《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

授業に出ないし、校内に友達もいないSAは学校に居場所がないから校外を放浪する運命。

S・A(スペシャル・エー) 5 (花とゆめコミックス)
南 マキ(みなみ まき)
S・A(スペシャル・エー)
第05巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

彗のお見合い相手として現れた桜の心を射抜いたのは、理想の“王子様”純! だが純には秘密があった…。一方、彗のギャフン顔が見たい光は、桜&八尋とタッグを組んで彗のお見合いに乱入するが、事態は思わぬ方向へ…。さらに彗に転校話が持ち上がり!?

簡潔完結感想文

  • お互い好きな人がいながら果たされる縁談。キスはするけど好きと言わない。
  • 2度目の海外。7人いても動く必要のある人は少ないから今回は2人が留守番。
  • 他校の文化祭で「ホスト部」を開催。自分の学校じゃ居場所がないんだね…。

強は出来ても、自主的に動く目標も目的もない 5巻。

SAには自主性が無い。
そこが嫌いだ。

彼らが動く理由が、いつも他者にある。
それが気になる。
学園内の楽園で特権を謳歌しているように見えるSAだが、
その実、ずっと誰かに行動を支配されている。

例えば、同じ年の他校生・八尋(やひろ)は父親の会社の権力を振りかざし、
SAさえも従わせる(バーベキュー回)。
そして学校の理事長命令を聞いたり、滝島(たきしま)祖父の存在も明らかになって更に物語の窮屈さが増す。

外圧が常に物語を動かしているから、彼らの自主性が失われる。

そういう面からすると、SAは青春の貴重な時間を浪費しているだけ、という見方もできる。
何かに心から打ち込んだり、SA共通の目標があったりする訳ではない。
成績優秀だから学校内で堕落という特権を与えられて、ダラダラと過ごしているようにしか見えない。
私が本書を楽しめない理由の一つは、ここにあると思われる。

他にも賭けの勝敗や、貸し借りで動いたり、人に従うことばかり多くて嫌になる。

モラトリアム期を自分のしたいことに打ち込んで、
その上で時期が来たら権力者(親の都合など)に左右されるなら分かるが、
彼らは青春を謳歌することなく、学校生活を楽しんでいる様子がない。

ここにあるのは、勉強ができるけど友達もいない、7人で引きこもっているだけの学園生活である。

『4巻』の感想文でも書いたが、この学校にSAの居場所はない。
殿上人と友だちになれる人は、学校内にいないのだ。
だから、物語はいつも外の世界を舞台とする。
そして ますます学校生活の楽しさは遠くなり、SAは学校に馴染めない金持ちたちの集団になる。

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特権の付与で学園生活が描けないなら、いっそSA制度の廃止を最終回のテーマにして欲しかった。

頭は純(じゅん)の個人回から。
もう『5巻』だというのに いまいちキャラの薄い純・芽(めぐみ)・竜(りゅう)。

彼らがキャラを出せるようになるのは、その人の「つがい」が現れてから。
本書はカップリングに命を燃やし、恋愛をしている人に焦点を当てるから、
恋愛をするまでは前に出てくる資格もない。

そして今回、桜(さくら)に求愛されたことで純がフィーチャーされる。
その純には秘密があって、キスをされると二重人格のようになってしまうのであった。
いかにも存在感の薄いキャラを目立たせようとする後発的なキャラ付け、などと考えるのは意地悪か。

この回は、ここまでの主要人物が一堂に会している。
『4巻』登場の一般人・唯(ゆい)も間を置かずに再登場するが、これ以後は出演機会は激減。
そもそも今回も八尋(やひろ)が明(あきら)と会う計画のためのエサにしか過ぎない。

上述の通り、社会的権力や親の都合で人を従わせて物語を動かす構成が苦手。
これではSAの上に八尋が君臨することになり、彼の手の上で踊っているようである。
金持ちは飾りのような設定だけにして、権力を振りかざさない方が良いと思う。


いては、お見合い回。
桜と滝島(たきしま)の お見合いの話は流れておらず日取りが決まる。
八尋の提案で、滝島がお見合い中に相手を他の男に奪われるというプランが立てられる。
例によって光(ひかり)は言葉巧みに誘導されて、実行犯になる。

こういう光の6歳児的な馬鹿さが物語を動かすんだろうけど、飽きた。
滝島の前で隠し事が出来ないから勘付かれるというのも毎度おなじみ。
今回も八尋が後ろにいるのも気になる。
作者のお気に入りなんだろうか。

男装の光の登場で全てのカラクリを見抜いた滝島は、思わぬ行動に出て、八尋の思い通りにはならないのが面白かった。
滝島側も そこそこ失うものもあったような気がするが…(笑)

恋愛面は ちょっと進んでいると思わせて、後から滅茶苦茶な理由でそれを打ち消す。
そして、また少し進んでいると思わせる。
まぁ、何も進んでいないということなんだけど…。


中で遮られた光の発言なのに、その一部だけを切り取って光が自分のことを好きだと誤解した滝島。
滝島は勝ち戦と踏んで、積極的行動に出て光に二回目のキスをする。
なんで滝島が告白しないのかが謎です。
何も理由ないよね?
今後もキスを ちょこちょこさせて読者をドキドキさせる作戦でしょうか。


八尋たちの学校の文化祭を盛り上げるためにSAが招待される。
また他校の話である。
本当にSAは、この学校に居場所がないんでしょうね。

それに参加するための条件として理事長から1週間の授業 全員参加が言い渡される。
これが至難の業で苦労する。
またも権力者の命令を聞くことで話が始まることに辟易。

この回はリセットされるだけの話。
滝島側からの視点も『4巻』の風邪回で読んだばかりで重複が気になる。
滝島家の伏線は張っているけど、恋愛的には目新しところの無い1話。


化祭で世話になるから、と
宙(ただし)が八尋たちの学校の理事長の孫の女子生徒をエスコート。
その事実に明は不機嫌になる。

これは八尋の奸計でもあった。
理事長の血縁同士が仲良くなれば、明は宙を失い、八尋になびくかもしれない、という計画なのだろう。
相変わらず、間接的な行動しかしない男性陣である。

光が今回動くのは、明を元気づけるため。
そして全員が前向きになることで、滝島に楽しんでもらうため。

だが、その滝島に転校の危機⁉
最終回間際のような展開である。
実際、ここで最終回にしても良かった気がするが…。


島に、彼の祖父から外国の学校への転入が言い渡される。
滝島も祖父の命令は絶対で、今もロンドンに渡航中だという。

そこでSAの内4人でロンドンへ行く。
ハワイに次いで2回目の海外旅行。
やっぱり学校では何のイベントもないから外にばかり出向く。

双子がお留守番なのは、いても動かないキャラで作画が手間だからだろうか。
5巻だというのに、まだまだ7人の個性や存在感が出てこない。

滝島の祖父は変わり者という評判。
財界から恐れられているけど、その姿を見た者は少ない。
滝島は祖父から目をかけられており、祖父の言うことに従う。

それを聞いた精神年齢6歳児は、孫の気持ちを無視して勝手に決める祖父に怒り爆発。
そうして猪突猛進にロンドンの滝島の屋敷に潜入する。
屋敷への突入は『桜蘭高校ホスト部』の最終回前を思い出す展開(あちらの方が後発)。

光が滝島を見つけられずに落ち込みかけていたところに、ヒーロー登場。
滝島に会って、少し冷静さを取り戻す光。
毎度のことながら、癇癪を起こして直情的に行動する光は幼い。
沸点が低すぎるのも自分のワガママ放題に生きている証拠に見えてしまう。

6歳児の光は、相手がどう返答するか分からない質問を口にしするのは苦手。
滝島の転校のことを聞き出せず、逆に滝島に何かあったかと心配される。
そうして初めて「遠くへ行くなよ」と自分の素直な感情が引き出される。

2人は互いの笑顔が好きで、その笑顔のためなら何だって出来る。
これは本書の恋に共通する想いですね。
その人の笑顔が見たいのだ。

こうして祖父との第一次攻防戦は祖父が登場することなく、すんなりと終わる。
以後、これが何回か続いて長期連載は構成されていくのだが…。


の騒動を経て他校の文化祭が始まる。
SAは「ホスト部」として活動する。

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滝島は、本家の環(たまき)と違ってサービス精神の欠片もない人。二度と指名されないだろう。

明が校内で携帯を落とした時も、懸賞を出して人の動きを操る。
これも善意とかではない。つくづく人の心を操るのが好きな漫画だなぁ。

そして結果的に携帯を渡す役目になるのは八尋。

明が好きすぎて直接的に関わらない姿勢の八尋は躊躇するが、光は正論で押し切る。
その姿は 八尋も指摘する通り『4巻』の宙と似ている。
きっと明の好きなタイプは、いつも正しくあろうと声を上げられる人なのだろう。

八尋の躊躇とは裏腹に、携帯を渡した明は笑顔になる。
それは八尋が一番見たかった顔。
誰もが その人が笑ってくれるように動いている。
そういうシンプルな動機で良いのに。

最後に新キャラが登場したところで この巻は終了。