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少女漫画と小説の感想ブログです

斎王寺兄弟から誕生日に貢がれるのも悪くない。4か月で家政婦からシンデレラへ!

斎王寺兄弟に困らされるのも悪くない 5 (花とゆめコミックス)
晴海 ひつじ(はるみ ひつじ)
斎王寺兄弟に困らされるのも悪くない(さいおうじきょうだいにこまらされるのもわるくない)
第05巻評価:★★★★(8点)
  総合評価:★★★(6点)
 

「万に一つでも億に一つでもいいんです。浬君に会えるなら、私は行きます!」 母親の死を巡るすれ違いにより家族を拒絶し、失踪した浬。風香は浬に再会し、想いを伝えることができるのか――!? 4兄弟とひとつ屋根の下ライフ、感動の完結巻!

簡潔完結感想文

  • 兄弟喧嘩から浬が失踪。彼を探すために風香は今と未来の全てを投げ出す覚悟。
  • その瞳から落ちる涙と 天からの光で全ては浄化される。禁句(タブー)も解禁。
  • 交際後のイチャラブも完備の安心設計。収入のある高校生のプレゼントとは…⁉

黒柱が恋に溺れて、斎王寺家 経済破綻の危機!の 最終5巻。

以前から書いているが、私は本書の全体の構成が好きだ。
全5回の短期連載の時から兄弟構成に謎を含ませ、
そして長期連載になってからは、およそ1巻につき1人ずつ その謎を解いていった。

そして最終巻となる『5巻』も早めにトラウマを解消して、
最終回前を後日談のような、恋愛成就の後のイチャラブ回に充てていた。
ハッピーエンドの少し先まで見せてくれたことを高く評価したい。

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トラウマ解消まで語れなかった浬の心の内が だだ漏れる回もある。彼女のこと、大好きだな。

また、クライマックスに事故など大袈裟なイベントを起こさなかったのも、
全5巻というコンパクトな構成のお陰だと思う。
もし10巻以上続いていたら、こうはならなかっただろう。

実は本書は『1巻』からの時間経過は たったの4か月余り。
『1巻』ではヒーロー・浬(かいり)の誕生回(5/20)があったが、
最終『5巻』では、ヒロイン・風香(ふうか)の誕生回(8/18)で終わる。
この2つの誕生日で登場人物たちの変化が如実となる構成も好きだ。

主人公は 高校1年生。
出版社側が許せば、内容的には高校3年生の卒業まで描くことも可能だっただろう。
しかしヒロインという触媒が斎王寺(さいおうじ)家に
もたらした化学反応の終了とともに、本編を潔く終わらせた。

よくよく考えると、どうかと思う女性や大人は多かったが、
ジメジメとした湿気は極力抑えられ、爽快な気分で物語は幕を閉じた。

内容の充実度と読後感は悪くない。
悪くないどころか、好きなんだろ、俺のこと?


編は夏休み突入。
風香が家政婦として住み込みで使用している部屋は、元々は一家の母が使っていた部屋。
その部屋で風香は、浬たちの母親の日記を発見した。

そのことを風香は長男・宰(つかさ)に報告する。
斎王寺家が四男・湊(みなと)を除いた状態になった頃、宰は11歳ぐらいか。
なので彼は燈が家に来た頃と、彼の継母となった母の姿をよく覚えている。
恋愛戦争には参戦しなかった宰だが、斎王寺家の生き字引としての役割があるようだ。

そして この今は亡き母の当時の言葉が浬の心を開放する鍵となる。

また、浬との両想いを前に、地ならしとして行われるのが、
風香が、同じく浬のことを好きなクラスメイト・星さんに事情を説明すること。

これで女性同士のフェアな戦いとなります。
もちろん住み込みによる同居などは秘密なのですが。
女性の描き方に偏りのある本書ですが、星さんは意外にも偽装交際で騙していたことも含めて受け入れてくれる。
まぁ 元々、次男・燈(あかり)との偽装交際は、
星さんたちの尾行が執念深かったから必要性が出た訳で、彼女に責める権利はない気もするが…。


王寺家の問題は、母の死に関わっている燈の罪悪感と、浬の張り詰めた心。

浬に歩み寄ろうとした燈だったが、かえって浬の反発を招いてしまう。
浬は珍しく怒りに任せて燈を罵倒し、そして家から出て行く。

残された兄弟と風香は、生き字引・宰によって、
これまで秘されていた浬のトラウマ、いや叶えられなかった未来の話を知る。

浬は若干8歳で、母の仕事を楽にするために、ソフトを開発し、それを一家の収入にしようとしていた。
母が事故に遭ったあの日は浬の仕事に対して報酬が出た日だった。

家の収入が増えれば、母は自分を構い、そして褒めてくれると信じていた幼き日の浬。
だが そこに舞い込んできたのは母の事故の知らせだった…。


そして皆で母の日記を読むことで、母の態度の謎も明らかになる。
継母として燈への接し方に悩み、逆に母は実子である宰と浬は放置してしまった。
宰は年長者で、浬は早熟だったため、母は彼らよりも不安定な燈に より深い愛情を与えようとした。

だが これは後に風香も指摘しているが、
彼女は子供たち全員を平等に扱うべきだったのだ。
そうして どの息子の気持ちも斟酌することが母の務めだったはず。
どういう経緯で再婚し、どういう心境で新しい子を設けようと考えたのかは不明だが、
母もまた未熟で不安定だったから偏りが生じたのだろう。

しかし浬の早熟な才能は、母に褒められたくて彼が努力した結果でもあったのだ。

それを「しっかり者」として片付けてしまった母の非は小さくない。
本書の大人たちは ほぼ全員が間違っている。

そして浬も風香も「しっかり者」であろうとして、
自分の悲しみを見ないようにしていたところがある。
親の死に加えて、辛いことから目を逸らす方法も似ている2人なのである。


の帰宅を待つ彼らの間に浬から連絡が入る。
だが彼は、「疲れた」「帰らない」と告げ、説得を振り切り連絡を絶ってしまう。

そこから始まる浬の大捜索。
浬たちの母の日記の中に手掛かりを見つけた風香は、そこへ向かおうとするが、
それには多額のお金が必要だった。

これまで貯めた(といっても3ヶ月分だが)お金を下ろし、
ここで使ってしまうことは風香にとっては進学の夢を諦めるも同じこと。
しかし今の風香にとって浬という存在はその夢と天秤にかける価値のある大事な人なのだ。

お金に切実に生きてきた風香にこの選択をさせることで、
風香にとっての浬の輪郭がくっきりと浮かび上がった。
本書ならではの切実な問題で、ここは大変好きです。

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亡き両親の願いから逸れ、彼女は自分の望む未来を歩きだす大人になった。

身全霊と全貯金を使った風香によって、浬は発見される。
そこは浬が かつて母子で入った教会だった。

風香に過去の自分を褒めてもらった時、浬が初めて落涙する場面も好きです。
彼にとって、いつ以来の涙なのだろうか。
もしかしたら3歳ぐらいから泣いてないのではないか。

『3巻』で湊が斎王寺家から離れる(と思われた)時でも泣けなかった彼だが、
この時のために、最大のカタルシスのために涙は取っておかれたのだ。
こういう前振りがしっかりしている所も好きです。


そして涙と共に解禁されたものが もう一つ。
それが浬の禁句となっていた「好き」という言葉。

教会のステンドグラスに朝日が差し込む中で、彼は告白する。
彼の過去も歪んだ性格も全てが光の中で浄化されていきます。
作者の計画性が私は大好きです。


して本書で もう一つ好きなのは、この話が最終回でないところ。
連載は この後も2話 続きます。
これは交際期のイチャラブをしっかりと読者に見せるためでしょう。

中盤は少女漫画テンプレ展開の多かった本書ですが、
作者は少女漫画というジャンルを しっかりと研究しており、
多くの作品で幸せの余韻に浸れないことを理解しているからこそ、こういう構成にしたのではないか。

そうして両想い後の交際の様子が描かれる。
ちなみに語り手は浬である。
彼のダダ漏れる心の声をお楽しみください。

風香は恋人らしくデートがしたいが、
浬は彼女のために自分が稼いで風香の給料を上げること第一とする。
彼は進学も結婚もお金が必要だと知っているから。

高校1年生にして、仕事と私、どっちが大事なの⁉、という究極の選択に行きついた様子。

そんな浬に助言を送るのは、かつての恋敵・燈。
親代わりの宰に交際を認めてもらい、2人の将来も安泰である。

夏祭りデートは、甘い甘い思い出です。


終回は 8/18の風香の誕生回。
彼女にサプライズの計画だったことが、すれ違いの原因となり、
一度下げた後の仲直りで胸キュンの幸せいっぱいの様子が描かれる。
これは『1巻』の5/20の浬の誕生日と対を成す内容ですね。

兄弟が席を外させたり、席を外したりで皆それぞれに風香にプレゼントを用意している。

中でも注目は浬からは本気のプレゼント。
兄二人が、その本気度と愛の重さが心配するような大きな指輪を、彼女の左手の薬指にはめる。

この家にきて3ヶ月で、至れり尽くせりのプレゼントだ。
まさにシンデレラストーリー。
この家の収入トップの男性が王子である(笑)

そして ここから風香の政治が始まり、
弟に寄生する長男や、自分にベタベタ触ってきた次男を放逐するのだろう…。
四男は成人するまで手元に置いて、ハリウッド女優と彼を渡す対価を交渉しよう。

そして風香の「斎王寺家を乗っ取るのも悪くない」は完遂するのだ…(嘘)


ちなみに最終回前後には浬の父親が登場するかと思ったが、
彼は過去や家から逃避するばかりで、出てこなかった。

いつか帰ってきた時は、新生・斎王寺家の聖母となった風香が彼も癒すだろう。


細かいところでは、浬を探す途中で風香に電話した宰が、スマホと反対側の手にゴミ箱の蓋を取っていて笑える。
お兄ちゃんは、そこに弟がいると思ったのか(笑)

にっぽり君をはじめ、細かい描写や背景まで神経が行き届いているところも好きです。