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6巻の表裏を迎える「隣あた」野球大会。三宅くんのエラーによる失点で得点差が僅かに!

隣のあたし(6) (別冊フレンドコミックス)
南波 あつこ(なんば あつこ)
隣のあたし(となりのあたし)
第06巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

三宅(みやけ)との恋に夢中になっていく仁菜(にな)に、京介(きょうすけ)は苛立ちを隠せない。いつもと違う京介に、想いが揺れる仁菜。そんな仁菜を見て三宅は――!?さらに、お泊りありの受験対策合宿で、2人の距離は縮まって……。三宅の熱い吐息!京介の意外な言葉!!仁菜の心が揺れる!!!激ヒット!南波あつこのリアルで切ない純情ラブ!

簡潔完結感想文

  • 目に入るもの。この世で一番 見たくないものを見て気づくのは醜い自分。
  • 目で追うもの。君が何を見ているか、君を見ている俺には分かるから…。
  • 目指すべきもの。自分にできる最大限の努力で一番いい関係を模索する。

に汗握る試合展開を演出する 6巻。

『隣あた(となあた)』は野球の試合である。

主人公・仁菜(にな)の隣に住む京介(きょうすけ)が高校で野球をやっているので、
野球を例にして話を進めます。

仁菜を巡って京介と試合をする三宅(みやけ)くんの初登場は『2巻』
なので全10巻の物語ですが、2巻~10巻の9回の裏表で勝負が決まる。
といっても『2巻』の三宅くんの登場シーンなぞモブに近いですが…。

そしてこの例えだと巻数と回数が一致しないのが もどかしい。
やっぱり1話から名前入りで登場していて欲しかった、と作者を恨む。

『3巻』の裏の攻撃で存在感を見せ始めた三宅だが、
『4巻』で大量得点をして、『5巻』でも安定した活躍を見せいく。

このままではワンサイドゲームになりそうなので、
作者によるゲームバランスの調整が入るのが『6巻』ではないか。

『10巻』最終回の攻撃でどちらが逆転ホームランを打つのか、
読者に その可能性をどちらにも残すのが作者の目的だろう。

『6巻』では まず京介が久々に緩急自在の攻撃を仕掛けます。
京介は近づいたと思ったら遠のいて、仁菜の精神を揺さぶる。
隣同士の地理的条件や仁菜がずっと自分を応援しているという幼なじみの自信がプレーに出ている。

そして その京介の攻撃が間接的に三宅の精神状態に焦りを もたらすことになる。
京介が自在に距離を操るのに対し、三宅は急接近という強引な手法しか採れなかった。

その失策から失点を重ね、得点は僅差ぐらいになったのではないか。

三宅というプレイヤーが完璧すぎて、
京介は彼の自滅を待つしかないのが悲しいところ。
さてゲームも後半戦を迎え、どのような攻撃が繰り出されるか楽しみである。


んて野球で例えると面白いゲーム展開であるとは思いますが、
実際のところは、宙ぶらりんな気持ちが続く中弛み寸前の中盤とも言える。

それを胸キュンと胸イタを交互に織り交ぜることで緩和している。
(ちなみに胸イタとは胸が痛いの略で恋に痛手を負った時を指す、今考えた私の造語である)。

まずは京介。
『5巻』の三宅との天体観測デートのフォローをした京介にお礼を言う仁菜。
そんな彼女を壁ドンならぬ窓ドンをして呼び止める京介。

三宅とは身体を寄せ合う場面を京介は見ている、
しかし京介の身体が接近しても仁菜は恐怖心で身をすくめるばかり。
それが現時点の自分と彼女の距離だと思い知り、京介は身を引く。

だがベランダで別れた京介の姿を目で追ったのは仁菜だった。
そこに彼の姿がないことに落胆する仁菜。胸イタです。


いて三宅による胸キュンと胸イタのシーンは学校主催の勉強合宿で起こる。

まずは前振りから。
合宿地である「県立セミナーハウス」と同じ敷地内の県営球場で、京介の高校が試合をしている。
仁菜と京介は常に ニコイチで、というか京介の彼女である麻生(あそう)・三宅も含めてヨンコイチで動きます。
もはや隣のあたしたち、である。

その試合で京介は1年生ながら試合に出場し、試合を決めるファインプレーを見せる。
三宅にとってこれは見たくないものだろう。

そして仁菜にとって見たくないのが、麻生を「彼女」と紹介する京介の姿だ。

試合を見て京介のファンになった他校生から麻生がやっかまれる事態に。
京介はホント、女性の窮地に身体が動くジェントルマン仕様ですね。
その優しさがかえって女性たちを苦しめているというのに…。

京介は中学時代も女子生徒に人気があったが、
仁菜が常時 隣にいたために、彼女が防波堤(邪魔者)になっていた。

美人設定の麻生の彼氏として やっかまれたりしないところを見ると、
京介も かなり外見に恵まれているのだろう。

学校が別になり仁菜がいなくなった途端に京介にモテ期が来るのも自然なことかもしれない。


の日一日、京介の格好いい姿ばかり見た三宅は、合宿の夜に焦りを募らせていた。

修学旅行や合宿の夜に先生の見回りをどう回避するのかは少女漫画の お約束シーン。
椿いづみ さん『月刊少女野崎くん』でも そこに焦点を当てた回がありましたね。

今回は、身を寄せ合って2段ベッドの下段にある壁に隠れる2人。
これが胸キュンシーン。

しかし精神状態が不安定な三宅くんに変なスイッチが入る。
キスをして仁菜を押し倒してしまう。

サイテーの場面ですが、冒頭に書いた通り、
これは作者が今後の試合展開を面白くさせるために描いた三宅のエラーでしょう。

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破壊力抜群のゼロ距離射撃。三宅は人の傷つけ方を熟知しているのかもしれない。

この胸キュンシーンが胸イタシーンにもなる。
それが仁菜を押し倒した三宅くんが言った言葉。

「なんで いつも 橘(たちばな・京介のこと)先輩のこと見てんの?」

三宅くんに そんなことを言わせてしまう彼女のあたし。
そして思い当たる節がたくさんあるサイテーなあたし。

これまでは自分が傷つくばかりだったが、
自分が誰かを傷つけることを思い知らされて涙を流す。
三宅だけでなく仁菜もまたエラーをしていた。


から仁菜は意識的に京介と距離を置き、実際に彼にも告げる。

「会いに行くとかもう あたしからはしない
 (略)きっと麻生さんも 嫌だと思うんだ……」

彼女なりの決意の言葉だろう。

でも この際、麻生に悪いという方便を使うのが姑息と言えば姑息ですね。

三宅くんの彼女として恥ずかしくない行動を心掛けたいから、といえばいいのに、
京介を傷つけないように、自分が傷つかないように、
こんな時だけ麻生に気を遣う振りをする。
誰のことも綺麗に描かないのがフェアと言えばフェア。
作者は偽善的に人物を決して描かない。
それが高じて露悪的にすら見えてしまうが…。


んな言い訳に使われた麻生を巡るエピソードが良い。
それが彼氏と元カレの写真入りの記事のお話。

先日の試合での京介の活躍は新聞に写真入りで紹介された。

それを野球部員から「見てみ 新聞 載ってんぞ 彼氏」と
聞かされた麻生の脳裏には誰が浮かんだのか。

麻生の「ぽかん口」と冷静な対応に答えはあるだろう。

彼女の頭に浮かんだのは元カレ・久米川(くめがわ)だろう。
なぜなら久米川はかつて雑誌にデカデカと写真が載った特集記事を組まれていたほどの投手だったから。

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自分は今、誰の彼氏なのか。それを忘れて行動しているのは仁菜も麻生も同じか。

それが語られる過去の回想。
やはり久米川は大学は推薦入学なのか。
そんな「野球バカ」に家庭教師を任せようとするとは…。

麻生が元々優秀だったのか、
それとも異性の前で良い格好をしようとする彼女の性格を親が見抜いていたのか…。

高校受験を終えた麻生が久米川に彼の記事を見せると彼の態度が急変。
どうやら野球の話題は触れて欲しくないらしい。

まぁ、大学野球をやっているはずなのに、あごひげを蓄えている時点で怪しかった。
(キャラクタのデザインとして大人感を出したいという理由もあるだろうが)


…って、もしかして この2つの記事対決は、京介と久米川の試合なのか?

京介は地域版の小さな記事でしかなく、
全国発売であろう雑誌の特集記事で記事の大きさとしては久米川の勝利。
でも現段階での学校における有名人の彼女というステータスが満たされるのは京介か。

ダメ男に振り回される女性を見捨てられない正義漢で動く京介、
男を自分の装飾品にする麻生。
そんな不自然な2人が京介宅の玄関先で話し合うのがラストシーン。


それを聞いてしまうのは当然、隣のあたし。
少女漫画で知りたくない情報を知ってしまう不自然さをカバーできるのも隣という設定ですね。

でも、この時に、ベランダから仁菜の部屋に侵入した圭介(けいすけ・京介の弟)が、
自分の家に帰る際は仁菜の家の玄関から出るのは不自然である。

彼、裸足だし。
ベランダは自宅の敷地(?)だが、マンションの廊下は外界だろうに。

胸キュンも胸イタも 不自然に作り出すのが「別冊フレンド」なのです。