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少女漫画と小説の感想ブログです

全5巻で おわりの物語の4巻目は四角関係のはじまり。地球崩壊より ちゃんと おわるか心配。

地球のおわりは恋のはじまり(4) (デザートコミックス)
タアモ
地球のおわりは恋のはじまり(ちきゅうのおわりはこいのはじまり)
第04巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

お母さんが亡くなって以来、弟妹たちの世話を続けているという蒼の事情を知り、もっと「ちゃんとした彼女になりたい」と思う真昼。でもバイトが忙しい蒼は、真昼を想うあまり同じバイト先で働く真昼の妹・真夜と仲良くなっていく。一方、真昼はダメだと思いながらも蒼と妹のことを心配に思ってしまい……。超ネガ少女×押せ押せイケメン×…妹&銀河も参戦!? で、すれ違い勃発な初恋シンデレラ・ストーリー第4巻!

簡潔完結感想文

  • 先生の家に訪問。誰にでも起こる地球のおわり。惨めでも好きでいたい。
  • 初めての喧嘩。恋人の近しい人だから親しくしたいが、親しすぎても×。
  • 近しい人の好きな人だから気持ちを抑えたいが告白してしまう男女2人。

性では分かっていても、好きなことを やめられない感情的な 4巻。

全5巻の物語の4巻目のラストだというのに怒涛の展開を見せる。
登場人物それぞれの過去と対峙するために必要とはいえ、
なかなかヘビーな展開を持ってきた。

そして何よりペース配分が大丈夫なのかと心配になる。
物語をまとめきれなくなった作者が、
この話を放り出して、本当に地球滅亡エンドにしたら笑えるが…。

4巻は3つの、それでも好きでいたい、という気持ちが描かれる。

1つは守谷(もりや)の担任教師であり、幼なじみの男性への恋。
彼には指輪を失くして激怒するような女性の存在があることを知りながら、
ずっと抱えてきた想いを簡単に手放すことは出来ない。
やはり諦めるためには告白という通過儀礼が必要なのだろうか。

そんな告白の手段に出るのが2例目、3例目。

2人目は真夜(まよ)。
これまでは双子の姉・真昼(まひる)とは好みが違うため、
好きな人が同じになることはなかったし、そうならないようにしていた彼女。
しかしバイトで一緒に働くようになった真昼の彼氏・蒼(あおい)に どうしても惹かれてしまう。
多少の罪悪感を感じながらも、真夜は蒼に告白をする。

3人目が銀河(ぎんが)。
ちないに彼には名字がない。
最終回までに明かされることはあるのだろうか。

彼は自分が蒼の一番親しい人間だという自負がありながらも、
その裏では彼に対してコンプレックスを覚える過去があった。

彼を「妄信」しながらも、彼の一番大事なものを奪おうとするのは、
自分が蒼を超えるための必要悪なのかもしれない。


女漫画で言えば、交際編でのゴタゴタが一気に噴出している。
本書は両想いまでの過程が一切なく、最初から交際編のようなもの。
だから真昼と蒼の2人の関係は危ういものがあって、だからこそ他の人が入れる隙が生まれる。

とは言っても本書で作者が描きたいのは、
自分の過去や、現在の悩み事を介して、交際を盤石にしていく過程だろうから、
他の少女漫画ほどに読者として心配することは少ない。

主人公カップルはどちらも少し壊れているので、
彼らが他の誰かを好きになるという想像も出来ないのだ。

交際を通して、アヒルであった彼らが白鳥へと生まれ変わっていく。
その変身過程における、莫大なエネルギーが魅力に変換され、
周囲の人を巻き込んでしまっているのではないか。

物語の見どころは恋の結末ではなく、変身の完了にあるような気がする。


頭は計画していた担任教師の家への訪問。
先生を好きな守谷は緊張気味。
真昼は守谷の役に立とうと奮闘気味だが…。

にしても先生の家はどうなっているのだろうか。
元々家族で住んでいたところに、今は先生が独りで住んでいるのか?
じゃないと守谷と幼なじみ設定、家が大雑把に言えば隣同士という関係性も成立しない。

そこに先生の彼女が到来。
楽しい日が一転して見せつけられる形になった守谷は帰宅してしまう。
辛いはずなのに守谷は最後には真昼に気を遣ってくれた。

守谷は見通しの立たない恋の嵐の中でも真昼のことに気を回せる。
蒼は 真昼が好きだと言わなくても、見返りなど求めずに、いつも守ってくれる。

他人の優しさに触れる度、真昼は 至らない自分の現状を知る。
何かある度に「地球がおわる」と思っているのは、自分のことしか考えていない証拠でもあった。

蒼もバイトのため中座し、帰り道は銀河と2人きり。
真昼はそんな自分の悩みを彼に話す。
だが、2人きりで話す度に銀河が顔を赤くしていることを真昼は気づかない。

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味方の味方は絶対に味方と妄信する真昼。しかし獅子身中の虫ということもあり得る…。

夜は蒼のことを好きになる自分を止められない。

一方で、蒼は真夜と真昼は完全に別人格だと思い、
真夜の放つ重力にとらわれない人で、だからこそ真昼と真夜の態度に差が出てしまう。

真昼に対しては格好つけたくなってしまい、会話が不自然になってしまうが、
真夜に対しては自然体で、どんなことでも話せる間柄になる。

しかし真昼は、真夜が自分の知らない蒼を知っていることに衝撃を受ける。

更には真夜が彼氏と別れたことを知り、
彼女を縛っている鎖が解き放たれたことに衝撃を受ける。

ここで面白いというか、
読者が真昼目線から離れなければならないのは、
蒼の真夜に対する態度と、真昼の銀河に対する態度が全く同じである点と、
そうして異性と親しく会話することが、相手の嫉妬になるという問題点である。
嫉妬一つとっても、真昼は自分の油断に対して無防備で、相手のことに対してばかり頭を悩ませている。

蒼が真夜と仲良くしているのは、彼女に対する恋愛感情、彼女からの恋愛感情を全く意識しないからである。

もう既に銀河は真昼に恋心を抱いているが、真昼には恋愛感情がなく、
「全然そういう対象じゃない」と失礼にも本人に言うほどの無防備さ。

しかし蒼の立場になってみれば、彼女が異性と仲良くしているのを快く思うはずがない。
自分が蒼に対して必要以上に心配をしているのに、考えが至らない。


して もう一つ読者が知るのは、男性が互いに感じるコンプレックス。

蒼は銀河に対してコンプレックスを持っている。
裕福な家庭に育ち、「何ても持ってる」「人の気持ちもよくわかる奴」だと思っている。
自分は人間関係も上手く構築できないと思い込み、常に不安定さを隠せない。

銀河も肝心な時に勇気を持てなかった自分と、
その意気地のない自分を知っている蒼に対して複雑な感情を持っている。
何事も上手くやっているようでいて、自分が人として醜いことを彼は知っている。

これは真昼と真夜の関係と同じとは言わないが、
親愛の情がありながらも、コンプレックスを抱かざるを得ないというところが似ている。

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末永く一緒にいたいと思うなら、互いの過去・価値観をすり合わせていくことも大事。

めての男女交際ということもあり、相手や周囲の人との距離感が掴めない2人。

お互いの不平や不満が溜まったことで喧嘩寸前までいってしまう。
そこが学校の廊下で周囲の注目を集めたことで、逃げ出し頭を冷やすことが出来た。

そこで蒼は自分の育ってきた境遇や、苦手意識をしっかりと話す。
真昼も真夜に対する複雑な気持ちの一部を吐露して、仲直りする。

蒼は母が亡くなる前日の会話で、最後まで母を思い遣ることが出来ない自分に気づかされた。
これが彼にとっての最大のトラウマだろう。

真昼に対する過剰な愛、優しさ、フォローは この過去と深く関係するだろう。

ネガティブな真昼に対して、
蒼は一切のネガティブを排除しようとしている。
なぜならネガティブであるまま、その人の世界がおわってしまうことを目の当たりにしたから。

蒼にとって真昼は中学時代の恩人でもあるが、
ネガティブをこじらせている真昼の姿は、母の再来に思えたのかもしれない。

蒼の優しさには理由と、無限の後悔があることが分かる。
真昼にも、そして蒼にも、自己否定をしないで生きられる日が来ることを願わずにはいられない。