南波 あつこ（なんば あつこ）
隣のあたし（となりのあたし）
第02巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
京介（きょうすけ）にキスをした結衣子（ゆいこ）の存在が気になる仁菜（にな）。思い切って京介に告白するも「おまえのこと、そういうふうに見れない」と告げられてしまう。いつも隣にあった、おっきくてあったかいこの場所。ずっと変わらないあたしの指定席だと思っていたのに……。それぞれの想いが交錯する青春ラブストーリー！
簡潔完結感想文
- 祭り回。迷子になった子を探す恋の迷子。差し伸べられた手が今は遠い。
- 風邪回。困っている人に優しい京介。恋以外なら何でも手助けしてくれる。
- 花火大回。例年より近い場所で見る花火なのに儚さばかりが強調される。
2回 通読すれば、それなりに理解できる 2巻。
逆に言えば、1回目では何が何だか、と言った感じです。
構想した作者の中では主人公たちの思考回路が出来上がっているのでしょうが、
初読の読者たちには理解不能な行動が続きます。
読者は誰に心を預ければいいのか分からないまま、
彼らの言動への疑問を推進力にして読み進めるしかない。
不条理小説などと同じグループに属しているのかもしれない。
まぁ、作者の作品のコントール不足という点も否めないが…。
それでも連載が続いていったのは、
人物には興味を持てないけど、恋愛を見届けたいという人が多かったからか。
あとは修羅場みられるかもしれないという野次馬根性。
実は作者は主人公が嫌いなんじゃないかという酷い仕打ちの数々。
状況優先ではあるもののドラマ性が優れているのかもしれない。
この時点でも三角関係が2つ。
そして主人公・仁菜が好きな京介（きょうすけ）と彼の野球部のマネージャー・麻生（あそう）の2人は、
その三角関係のどちらにも属しているという特殊な状況。
しっかり者のお兄ちゃんだと思っていた京介が、
殊（こと）、恋愛に関してはダメ男だったという感じだろうか。
彼自身、高校に入学した途端、モテ期が到来して、
自分に迫ってくる女性にどう対処していいか分からない、というウブな理由もあるだろう。
突然、恋愛に放り込まれて見当識を失っているのかもしれない。
これが、私に出来る精一杯の京介擁護である。
優しさが時に残酷なこともある、ということを身をもって表しているように思う。
それに巻き込まれる女性たちの悲哀が描かれる。
そして分かりやすい少女漫画的イベント盛りだくさんの『2巻』です。
イベントその１。お祭り回。
例年は仁菜と、京介と圭介（けいすけ）の橘（たちばな）兄弟の3人で行っていた お祭り。
だが今年、京介は所属する野球部の部員で行くという。
これも変わっていく仁菜の知らない京介の世界である。
幼なじみの恒例イベントだったからこそ、一緒にいられない今年に胸は痛むばかり。
野球部の待ち合わせ場所に居たのは麻生。
どうやら彼氏・久米川（くめがわ）との約束が反故にされたらしい。
京介と2人きりの時間で麻生は彼にアプローチ。
京介のことを好きだけど、彼自身は恋愛対象には見れない仁菜。
京介を彼氏の代替品としながらも、積極的にアプローチしてくる麻生。
彼を巡る三角関係でどう動くかが前半の見どころ。
突然の雨で雨宿りをする仁菜と圭介。
その向かいに軒下にいたのは男だけの参加だと言っていたはずの京介と麻生。
京介には野球部仲間がナンパに成功して どこかに行ってしまい、
麻生を放っておけない優しさから2人になったという前後のストーリーがあるのだが、仁菜が見たのは この光景。
また「ぽかん口」をして呆然とする仁菜。
辛い状況が彼女を絶望へと追い込みます。
でも仁菜は詳細を知らなくても、京介が最初から麻生といるために嘘をつかないと思う確信があった。
気分屋の彼氏に振り回される麻生にとって、全面的に好きな人を信頼できる関係性は羨ましいはず。
仁菜には麻生が出来ない信頼が、麻生には仁菜には出来ない触れ合いがある。
思い通りにならない状況を抱える2人の女性の姿があった。
その女性の間をあっちに行ったり、こっちに行ったりと優柔不断にしか見えない京介が泳ぐ。
からのイベントその2。風邪回です。
雨の中、迷子になった圭介の彼女を探し回ったために風邪を引いたらしい。
ただし迷子捜索も風邪も、自分に手を差し伸べてくれる京介を感じられた。
仁菜が困っている時こそ優しい京介だから、困るのも悪くない。
床に散乱していた雑誌に引っ掛かって、ベッドに倒れ込んでくる京介。
お決まりのシチュエーションですが、どこをどうしたらそちら側に倒れるのか謎の角度である。
そして仁菜は京介を困らせる。
京介の背中に縋る仁菜。
そんな彼女に、京介は先日の突き放すような言い方を謝罪する。
だが「お隣さん」であることを強調し、現状維持を宣言して立ち去る。
どうにもズルい男である。
麻生は京介と彼氏の久米川の間でも三角関係を演じている。
というよりも、客観的に見ればどう考えても京介は久米川の当て馬である。
こんな軽く扱われた配役の京介は被害者なのだが…。
だが京介は麻生のズルさを熟知しながらも、優しさを見せてしまう。
なぜなら麻生は困っているから。
それほど久米川の横暴ぶりは目に余る。
困っている人を見れば手を差し伸べずにはいられないのが京介。
そこからは急展開。
京介は麻生を彼女に選び、仁菜に断りを入れる。
京介のこの感情こそ、恋愛などではなく同情でしかないように見えるが…。
正式に仁菜は『ヒロイン失格』となります。
失意のイベントその3。花火大回。
いつもは両家どちらかのベランダから見ていた花火大会だが、
今年は京介の隣で見る資格がないことを知っている。
仁菜が友人たちとの待ち合わせに向かおうと家を出ると、
カップルとなった京介と麻生の姿があった。
この世で一番 見たくないもの。
涙を必死にこらえて家を離れる仁菜。
そんな彼女に待ち合わせ場所でラムネを渡すのが、
後半からの重要人物・三宅（みやけ）くんかな？
初登場は『2巻』8話でしたね。
この時点では名前は まだない。
恋の敗戦を思い知らされた仁菜だったが、
麻生もまた、京介の交際の中では どうしても仁菜の影が拭えないことを思い知らされる。
実際の交際は叶わないのに仁菜が元カノのようなポジションですね。
そんな麻生にとって、スキンシップだけが、
京介の中で自分の存在を確かに感じさせる手段なのだろう。
そして それは久米川には見られないウブな感情を京介から引き出す手段でもある。
それが麻生に女としての喜びを感じさせる。
もう二人は花火を見ていない…。
余談だが、京介の弟・圭介って数年後には仁菜のことを好きになりかねない人材だと思う。
ベランダに放置されていた仁菜と兄のメッセージボードでの交流を見て、
複雑な心境を見せていたのが、その伏線かと思った。
京介と兄弟で仁菜を奪い合う展開になると夢想したものだ。
実際には麻生がメッセージボードを見る前振りだっただけみたい。
