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少女漫画と小説の感想ブログです

朝チュンしたヒーローの隣には裸の男性⁉ 『目隠しの国』はBLの題名にもピッタリ!?(スミマセン)

目隠しの国 4 (白泉社文庫)
筑波 さくら(つくば さくら)
目隠しの国(めかくしのくに)
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

触れた人の未来が見えるかなでと並木。逆に過去が見えるあろう…秘密を共有し支えあう3人。かなでは親友エリに“力”の事を話す決意をし、あろうと並木は過去の自分と対峙する…注目の第4巻!

簡潔完結感想文

  • かなで・あろう・並木、3人が知り合った事が彼らの能力と世界の向き合い方を変える。
  • 少女漫画の後半は男性のトラウマ満載。トラウマが便利だからか多用され再放送感あり。
  • 一方で本書独自の特徴としては、かなで が男性の事情に関わらない。彼女は返る場所。

きな人が笑ってくれる世界でありますように、の 4巻。

本書で徹頭徹尾 大切にされている事は その手に触れる事と笑顔であろう。
この『4巻』では かなで、あろう、並木(なみき)の3人が、
改めて自分が好きな人の笑顔と向き合う内容となっている。
勇気を持って前へ進み、彼らが今の自分に、
心から笑える自分でいる事、笑い合える人がいる事を確かめることで、作品内に幸福感が広がる。

そして男性たち2人にとっては それは過去と向き合うことでもあった。
物語も後半に差し掛かり、少女漫画らしく男性のトラウマが中心になってくる。

トラウマに関しては、『3巻』の感想でも書いたが、ヒロインの かなで が、
男性たちの事情に介入しないのが本書の特徴であろう。

多くの少女漫画では、男性のトラウマ、家族の事情にヒロインが立ち入るのだが、
本書の かなで は、ただ温かく彼らを迎え入れるだけである。

それは問題を抱えるのが かなで であっても同じ。
男性たちは物理的な傷から彼女を守る騎士ではあるが、彼女を過保護に守ったりはしない。
自分たちの判断で、かなで が傷つかないと分かれば、彼女に独りで歩かせる。
広い意味で それが彼女のためだと彼らには分かっているのだろう。

マイノリティの能力者ということで固い絆で結ばれている彼らだが、互いの環境には深入りしない。
彼らは人に触れる事に人一倍 敏感になっているからか、お互いのテリトリーを守ろうという意識があるのだろうか。
その大人の距離感が とても心地良い。

3人の中で 誰の過去でも=個人情報を その手を通して盗める(というと語弊があるが)あろう だけは、
並木のトラウマを知っているが、彼も積極的に並木に干渉しない。
ここは男性同士の ある意味で淡白で、ある意味で言葉のいらない仲間意識の表れとも言える。

ただ苦言を呈すとすれば、
あろう・並木のトラウマの登場頻度がちょっと高いかなぁ、というのが正直な感想。

作者にとって 大切な彼らのトラウマを ゆっくりと解きほぐしたいのは分かるが、
この展開により物語自体が過去に囚われていて、学校生活の明るさが失われていったのは残念。
トラウマがラストへの大きな流れだという事は分かるのだが、
掘り下げるネタが そこしかないのかな、と思ってしまう。


巻に引き続き並木編から。
夢を通して、家族に上手く馴染めない彼の荒れていた時代が描かれている。

笑って欲しかった母親には、自分の気持ちはきちんと伝わらないまま。
そして起きても人とは違う能力をもって生まれてしまった現実が続くだけ。
人と違うことが苦しく、並木にとって能力は障害でもあるのだろう。

そんな並木の心を解放するのが、勉強回で訪れた かなで の家の母親であるのは必然か。
かなでも聖母属性ではありますが、母ではないですからね。

母は温かく包み込み、自分を認めてくれる存在であると実感し、
もちろん かなで の笑顔からも力をもらった並木は久しぶりに実家に帰ることにする。

そうして自身が大きな愛をもって接した家族たちからは、
自分を心配する弟の心、そして母親の変わらない所、そこから反射する自分が変わった所が見えてくる。

母の親としての苦悩を並木は理解し、彼は母を赦す。
そうして心に余裕をもって自分から母に笑顔を向ければ、母もまた笑ってくれる。
お互いに緊張感をもって、腫れ物に触るように接してきたから、家族の間で誰も笑えなくなってしまっていた。

両親にしてみれば、息子が親戚の不幸を予言し、それが的中してしまったことはバツが悪い出来事だろう。
そうして親族から逃げるように出て行き、予想外に彼らの社会が狭まり、
そして世間の目が厳しくなったと思えてストレスに通じたのか。
これは多くの子とは違う特徴を持つ子供を育てる親の抱える悩みに通じるだろう。

並木は自分に向けられた母の笑顔は見られたが、まだ彼女から触れるまでには至らない。
その距離を適切に並木は見極めていた。
まだ縮まる余地はある。
最終巻で どうなるのか。


いては秋祭り回。
現実時間からすると本当に ゆっくりであるが、作中の季節は進んでいく。
掲載が9月号ということもあり、季節にピッタリ。
(実際は8月中の発売だから そうでもないのかな?)

ちなみに この秋祭り回から 並木の家に亀が仲間入りする。
並木は その優しさから訳ありなペットを自宅に招き入れ、その存在で自分の寂しさを埋めていきそうな気配がする。
独身の人がペットを飼うと結婚から遠ざかる的な、人との幸せは逃げる一方か⁉


常に能力がオープンな あろう は人混みが苦手。
人と接触するだけ膨大な情報が脳に流れ込み、疲弊させるからだろう。
だが、未来視が稀な かなで や、自発的な能力の発動の並木は その事実に気づかない。
一般人から見れば、3人は同じように見えるが、能力の差や生き辛さは違うことが描かれる。

あろう も かなで たち との秋祭りを優先するが、
このお祭りは夜通し行われ、一番混むのは深夜2時位らしい。
彼らは お祭りを存分に楽しむが、それは長時間 あろう が人混みの中にいることを意味していた。

仲間たちと一緒に過ごす お祭りに かなで は大満足。
だが あろう は並木の家に寄って彼から借りた浴衣を返す余力もなく直帰し、そして倒れ込む。

本書で初めての同衾シーンは甥と伯父の危ない一夜…。1ページ目までだと あろう と髪の長い女性の浮気にも見える。

倒れ込んだ あろう が目を覚ますと裸で、そして その横には裸の男性。
記憶を失った あろう の貞操の危機!

…ではなくて、その正体は あろう の伯父・宗(そう)。
あろう が裸である理由は用意されているが、伯父が裸である理由は特に見当たらない。
妹の忘れ形見と肌を接触させて、妹の記憶に近づきたい、という少々インモラルな理由ぐらいだろうか。

かなで の母親も相当 若作りだが、
あろう の伯父も最低でも あろう よりも20歳は年上だろうが、そこまでの彼との年齢差を感じない
顔も体型も、伯父というよりも あろうの兄にしか見えない。
年齢を絵で表現するのは難しいんだろうなぁ。
きっと20代ぐらいまでの顔や体型が一番描きやすいのだろう。
少女漫画は特に同じ年代の人だけ描く事が多いから、親世代は難しいのだろう。
リアルなおじさん・おばさんが描ける人って思い当たらないなぁ。
いくえみ 綾さんとかかなぁ…。


ろう の伯父の登場の裏で、久々に かなでメインの話が到来する。
それが、親友・エリちゃんへのカミングアウト。

彼女との出会いと変遷が語られ、
出会った頃から人に触れることを恐れている節のある かなで にエリちゃんは触れ続けていた事が分かる。
そしてエリちゃんが かなで に真正面から触れた事で、2人の距離は急速に縮まる。
友情の話だが、まんま恋愛の始まりにも使えそうなエピソードである。

そんなエリちゃんが倒れ込んでいる未来を見た かなで は、能力者3人で その未来の阻止のために動く。
エリちゃんに忍び寄る魔の手は、エリちゃんの彼氏・江沢(えざわ)くんの痴情のもつれが原因。
江沢くんは どこの漫画にも一人いる、女性にだらしない軟派なタイプ。
しかし、彼とエリちゃんとの交際も半年ぐらいになるだろうから、
この犯人の女性が江沢くんと交流があったのは随分 前なんだよね。
それとも最近の江沢くんの火遊びの結果なのか?

ずっと真っ直ぐに自分を見つめてくれているエリちゃんに、かなで は自分の能力を伝える決意をする。
これは本書で初めての、非能力者への自発的なカミングアウトとなる。

これによって世界が広がっていくのが良いですね。
能力者同士の共感と労わり合いも好きだが、
その壁を自分から壊し、彼女への信頼の証として自分を正直に話す。

それによって忌避され、友情が壊れるかもしれない。
でも そのリスクがあっても相手に正直に自分の事を伝えたいという気持ちは、
やっぱり告白に似ている気がする。


が上手くタイミングが掴めないまま、伯父の誘いで温泉回となる。

温泉回といえばハプニング。
かなで と あろう だけじゃなく、並木も含めて3人が それぞれ赤面する事態が起こる。
誰も不自然にタオルを巻いていないところが本書らしい。
作者も堂々と裸を描いている節がある。

伯父に連れられ、あろう は物に宿る母の記憶を見る。
それは、あろう の父親が、あろう から母親の物を遠ざけているのとは真逆の行為であった。

伯父は伏兵と言った感じですね。
彼もまた あろう と同じ能力らしい。
そして触れただけで その人の能力の強弱まで分かる人。
今は色々な所で種をまいて、それが芽を出し、やがて問題が実を結ぶのを待っている。
さすが園芸部・あろう の伯父といったところか。

あろう の能力は「目をこらせば どこまでだって(過去が)見える」。
本人が望まなくてもオープンな状態だから、得た情報に あろう は疲弊してしまう。

伯父は あろう から笑顔を奪いたいのだろうか。
きっと伯父は まだ上手く笑えないのだろう。


泉旅行中に かなで は エリちゃん に全てを話す。
そしてエリちゃんは自然にそれを受け入れてくれた。

だが翌日、実際に かなで の能力が発動して、かなで はエリちゃんに どう見られているかばかりが気になる。
しかも自分たちカップル以外は全員が能力者。
今回は母の育った家という「過去」の中にいる あろう の代わりに、伯父が あろう役を果たす。

騒動が終わり、エリちゃんと向かい合う かなで。
エリちゃんの中にあるのは戸惑いではなく、納得だろう。
これまでの かなで の言動や触れられることへの恐怖など、全てに合点がいった。
その姿を全部見ていたから、エリちゃんは かなで に笑顔で好意を示す。

これは一つの可能性だろう。
能力者と非能力者でも分かり合えることは出来る。
あろう や並木は これまで迫害されてきた経験が多かったが、
能力に違いが、「目隠し」の有無などで見える世界に違いがっても、彼らから恐れられない未来も来る。

その可能性に真っ先に辿り着いたのが かなで というのが、
男性たちにとっては後に続く勇気になったのではないだろうか。

あろう には かなで がいるが、
特に並木は 自分の交際相手や友人が能力者に限定されなくても良いという お手本になったのではないか。
彼らの世界は まだまだ広がり続ける可能性を秘めている。

かなで と エリちゃんの関係性も良いなぁ。彼女たちの「好き」の直感は間違っていない。

の育った家の中で、あろうは母の姿を見る。
だが、ここであろうは自分の能力の限界を再度 痛感する。

未来を見て、その未来を変えることの出来る かなで たちと違って、あろう はただ過去を見るだけ。
それが美しい記憶でも悲しい記憶でも、彼に介入する余地はない。
傍観者でなくてはならないことが彼を苦しめる。

それは母を亡くした直後にも感じた喪失感。
亡くなった母に「会う」ために、まだ子供だった あろう は母の遺品や日用品の一つ一つに触れていく。

だが、例えその記憶の中に自分が登場しても、それは現在の自分とは違う存在であった。
記憶を反芻しても新しい記憶は生まれない。
生まれるのはただ喪失感だけ。


だから 悲しみの中であっても現実に生きて欲しい あろう の父親は、妻の遺品を燃やし続ける。
それは能力のない父にとっても辛い決断だったと思われるが、
それを捨てても息子の心を守りたかったのだろう。

大切な人が今の自分の目の前で泣いてくれること、その涙があたたかいこと、
そして自分に対して笑ってくれること、それが あろう の心の快復に繋がっていく。

そんな夢とも記憶ともつかない混濁から目を覚ました あろう の目の前には、
その手で躊躇なく彼に触れ、身体に付いた ほこりを払ってくれる女性がいる。
その人の手は間違いなくあたたかい。

だから あろう は過去と再び決別する。

それは叔父の望む未来ではなかったはず。
同じように遺された者として、伯父は甥に過去を生きて欲しかったのではないか。
そして最後には伯父の種が あろう の心に蒔かれるのだった…。


そしてラストは大きな話の後にワンクッション置くかのような並木回。

これは あろう の能力があって出来る、並木にとっての予想外の未来だろう。

上述の通り、あろう は並木の過去の個人情報を全て持っている。
この男性たちは そういう 明け透けの関係なのだ。

ずっと1人であったはずの並木が いつの間にか こんな賑やかな空間にいることが嬉しい。
人の笑顔を見る事は自分の笑顔にも繋がっていく。