福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
モノクロ少年少女(ものくろしょうねんしょうじょ)
第02巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
全く予期せず生徒会長(=キング)になってしまった呉羽は、思わず“辞退”の言葉を発してしまったために、生徒全員から猛反発! そんな中、考えを改め、会長をやることを決意して戴冠式に臨んだのだが、待っていたのは生徒会全員から首筋にキスを受けるという儀式で──!?
簡潔完結感想文
- ニセモノがケモノの王になる。いよいよスクールカーストの頂点だッ!
- 生徒会編。最初の企画は合宿。他生徒は ほぼ無視で生徒会内部の話のみ。
- ドS王子は絶対、家庭での愛の不足が原因。トラウマ編が早くも始まる。
展開が早い、というか早すぎる 2巻。
もうちょっと自分に対して「待て」が出来なかったかなぁ、作者。
目の前のエサを一刻も早く飛びつこうとしている姿勢が目立つ。
『1巻』のラストで、この学校の異分子である主人公・呉羽(くれは)が、
生徒会長になるというサプライズを用意していたところまでは大変よかった。
だが、これから学園モノとして生活が これまでとは違った視点で描かれると思ったら、
早くも物語の主題を学園の外に置いてしまったことが非常に残念でならない。
もうちょっと前代未聞の生徒会長・呉羽が学園にもたらす影響を描いて欲しかった。
この世界での呉羽の異質さを前に出す前に、生徒会としての任に没頭してしまうから、
悪い意味で彼女が学校に馴染み過ぎてしまった。
もっと価値観の違いとか、周囲との対立または協力、そこから得られる信頼感など描くべきことがたくさんあったはず。
そうしたエピソードを挟んだ上で、次の話題に進んだ方が読者も一呼吸 置けたのではないか。
作者のスピード感は好きだが、もう少し緩急を巧みに付けてほしい。
性格が歪んだ男性キャラが好き過ぎるのも問題だ。
そして生徒会周辺の人以外の扱いが なおざりで のけもの にしてるのが本当に残念。
一番 偉くなったら、この学校の役割はそこで終わりなのか。
『2巻』での学校イベント・オリエンテーション合宿も、
ケダ高生徒たちの交流だけに専念して欲しかった。
前作『悩殺ジャンキー』は仲間を集めるRPG的な要素があって、
それによって世界の広がりを感じられたが、
本書は最初から最後まで主人公たち4人が舞台の中心から動かない。
更には登場人物の過去や家庭に問題がある、白泉社お得意のトラウマ設定だ。
生徒会の4人、特にヒーロー・右京(うきょう)の背景ばかりを描き込んでも息苦しいばかり。
序盤は呉羽のレベルアップに専念して欲しかったなぁ。
そんなこんなで生徒会編のはじまりはじまり。
生徒会の補佐役の黒蘭(こくらん)がハイエナ国というのは動物のイメージと彼の役割を重ねたからか。
生徒会選挙期間に各生徒が「必死で努力してトップ目指した」というが、その描写が圧倒的に足りない。
呉羽の回想の1コマも必死というには無理があった。
余裕のあるエリートか、蚊帳の外にいた呉羽しか描いてないから説得力がない。
生徒の99%をモブとして片付けるのはいいが、必要な場面まで切り落としてしまっている。
会長就任演説の原稿を手伝ってもらった呉羽が右京にお礼も言えないのは、
ツンデレのツンが強いのと、彼女がケモノを心のどこかで下に見ているからだろうか。
人間もまたケモノの一種だということを理解していない様子。
選民思想があるのは、呉羽の方だろう。
いつか痛い目に遭うのか、それとも彼女の意識の変化が焦点となるのか。
呉羽のアドリブの就任演説は内容的に全校生徒に向けてではなく、右京たちトップ3に向けてですね。
だって呉羽と他生徒は交流を一切していないから(クラスメイトは少しあるが)。
いい場面なんだけど、やっぱりモブを無視している気がして爽快感がない。
そしてケダ高の校則は後出しされるのが原則。
ただ 今回の首筋に口付けの儀式はケモノらしくて非常に良い。
口付けは儀式だから「しなかったら校則(オキテ)破りでエサ決定」。
スキンシップを巡る攻防に胸きゅん成分が多く配合されております。
ここで「ギフト」の存在が初登場となる。
「ケダ高をトップで卒業すると人間になれる」のが「ギフト」。
連載が長編化できそうなので、ドラマ性を足したという感じでしょうか。
「幼稚舎・初等科・中等部・高等部と4回ギフトが用意されてる」。
なぜ大学がないのかは不明。
きっと大学を設置すると、漫画的に面倒臭いことになるからだと思われる…。
ちなみに、この後もこの学校全体のことを「ケダ高」と表記しているが、「ケダ校」が正しいのではないか。
いや大学がないから、中等部などもケダ高が母体で、その付属高校になるから「ケダ高」でいいのか。
まぁ いい、この作者はそんな詳細を詰めていないだろうし。
ちなみに そんなケダ高の縦の繋がりは一切 出てきません。
話に詰まったら、付属校から新キャラを出すのは容易だったろう。
それをしないのはケダ高に誰かの弟妹がいる設定は難しいからか。
あとは結局、生徒会の4人以外はどうでもいい説(しつこい…)
各学年100人余りの内、人間になれるのは基本的に4回の卒業で4人のみ。
あとの90人以上は進路をどうするのでしょうか。
あと、幼稚舎での「ギフト」の贈呈って無理があるような…。
6歳の子に二度と戻れない選択をさせるんでしょ?
これは『1巻』の感想文でも長々書きましたが、
ケモノが人間になるメリットというのは何なんでしょうか。
各ケモノ国の王族から、人間の一般人になる利点が全く明かされません。
ケダ高という非効率な装置は謎ばかり。
これも ただただ、人間の呉羽とケモノの右京との種族の差の問題点解消のためだけの設定にしか思えない。
そんな右京は人間になりたい。
ただし「お気に入りの人間の女の子を守るため」。
それは中等部の時の「ラビット」プログラムのウサギであることが明かされる。
伏線をバンバン張って、長編化の準備は整いました。
生徒会最初の仕事は学校イベント、オリエンテーション。
まずは宿泊先を投票で決めることから提案する呉羽会長。
ここは人間である呉羽の意外なアイデアがよく表現されている。
また彼女の意外な常識性に驚く。
もっと独裁政治を敷くのだと思っていた(笑)
その間に、初等部設定が活かされて成績トップ3の出会い編が挿まれる。
その時の会話によると、ケモノの国では、何らかの基準に達するとケモノから人型になれるらしい。
小学4年生の段階で人型になれるのはレア。
…ってことは幼稚舎で人型になって「ケダ高」に通う人は ごく少数なのか?
その想い出の中で、右京はずっと血の繋がりが全くない義兄に搾取されていたことが分かる。
これがオリエンテーションへの大事な伏線。
しかし そんな右京の悲しい思い出を共有しているのに、
茅(ちがや)はその義兄に協力している様子。
恋愛面で問題を抱える呉羽と蝶々(ちょうちょう)と同じように、
男性陣も いつまでも仲良しこよし とはいかないみたい。
右京のトラウマが発表されたところで、行き先は右京の出身国・クロヒョウ国に決定する。
飛んで火にいるなんとやらである。
オリエンテーションを直前にして、
右京の暴言が元で、呉羽が学校からの脱走を試みて初めて成功する。
そこから一足先に、生徒会によるケモノたちの異文化交流体験が始まる。
そういえばケモノ側の脱走はないのだろうか。
前述の通り、人間になれる確率は4/100程度。
成績下位に沈んだ生徒が脱出を試みることも当然、考えられる事態。
ま、結果的にそんな描写はないんですけどね。
成績が下の下のモブに構っている暇はないんです。
人の世界の中で、最初に呉羽のニオイを嗅ぎ分けるのは茅。
普通ならオオカミである蝶々のように思うが、
男性たちの密かな戦い、もしくは右京をヒーローにするための展開です。
続いて、右京も彼女の涙のニオイを探し当てる。
こういう時は呉羽をチビブスと言わないところが上手いなぁと思うところ。
チビブスという罵倒は口に出す時に意識して言葉を選んでいる。
右京の心の中では ずっと呉羽と呼んでいるのかもしれない。キュン!
『悩殺ジャンキー』のウミとナカがブランド「junk」のポスターでカメオ登場。
横断歩道で交通事故に遭った呉羽の両親。
だが今回、横断歩道で動けなくなっている彼女を助けるのはケモノたち。
こういう対比は本当に上手ですね。
1話1話確実に面白い話を創作してくれるところは信頼しています。
そして4人で呉羽の両親の墓前で手を合わせる。
しかし考えてみれば、呉羽は月に1回の帰省日に、ここに来るべきではないだろうか。
帰るところはないが、両親に現状を報告することは出来る。
徒歩でも行ける場所なら尚更だろう。
こういう所も両親がいないという設定だけ拝借して、
本当に大事な人を亡くした人の悲しみをちゃんと表せていないように感じる。
墓前に挨拶は少女漫画的に結婚フラグの一つ。
そして この一件が、右京を母国への帰郷を覚悟させるという流れも見事。
そういえば養子として連れてこられた右京。
本当の親はまだ存命なのだろうか。
作者のお気に入りのキャラ、右京の兄・黄苑(きおん)を中心に据えすぎて、
本当の親や血の繋がりの無さは、問題にしていないのが気になる。
右京と呉羽の本質的な類似性(両親の不在)は議題に上がらなかったなぁ…。
どうしても右京を「王族の人」として扱いたかったのだろうか。
紆余曲折あって、開催されるオリエンテーション合宿。
でも学校の生徒たちは、他の種族だからクロヒョウ国に入っても城の敷地内からは出られない。
「他国の獣、しかも王族がうろつくなんて危険すぎ」るから。
やはり動物国は1種族だけで繁栄しているのか。
ってか国の食料はどこから調達しているの??
にしても社会科見学にもならない、軟禁されにいく合宿って楽しいのかな?
そんな閉鎖性を逆手に取ったのが生徒会考案のレクリエーションなんだろうけど。
クロヒョウ国はビルの国。
ドバイ的な超高層ビルがそびえる街並み。
ここに住む彼らが一体人間界に何を求めるのか、やはり分からない。
そして王族の城は ただのオフィスにしか見えません…。
黒蘭に騙されて城外に出てしまう呉羽。
街には人型とケモノ型の国民(クロヒョウ)が混在している様子。
そして ここで再びのホラー映画。
呉羽、久々のエサ要員です。
にしてもケモノたちは人型の呉羽を見ても食用だと思うみたいですね。
まさか、食用のウサギでも人型になれるのか。
そして それを屠殺(とさつ)するのか?
もはやそれは殺人現場の光景である。怖い!
そんな窮地は自分で切り抜けず、助けられるのが呉羽のデフォルト設定。
彼女を助けたのは、眼帯の王子、右京の義理の兄・黄苑(キオン)。
城内に戻った黄苑は右京を認め、彼に服従の姿勢を取らせる。
学校で威張り散らしていた男が、目上の黄苑に 跪(ひざまず)いているショッキングな場面。
しかし これにはイジメの連鎖とか虐待の連鎖を連想した。
ストレスを溜めたケモノが苛立ち、
そしてカーストの最下位がチビブスと罵る。
右京の心の弱さがこういう所に出ている。
ただそんな彼女が学校の最上位にいるというのが面白い点ではあるが。
右京の恋情や友情が実った時を見計らって、それを刈り取ることを至上の喜びとする黄苑。
予想通り、型破りなヒロインである呉羽が黄苑に反旗を翻したところで、この巻は終わり。
白泉社に限らないが、ヒーローの家庭の事情はヒロインが足を突っ込むのが定石です。