南波 あつこ(なんば あつこ)
隣のあたし(となりのあたし)
第03巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
近くて、遠い、彼の隣。――大好きな京介(きょうすけ)の隣に結衣子(ゆいこ)がいる。早く気持ちに決着をつけなければと苦しむ仁菜(にな)だけど なかなか、その想いを断ち切れない。そんなとき、結衣子が元カレと会っている現場を目撃! 「もう近づかない」。そう決めていた仁菜だけど――。
簡潔完結感想文
- 1冊丸ごと球技大回。2か月余に及ぶソフトボール特訓ドキュメンタリー。
- 夏休みは練習三昧。中学3年生の夏は受験でも恋愛でもなく練習に消費。
- 本番当日。夏を費やした努力の結果、巻末で主人公に朗報が舞い込む⁉
手を差し出せば振り払われ、必死に走れば足を捻挫をする、の 3巻。
相変わらず踏んだり蹴ったりの主人公・仁菜(にな)ですが、
努力をし続けた結果、『3巻』のラストで福音がもたらされることになる。
これまで奈落の底に叩き落され続けてきた彼女が、
ようやく主役として恋愛の舞台に立つ日がやって来そうである。
ただ問題は彼女が好きな京介(きょうすけ)の魅力が一向に伝わらないこと。
『3巻』でも彼はグラグラ ゆらゆら、女性たちに不誠実な男であり続ける。
今回、最も印象的だったのは京介の2つの「できない」。
京介の彼女の麻生(あそう)は、彼氏が他の女性と会うことが我慢ならない。
そんな麻生に、「仁菜ちゃんと会うのやめてよ」と言われた京介が返す言葉は、
「そんな約束できない」
夏休み中ずっとソフトボールの練習を重ねた仁菜。
そんな彼女から努力の成果である球技大会を見てほしいと言われて
「できない」
酷い。
どちらにもいい顔をするのではなく、
どちらからも嫌われようとしているとしか思えない。
京介って、とことん恋愛下手なんじゃないだろうか。
あと言葉選びが壊滅的に下手。
京介の仁菜への気持ちが、家族同然で、自分の生活と切り離すことは出来ないのは分かるが、
彼女に対しての配慮が無さすぎである。
京介は女性が自分に救いの手を差し伸べていると、払いのける習性があるのか。
自分発信の時はナチュラルに女性に優しいのに、
相手から何かを期待されると重荷に感じるのだろうか。
結婚とか向かなそうなタイプですね。
結局、自分勝手ということです。
これは作者も京介の評判を地に落とすためにやっている部分もあるだろう。
主人公の好きな人だから、というバイアスを抜きにしてみると、
ちゃんと酷い男として描かれているのは正しい。
麻生の元カレ・久米川(くめがわ)が酷いから、その陰に隠れているだけで、
京介もまた不誠実な男に変わりはない。
読者も彼に見切りをつけ始めたところに現れるのが新しい男である。
夏休みも終わったので、これで物語に少しは爽やかさが訪れるといいのだが…。
京介はずっと自分本位の優しさを見せる。
例えば ある日、京介が忘れたお弁当を仁菜が届けることになった時、
部員たちが ふざけて仁菜にもホースの水を掛けようとするのを身を挺して守ってくれた。
帰り道に仁菜が熱中症にならないように帽子をかぶせてくれた。
これらは自分から湧き出るナチュラルな優しさだ。
しかし それとは反対に打算的な部分も彼にはある。
交際相手である麻生が別の男といることを仁菜から聞いた京介は、
そのことを彼女に直接 問いただす。
あっさりと会ったことを認める麻生。
その時、京介は彼氏として言うべき言葉を言わない。
「会うなよ」
当然、言うべき言葉を呑み込むのは、
その言葉を言うことで麻生の自尊心を満たすことを理解しているからではないか。
そして言うことで、自分に彼氏という枠組みが出来てしまうからではないだろうか。
ナチュラルに優しいが、決められた役割は演じたくはない。
麻生もズルい性格をしているが、京介も似たり寄ったりである。
そして麻生が彼氏と会うことを咎めずに、
自分も異性と会うことの免罪符とするのだった…。
それが仁菜とのソフトボールの特訓であった。
仁菜が夏休み明けの球技大会に未経験のソフトボールで出場することになった。
京介の弟・圭介(けいすけ)の力を借りて練習し、
大会への意気込みを立ち聞きしていた京介は、彼女の練習を手伝うことにした。
これは自分から湧き出た気持ちなので素直に動けるのだろう
そして麻生への意趣返しであるかもしれない。
京介と離れようとしていた仁菜にとって これは朗報か それとも凶報か。
またもや身勝手な男に振り回される羽目になりそうだが…。
にしても、仁菜が学校行事の1つに過ぎない球技大会に入れ込む理由が分からない。
作者としては、仁菜の努力と京介との接点をいっぺんに演出できると考えたのだろうが、
目的ばかりが先行していて、不自然さが否めない。
ここは その前に、他のメンバーが ほぼ全員ソフトボール経験者とか、
ソフト部首相の満ち溢れる やる気に腰が引けてしまうとか、
仁菜が追い込まれる描写が事前になければ ならないのではないか。
描きたい場面まで話を持っていくまでの脚本が ぎこちなさすぎる。
そして仁菜の中で練習への動機が変化しているのも気になる。
練習中に転んで、自分のやっていることに疑問を持つ仁菜は、
「……あたし なにやってんだっけ……? あたしが こうやって練習しても
頑張っても 圭介と まゆちゃん(圭介の彼女的存在)みたいに なれるわけじゃなくて
なんで あたし こんなボロボロになってんの……」
と思うのだった。しかし、そもそも出発点が違うじゃないか。
最初から仁菜は京介なしで練習を始めているのだ。
最初に彼女が奮い立ったのは、足を引っ張らないために上手くなろうという向上心があったからだ。
それが いつの間にかに練習の目的が京介との関係の発展にスライドしている。
作者としては、練習でボロボロになる仁菜と、
傷ついてまで京介の傍に居ようとする彼女の報われない恋愛を重ねたいのだろう。
転んでも地に這いつくばっても しがみつく姿勢と不断の努力、
それを恋愛と絡めて1つのお話にしようと試みたのだろう。
仁菜の努力を見せたい場面なのに、彼女が練習と恋愛を同一視するから
かえって仁菜の邪な気持ちが浮かび上がってしまった。
最初の純粋な気持ちを忘れて、
仁菜が練習を京介へのアピールに利用しているみたいな形になったのは残念としか言いようがない。
あと、夏場に練習するなら帽子を被ろうよ、と思ってしまう。
先の京介の気遣いも、ただの胸キュン場面のためにあったのかと、冷めてしまう。
漫画的手法と言えば それまでだが、
時間が止まっているかのような描写も気になる。
1つ目が球技大会での仁菜の最後の打席。
あがり症の仁菜(とってつけたような後付け設定)が緊張でガチガチになっている場面。
隣の高校とはいえ京介が駆けつけて、
歓声の中、仁菜には京介の声が届くまでには時間が足りないだろう。
にしても、京介は本当に人が困っていないと手を差し伸べない。
今回は仁菜の2つの窮地。
最終打席と、そして名誉の負傷。
これを助けるために動く。
大事なのは頼まれてないこと。
頼られたくはないのだ。
それもこれも彼をヒーロー的演出のためなのだろうが、
球技大会を見ないという前言を撤回したり、交際相手を傷つけたり、
自分の行動に責任を持たない男である。
そして もう1つが、麻生が故意に仁菜と男子生徒の下校を京介に見せようとする時。
麻生が仁菜の姿を見つけ、悪意をもって京介を誘導して、
自分たちと彼ら4人を鉢合わせしようとするのだが、
いくら仁菜が足を怪我しているとはいえ そこまでの往復でかなり時間がかかるだろう。
というか説得力を持たせるのなら、その前に仁菜が怪我で歩くのすら苦労しているとか、
男子生徒が歩く速度に気を遣うとか、一コマでも入れればいいのに。
こういう細かい配慮が足りないと思う。
ちなみに、この男子生徒というのが三角関係の一角を担う三宅(みやけ)くんです。
『3巻』にて名前が正式発表となりました(初登場は『2巻』の花火大会)。
その前夜、試合中に怪我を負った仁菜を見舞う京介。
あれだけ麻生から言われているのに、忠告は聞かず、
自分の思うままに ベランダを乗り越え、彼女の部屋で寝ている彼女を発見。
まったく、自重しろっての。
そんな彼女にキスをしようとする自分に戸惑う京介。
いよいよ、両想いのフラグが立つ予感がする。
更には、仁菜のモテ期が到来。
読者として誰も好きにならないが、やっぱり恋愛の行方は気になる。
ちなみに球技大会は2日に分けて行われるらしい。
組ごとの3学年合同チームなので、多くて6か8チームだろう。
勝ち上がり方式なら優勝まで3試合で終わると思うが、なぜか2日に亘って実施。
総当たりの予選でもやっているのだろうか…。
あと、本書の手書きの文章に ずっと違和感がある。
作中の説明不足を何とかフォローしようとする意味合いが強すぎる。
自己弁護に見えて、書かなきゃいいのに、というものが多い。