感がある。
そして この頃の作者の話の作り方の癖なのか「PLAY BACK 昨夜」とか時間軸をずらす手法が散見される。
ただ何連続で使ってるんだというぐらい高確率で起こるので、飽きる。
大会の参加は8人一組だから、SA+フィンが参加することに。
作品上はSAの「つがい」として用意されているから、参加は当然としても、
こういうフィンの特別待遇、他の生徒はどう思っているんでしょうか。
色々と無視してSAだけの狭い世界しか描かないから、その分 薄っぺらくなっている気がしてならない。
滝島たちは仲直りしないまま予選となる。
だが、共通の敵がいることで仲良くなるのが本書の単純なところ(初期の光と滝島とか)。
結局、戦いを通してしか話が進まないのがSAと本書。
全般的に、良い話にしているが、これも深みがない。
続いて「エリート高校生」大会の本選となる。
八尋の学校という共通の敵が現れて、SAはこれまでになく一致団結する。
闘争心のなさそうな双子たちも戦闘民族となっている…。
ちなみに八尋と桜(さくら)は本選の司会を務め、バトルには参加しない。
光の学校に「つがい」がいることもあり、高みの見物なのだろう。
ただ、争いばかりの この世の中で平和主義者が素敵に見える。
大会の内容は、白泉社漫画らしい箍(たが)が外れた内容で、
これまで常識人であることを守ってきた作者も一皮むけたような気がする。
ただ決勝戦の内容だけは よく分からないけど。
相変わらずのテンプレ展開で、光の沸点の低さと、同じぐらいキレやすい滝島という構図。
最後もキレたもん勝ちで、恐喝をして優勝しているようでスッキリしない。
温室の問題など忘却の彼方なのか優勝後には話題にも出ない。
上述の通り、物語にとって かなり大事な問題だと思うんですけどねぇ…。
テレビ放送までされる大会で優勝したことで学内のSA人気も再燃。
そんなSA礼賛の話かと思いきや、他校の光の兄がメインとなったのは意外だった。
光の兄は、絵に描いたような平和主義者なのにトラブルを抱えているらしい。
それを心配したメインキャラの女性4人で、兄の学校に潜入。
光が内偵して得たのは、兄のもとに妹を紹介しろ、と しつこく要求する男子生徒の姿だった。
一時的に有名になったことの影響が家族にも波及するという話の流れが自然で良い。
そういえば本書は誰であれ容姿を褒めるということが あまりない作品だが、
テレビに出て、男性たちが色めき立つのだから、光も やはり外見が整っているのだろう。
この話も光は「お姫様ポジション」だという話なのだが、
過去の話と上手くリンクしているし、光の兄が滝島の隠れたライバルというオチも面白い。
また、光の兄が 戦いでしか価値を証明できない本書と光のアンチテーゼのような存在なのも面白い。
すぐにキレて暴力に訴える光(や滝島)よりも、
本当に守るべき者のためだけに力を行使する兄の考えが素敵だった。
戦わない知的なSAがいる世界も読んでみたかったなぁ(遠い目)。
光のトラブルを解決したことから滝島が光の家に招かれる。
これで お互いの両親との顔合わせが終わって、少女漫画的には結婚に向けて準備万端ですね。
光のブラコン設定が出たところで、強引に滝島の妹になる話となる。
連続してブラコンの話にしているところは面白いが、
なぜ恋人の光が今更 滝島の妹として振る舞わなければならないのか、とか深く考えた方の負けであろう…。
そこで兄を愛するブラコンの滝島弟と滝島を巡る争いが始まるが、
今回も光はトラブルメーカーであり、しっかりと問題を収める人となって終わる。
そういうところが人から愛されるのだろう。
だが、滝島邸に行ったことで光は、滝島が春からロンドンで仕事をすることを知る…。
滝島は自身のロンドン行きを阻止するために画策していた。
そのために、自分が任される会社を日本に移転すること、
そして会社の大株主の孫娘・アリサの留学先を日本にさせることで問題を終結させようという目論見が滝島にはあった。
そのアリサは、この世で一番 食べ物が好き。
だから留学先は「一番 美味しい食べ物」がある国にするという。
アリサの食いしん坊キャラは『11巻』に収録されていた読切短編の主人公に通じるものがありますね。
そして食への興味は作者に通じるものがあるだろう。
だが、滝島は光と一緒にいるための情熱を注ぎ過ぎた。
これまでと違い仕事に私情を持ち込んでいる滝島は、人間味に溢れ、人を魅了するようになってしまった。
それが結果的にアリサへのハニートラップになってしまった。
この流れも自然で良いですね。
頭の中で光のことを考えているとはいえ、
滝島の表情が柔らかくなったら、それがモテに繋がるのは当然のこと。
結局 アリサは食では落とせなかったが、ホストのように彼女の心は落とした滝島であった。
だが計画が完遂する前に、祖父にその計画を全て潰される。
しかもアリサとの結婚を持ちかけられ、祖父は光の排除に一層 力を入れてしまう…。
滝島をもってしても祖父には勝てないのか。
タイムリミットである春は近づきつつある…。