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少女漫画と小説の感想ブログです

斎王寺兄弟は大人の事情に困らされている被害者で、子どもたちは ぜんぜん、悪くない。

斎王寺兄弟に困らされるのも悪くない 3 (花とゆめコミックス)
晴海 ひつじ(はるみ ひつじ)
斎王寺兄弟に困らされるのも悪くない(さいおうじきょうだいにこまらされるのもわるくない)
第03巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

「どうでもいい奴に構う程、俺は暇じゃねーよ」 意地悪な三男・浬に振り回される風香。そんな中、2人のクラスは文化祭でお化け屋敷をすることに! 浬と仲の悪い次男・燈も遊びに来て…? 似てない斎王寺兄弟の四男・湊の出生も明らかに!?

簡潔完結感想文

  • 相変わらず女性は計算高く、人を利用する。その目論見を自己犠牲で潰すヒーロー。
  • どうにも1人蚊帳の外の長兄・宰。彼が家にいる一夜は『2巻』台風回の使いまわし?
  • 早くも末弟・湊の出生の秘密が明らかに。全体的な構成と話の配置が巧みで好きです。

のー、自分の欲望に忠実すぎる女性しか出てこないんですけど、の 3巻。

ヒーローがヒロインを助ける場面は胸キュンの見本市になってしまっている本書ですが、
全巻を読んで上手いな、と思うのは全体の構成。

まだ正規連載が決まっていない『1巻』の序盤から舞台となる斎王寺家(さいおうじ)の4兄弟に、
何やら複雑な事情があることを匂わせている。

そして全5巻の折り返し地点を過ぎた この『3巻』の後半から、
畳みかけるように家族の事情をつまびらかにしていく。
最終『5巻』の構成も余裕があって、読者が読みたいラブラブ期もしっかり描いてくれている。

作者と登場人物、作者と作品の距離が適切に保たれたまま、
エンタメに徹していてくれるので、非常に読みやすい、清々しい物語になっている。


だ精読すると気になり始めるのは、女性と周囲の大人の身勝手さ。

女性に関しては『2巻』の感想文でも書いたが、
『3巻』では人の弱みにつけこんで、自分の欲望を叶えようとする浅はかな行動が加速していた。
恋で盲目になると、人間はこんなにも醜悪になるのか、と思わず己を省みてしまう。
その分、彼女たちの目を覚まさせるヒーロー・浬(かいり)の役割が際立ったが。

そして『3巻』からは大人の身勝手さも見え隠れする。
ネタバレになるので詳しくは描かないが、斎王寺家の4兄弟がこの家に集まってきたのも、
少なからず人間関係がギスギスしているのも、
全部 彼らの血縁者がバランスの取れた行動をしなかったせいである。

特殊な環境を創り出すためとはいえ、
彼らのしていることは育児放棄であり、自説に固執した偏った考えである。

特にこの『3巻』で明らかになる湊の出生に関しては、
上っ面の綺麗さに比べて、自分本位な考えが根底にあることが不快感になる。

主人公・風香(ふうか)を養育していた叔母も含めて、
子供を持つべきではない人たちが子供を持った末路のように見えてしまう。
絵も話も爽やかなのに、考えれば考えるほど嫌な気持ちも湧いてくる。
その気持ちに向き合いたくないから、本書を繰り返し読むことはしないかもしれない。


編は文化祭の準備から始まる。

クラスメイトから注がれる ありもしない浬との交際疑惑を晴らそうと努力していたにもかかわらず、
学校内で浬との密会現場を撮影されてしまった風香。

しっかり者の学級長でいたい風香は、自分の評判が落ちることを恐れる。
『1巻』でも覗いていた彼女のプライドが見え隠れします。

浬を想う星(ほし)さんは、自分を浬の彼女にしてくれたら画像を消すと交換条件を持ち出す。
買出しを浬と一緒に行きたいとか、脚立から落ちる自分を浬に抱きとめて欲しいと要望を重ねる星さん。
更に星さん周辺の女性とも風香に無理をお願いしだして…。
風香以外の女性の描き方に悪意を感じます。

この画像をどう処理するかが女性たちの本質になる。
風香は、脅迫されても自分の正義を貫く強さを持ち、
星さんも、そんな風香に感化され、画像の消去を一度は提案する。

画像の拡散という現代少女漫画的なピンチを救ってくれるのは、もちろん浬。
彼女たちの話を聞いていた浬は、星一派を黙らせるために自己犠牲を厭わなかった。
こういう影の活躍をするヒーローは好きですね。
過剰なスキンシップとかよりも断然、胸キュンです。

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少女漫画における文化祭回はコスプレ回でもある。吸血鬼 VS 貞子、夢の対決の勝者は⁉

して文化祭当日。
この学校のOBでもある燈が風香と浬のクラスを覗き、
お化け屋敷で吸血鬼の格好を拒否する浬を、上手に操り、彼のコスプレを成立させてくれた。
浬って本当に、お子様である。

その吸血鬼・浬を踏まえたピンチが今回のお話。
貞子役を演じる際に酔客に絡まれる風香の首筋に噛みつくことで迷惑な客を退散させる。
この微妙なエロは本書に必要なのでしょうか。
私としては絵柄と合ってないから止めて欲しいのですが。


文化祭2日目はジンクスがテーマ。
2日目は末弟・湊(みなと)が来校。
湊はは友達と来ているのだが、その友達は 風香を湊の「想い人」として扱っている。
湊は彼らと恋バナをしたりしてるのだろうか(かわいい&仲良し)。

意地悪な浬から風香を守る(小さな)ナイトは湊。
湊は風香と一緒に校内を回ることに緊張しているのか、右手と右足が同時に出る始末。
風香も湊には警戒心ないから手を繋いでる。
あと3年もすれば、湊は浬と同じぐらいの体格になって、
正式なナイトとして恋愛戦争に参戦できるかもしれない。
作者さん3年後の第二部、どうっすか?


して後夜祭。
風香は浬に誘われて立入禁止の屋上に立つ。
この学校にあるジンクスは「後夜祭の花火を屋上で見た2人は結ばれる」というもの。

浬は意外とジンクスとか信じるタイプなのだろうか。
きっと小学生で成長が止まっているから、ジンクスにすがっても風香と一緒に見たかったのかも。

浬の口から語られる策略としては、
ジンクスや雰囲気を利用して、風香から言わせる作戦だったようです。
これはトラウマが原因で自分からは想いを告げられないから。
風香から好意を言わせて言質と確証を取ることが浬の最優先事項なのです。

にしてもお約束だから仕方ないけど、学校単体で打ち上げる花火って、絶対こんな規模じゃ出来ないですよね。

これで浬エンドが決定したようなものです。
分かってはいたけど、燈・湊エンドが見られないのは心残りです。
そして参戦すらしなかった長兄・宰(つかさ)。
1人だけ年齢的に犯罪になっちゃうから仕方がないのか。
ただただ、斎王寺家の良心として存在するだけです。


こから湊の個人回。
この話は文化祭回から少しずつ情報を小出しにして話を進めているのが良い。

その前に一家での映画鑑賞会がある。
そういえば前々から思っていたが、風香は肌を露出し過ぎである。
特に脚が出ているのが気になる。
今回の映画鑑賞でも男性4人と一室で過ごすのに、この露出は誤解される恐れがある。
夏だから仕方がないのでしょうか。
宰あたりが風香の服装の規定をしてくれないと。

強風による不安や恐怖は『2巻』の台風回と似ている。
風で物が激突し風香の部屋の窓が割れ、思わず見回りに来た浬に風香は抱きついてしまう。
風香の方から接触をするのは初めてでしょうか。
予想外の展開に浬は赤面する。
これが彼の素の顔ですかね。
赤面するイケメン、通称「赤メン」の浬は悪くない。
いや、むしろ良すぎる。

その後も恐怖に震える風香を見かねて提案されたのが、同じ部屋で5人が寝ること。
しかも川の字ではなく、頭を寄せて円になって寝る。
すごい床面積が必要なのではないか。


んなことがあった翌朝、湊の母と目されるハリウッド女優・エマが斎王寺家に来訪する。

ここで湊が斎王寺家に来るまでの経緯が離されるのだが、これがなかなかに自己本位な理由であった。

エマは、湊の父親の春彦(はるひこ)、つまり彼女の夫が女優としての成功を望んでいたため、
湊を春彦に預けて、海外進出を試みる予定だった。
だが湊が生まれる前に春彦は死去し、湊を生んでも育てるお金を持たなかった彼女は施設に預けざるを得なかったというもの。
それからというものエマは春彦の夢を叶え、湊にいい暮らしをさせることを目標に努力してきた。

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また1人、親が死ぬ。親殺しの白泉社漫画。死という悲しい共通点が斎王寺家の繋がりなのか。

うーーん。
夫のサポートがあれば夢にも挑戦できるが、
彼が亡くなったのであれば、息子のためにも現実的な手段を採るべきだったのではないか。
目の前で泣いている息子を置いて、亡き夫の言葉に従い続ける、
そこに自分の願望はなかったと言い切れるだろうか。

これでは育児放棄と変わらないのでは?
湊の特殊性を際立てるために母にハリウッド女優を配置したのだろうが、かなり身勝手な人だ。


ただし、それはエマもしっかり自覚しているようで安心した。
自分の都合で息子の前に現れ、彼を現在の環境から連れ去る身勝手さは彼女も承知している。

しかしエマと湊の対面は 芳しくない結果に終わってしまい、エマは斎王寺家から退却する。
親子の再会が八方塞がりになって、泣くヒロインを助けるのはヒーローの役目。
そこから浬を指揮官とした斎王寺兄たちの大作戦が始まる。


確実に血縁がないと思われていた湊が本当の家族に連れされれるという展開を、
この中盤に配置し、作品と読者をマンネリから救って、緊張感をもたらす構成が素晴らしい。

別れを予感させつつも、自分の悲しみよりも湊本人の幸せを願える
斎王寺家のお兄さんたちの姿に胸を打たれる。

この4兄弟は本当の家族以上に家族になっているんだな、と確認ができた。
「おかえりなさい」と湊を迎える、珍しく揃って笑顔の兄たち(&風香)に心が温かくなる。
今の斎王寺家の中だけは嫌な人がいない安らかな空間だ。