タアモ
地球のおわりは恋のはじまり（ちきゅうのおわりはこいのはじまり）
第05巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★★（6点）
はじめて喧嘩をした真昼と蒼。蒼には亡くなった母親との間に、真昼には言えないことがあった。そんななか同じバイト先で働く真夜が蒼くんに告白。真昼も銀河から「俺にしとけ」と気持ちを告げられ…!? 「まだ大切なことを話していない」――真昼は蒼と話すためデートへ。そしてはじめて２人が出会った公園で、蒼は「言えなかったこと」を語りはじめて…。超ネガ少女のシンデレラストーリー、本当の恋がはじまる感動の完結巻！
簡潔完結感想文
- 最初にカップルの最大の危機を克服。トラウマを話すことがトラウマ解消。
- 双子の姉妹の激突。意見の衝突をしないことは、本音を言わないことに繋がる。
- 交際に至らなくても行動すれば立派な恋。失恋で地球が終わることは ない。
誰かを傷つけることのない人生など存在しない 最終5巻。
最終巻まで構成が面白い作品。
何といっても、主人公カップルの別れの危機が先に解決され、
その後に、彼らが周囲とどう折り合いをつけていくかが語られる。
本当に徹頭徹尾「交際」を通して自己変革をした2人の姿を描いた作品なのだ。
なので最終巻が一番 密度が濃く、
主人公だけじゃなく、周囲の人々が一歩を踏み出したことを明確に描いている。
そういえば題名は、ヒロインではなくヒーロー側の気持ちなのだろうか。
「地球のおわり」と感じるほどの絶望を感じた あの日、
彼女の素敵な笑顔に見とれて一瞬で恋に落ちたことが「恋のはじまり」。
彼が普通の人生の、普通の喜びを体感しようとしたことが交際のキッカケとなった。
ヒロインは出会った時からヒーローの聖母であった。
ただ、連載当初からの構想は過不足なく描き切ったと推測する一方で、
話が直線的で、全てを物語の中で解決してしまっている印象を残す。
物語に余白がないので、考察や感想の入る隙が無いように思う。
序盤は意図的に無機質なヒーローを描いてたのは分かるが、
全体的にも無機質で、各人が決められた配役を演じているような感じを受けた。
ここが少女漫画の難しいところ。
過激なキャラが受けて、連載が継続することになった作品の、
行き当たりばったりの展開が面白いはずはないが、
かといって、理路整然とし過ぎていては、心が温かくなることがない。
本書は全5巻が適切な長さだとは思うが、
説明過多で、システマティックに物語が進んでいる部分も多い気がした。
また、省エネ作画のためなのか、
コマの中が台詞だけの部分が多いのだが、
その吹き出しの場所や口調による区別が分かりづらく、
誰が何を喋っているのかが分かりにくい部分が目についた。
あと過去作から変化を付けるために、キャラデザを変えたのだろうが、
男性陣の目がちょっと不気味だったかな。
ヒーロー・蒼（あおい）は何を考えているのか分からない感じが内容と合っていて悪くはないのだが、
時に意地悪な人に見えてしまい、キャラの感情を読み取れない部分があった。
佳作ではあるが、それ以上でもない、というのが厳しい評価だろうか。
ただ『1巻』の感想文で書いたように、
前作『たいようのいえ』と同様に恋愛を通して、壊れてしまった家族関係を再生させるという内容を、
逆方向からのアプローチで実現させることが作者の狙いで、それは しっかりと達成されている。
どちらの作品も、主人公カップルの2人は本当に頑張ったね、と応援したい人たちでした。
蒼に告白し、玉砕した真夜（まよ）は顔を合わせずらいのか、バイトを休む。
彼らのバイト先の手伝いをしたのは、こちらは真昼（まひる）に告白して玉砕した銀河。
バイトの片付け中、蒼が真夜から告白されたことを知った銀河は、
自分が真昼に告白して断られたこと、
そして真昼には、双子の妹・真夜に対するコンプレックスがあることを蒼に告げる。
これは蒼に二重の衝撃をもたらす。
1つは、それをしらずに真夜とバイトをしていたこと。
自分が真夜と仲良くやっているとメッセージを送り続けたこと。
そうして自分が、一番大切な人を傷つけ続けていたことを知った。
もう1つは、それを銀河から聞かされること。
自分が傷つけてばかりだから、真昼は銀河に相談をしていたのだと思い知っただろう。
同じ頃、真昼も真夜が蒼に告白したことを知り、
そのことについて蒼と話す機会を持つことにする。
それが行われるのが水族館デートの後に訪れた、
中学時代の真昼と蒼が初めて会った公園。
そこで お互いが、これまで他社に触らせなかったトラウマやコンプレックスについて吐露しあう。
蒼は自分が自分の大切な人の最期の時に、その人を傷つけてしまったというトラウマがあった。
だから相手を傷つけることに敏感であろうとしていた。
しかしそれでも真昼を傷つけたことを知り、落ち込んでいた。
2人の交際もここで限界かと思わせておいて、2人はそれでも互いにそばにいたいと願い乗り越える。
この流れは好きですね。
少女漫画における男性って とってもナイーブで、
交際に関して自分が完璧じゃない、失敗したと思ったら、逃げ出しますから…。
自分で勝手に このままじゃいけない、と思い込んで、
自分で勝手に 別れのストーリーを紡いでしまう。
こうすることでヒロインは全く悪くないのに危機が演出できるから楽なんでしょうけど、
問題に際して話し合いを持たないカップルの姿に疑問は残る。
本書は そこを上手くクリアしましたね。
なので最終回より ずっと前の回ではありますが、交際が盤石になりました。
お互いに隠したいことはもうない。
過去の交際歴もないし、過去のトラウマも解消された。
これからの2人は未来に向けて歩き出すだけ。
蒼のトラウマの解消の象徴となるのが、真昼の2回目の蒼の家への訪問場面。
そこで初回には叶わなかった蒼の母の仏前で手を合わせることが出来た。
1回目は真昼にすら触れて欲しくなかった場所だが、
今回は真昼は蒼の母に向かって、彼のことを報告できる。
少しネタバレになるが、最終回では蒼の父も間接的に物語に登場し、
真昼は蒼の両親に ご挨拶済みという状況になる。
ご両親に挨拶するのは少女漫画では結婚への布石。
本書では 両親とも間接的ではあるが、親兄弟に歓迎されていることで将来は安泰でしょう。
蒼の母に挨拶をした後、真昼は蒼の弟妹の喧嘩を目撃する。
しかし蒼は放置。
なぜなら喧嘩することで解決できることもあるから、と彼は言う。
これが真昼にとって新たな気づきとなる。
真昼と真夜が互いに気を遣って避けてきたのは衝突することではないか。
コンプレックスと配慮から遠ざけてきた相手と対峙する時がやってきた。
本書において真昼は、告白される側で守られる側である。
そんな中での彼女からの行動が、真夜と話すことなのだろう。
この物語では、誰もが確かに一歩を踏み出していることが分かる。
真昼と真夜の話し合いは少しも劇的じゃない。
罵り、引っ叩（ぱた）き、取っ組み合いの喧嘩の中で互いの本音が引き出される。
蒼の時間が中学時代で止まっていたように、
彼女たち双子の時間も、いつからか止まってしまっていた。
だから喧嘩も、その止まった時間を再生するように子供みたいなレベルの低いものなのだろう。
真昼は真夜に変わって、蒼と同じバイト先で働き始める。
そこで改めてバイト場所での蒼との距離の近さを身をもって知り、
そして この距離を失う可能性があっても告白したの真夜の勇気を知る。
地球が終わる、ではない、現実的なリスクを考えて行動した真夜と、
そして友情を失うリスクがありながら自分に告白した銀河のことに思いを馳せ、
彼らの恋を成就させなかった自分たちの恋に全力投球することを誓う。
自分が誰かに傷つけられることばかりを気にしていた真昼が、
誰かを傷つけたという、消せない確かな過去を持ちながら前向きになるのが良いですね。
そして想いを抱えたままの人があと一人。
それが今は担任教師であり幼なじみの男性に恋をする守谷（もりや）。
彼の結婚式の招待状が手元に届いて、それでも「自分の気持ちを否定したくないから伝え」に行く。
これが高校生たちの最後の一歩となる。
ファンタジーにしないで現実の苦みを持たせるのは銀河と真昼の関係性。
銀河は、これまで通りとはいかないと、一定の距離を宣言する。
といっても、全く喋らない訳じゃないし、心持ちの問題なのだろうが。
最終回は担任教師の結婚式から始まる。
守谷に招待状が届いた失恋の日から、少し時間が経過しているのだろう。
真昼はクラスメイト4人で出席。
花嫁の決意を聞いて、守谷の最後の恋心は昇華されていく。
それは帰り道に蒼と対面した真夜も同じ。
好きな人を守る、幸せにすると誓う姿に、真夜はまた次の一歩を踏み出す力を得た。
そしてラストは、まるで真昼と蒼の結婚式のような お花畑のワンシーンとなる。
地球が終わるほどの苦しみを救ってくれた人との はじめての恋。
生涯でただ一人の人と出会った高校生の お話でした。
