みきもと 凜(みきもと りん)
きょうのキラ君(きょうのきらくん)
第04巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
「オレはニノンが好きだ。」やっと自分の本当の気持ちに気づいたキラ。それをすぐに伝えたくてニノに会いにいくけれど、なぜか緊張して言葉にできずじまい……。お互いに惹かれてるのに、ちょっぴりもどかしい恋の行方は!? なにげない日常に二人が紡ぐ、天国に一番近い恋。
簡潔完結感想文
- 誕生日も お互いを想う気持ちも同じ。手始めに髪の匂いから同じになろう。
- 捨て猫を拾って。自分のために無理をする父親への罪悪感に悩むキラ君。
- 背中を押すもの。ヘタレ気味のキラ君の背中を押したのは当の彼女の優しさ。
語弊があるのを承知で言えば、一番幸せな 4巻。
何度も言いますが、本書は全体の構成が秀逸です。
ペース配分が絶妙!
孤独な魂が惹かれ合う『1巻』、
そして自分が誰が好きなのかが分かる『2巻』と『3巻』、
『4巻』は その想いが重なるまでを描いています。
1巻丸々使って、じれったさと もどかしさを存分に描いております。
といっても11月12日の夜~11月29日(?)の10数日のお話。
ただし余命10ヶ月となったキラ君から見れば18/300の時間経過。
これは残りの人生の約1/15。
16歳の彼らの平均余命は また70年近くあるのに。
その1/15と考えると4年以上になる。
キラ君の18日は、健康な人の4年以上と同等なのか…。
改めて彼に残された時間の少なさ、進む時間の速さに愕然とする。
なので冒頭で書いた通り、『4巻』巻末が彼らの幸せのピークとも考えられる。
ラストで想いが重なる2人ですが、これからは得た幸せを失う恐怖とも戦わなければならない。
幸せになるよりも、幸せでい続けること、
悲しみに耐え抜くことが求められる彼らの恋愛。
少女漫画では両想いが一区切りになることも多いが、
ここからが本書の、彼らの恋愛の真価でしょう。
読者も覚悟を持って見守っていかなければなりません…。
11月12日、誕生日当夜、親近感を覚えていた養護教諭の設楽(したら)先生の家で
キラ君は自分が誰を好きかを自覚した。
設楽先生はキラ君と同じ、未来を断ち切られるの悲しみを持っていた。
人生の暗闇の中で一緒に立ち、安心できる人、それが設楽先生だった。
だけどそれは同病相憐れむの同族意識であり、恋愛感情ではなかった。
まだ恋を知らないキラ君だから誤認してしまったのだ。
でもニノンという光を知って、恋の温かさを知った。
この恋はキラ君の側も初恋なのです。
性経験が豊富な初恋男子がここに誕生します。
ヒーローは数々の女性と契りを結んできたのに、
ヒロインとの恋を「本物」とするために、色々と試行錯誤を重ねるのが少女漫画。
中には、説得力に欠けて愛が軽く見えることもある。
(多くは)高校生の恋愛だから それでもいいのだが、
結婚や永遠を持ち出す割に、愛に以前の恋愛との確固たる違いがないと
言葉だけが上滑りする関係に映ってしまう。
だが、本書はそこに説得力のある理由を用いる。
それがキラ君の虚弱体質と、病気である。
これまでのキラ君の恋愛は、いわゆる思春期・反抗期の恋愛。
なりたい自分と自分の現状の齟齬に苛立っていたキラ君は自分を虚飾するしかなかった。
その中で自分を乱暴に扱い、男女の関係も割り切っていた。
それが いよいよ余命が1年を切り、自分の虚飾を悔恨する最中に、
ニノンと出会い、素顔のままで関係を結ぶ。
嘘のない人間関係の中で見つけ出した自分の恋心は、自分でも意外なところにあった…。
そうして駆け付けた(速足が限界)ニノンの家で、
彼女の誕生日パーティーに参加することになったキラ君。
ニノンの誕生日にはパパがメガネを外してくれるらしい。
ちなみに父のメガネは存在を地味にするため。
理由は「父の素顔を見た者は父の虜になってしまう」から らしい。
ここにも少女漫画のような変身ヒーローキャラがいました。
いつか ニノンの両親の出会いを描いてほしいなぁ。
2人の女性の内、1人を選んだキラ君。
だが、彼はここで初恋ならではの恋の難しさを知ることとなる。
それが告白の気恥ずかしさ。
ここから両想いだけど、想いが双方向にならない もどかしくもニヤついてしまう状況が生まれます。
この時点が一番 好きという、ある意味でフェチズムに近い感覚をお持ちの方もいるのでは?
私はその一人です。
ハッピーエンドの手前の焦らしプレイが好きです。
そんなフェチズムと近い感覚なのは匂いでしょうか。
誕生日のプレゼントとして「キラ君の髪の毛わしゃわしゃ してみたい」ニノン。
キラ君の髪の手触りと、匂いを堪能するニノン。
そんな彼女にキラ君は翌日にニノンに自分が使っている洗髪料を贈る。
ここには自分色に染め上げるという願望があるのでしょうか。
そういえば咲坂伊緒さん『アオハライド』でも、
男性の髪が匂っている描写がありましたね。
女性の方は美容などに気を遣わないから最安値のシャンプーだった。
女性が色づくのは、シャンプーや匂いに気を遣いだすのが第一歩なのかもしれない。
ちなみに一度はキャンセルされた誕生会のフレンチ料理の堪能は後日に行われた模様。
しかし感想だけで、その場面はカット。
これは、好きな人と雰囲気の良いお店に行くのも胸が高鳴るが、
きっと本書で描きたい胸キュンは別種のものだからだろう。
できるだけ等身大の彼らの描写に努めているようで、この構成にも好感が持てます。
ニノンは一人で外出した際に、設楽先生と遭遇。
そこで設楽先生は自分の過去を話す。
この場面、キラ君の恋愛問題に既に決着が付いてから、
彼女の事情を明かす構成が好ましいです。
しかも設楽先生がキラ君には話さないところが格好いい。
キラ君に追い縋ったり、トラウマ自慢で相手を引き留めるようなことをせず、
ただ淡々と、何の見返りもなく、ニノンには事情を話す。
というよりも、これはキラ君や、間接的にニノンの応援している。
彼女は大好きな人が突然この世を去る悲しみを知っている。
その暗闇を知っているからこそ、キラ君は彼女に惹かれた。
そして遠からず、その悲しみを味わうニノンに心構えを伝える。
設楽先生が一気に善人と化します。
ニノンのアドバイザーとして これからも彼女を支えて欲しいなぁ。
キラ君が猫を拾ったことが、様々な問題に派生する。
一匹の猫を通して、色々な問題を露わにしていく手法が秀逸です。
本当にお話作りが上手くなったと感心してしまう。
炙り出される問題の一つが、キラ君の親子問題。
猫を飼ってもいいという父親の言葉はキラ君をかえって傷つけていた。
それは自身が猫アレルギーを持ちながら、
息子のために自己犠牲の上で彼の幸せを願うからであった。
勿論、生まれ変わったキラ君は、その父を誇りに思い感謝もしているが、
自分の治療費に多くのお金を充当しようと、
サラリーマンから水商売へと職業を変えた父親に罪悪感も覚えている。
更にはキラ君が父子家庭であることも大きく関係していた。
それがキラ君出産時に、母親が自分の命に代えても彼を産んでくれた事実だった。
母が命と引き換えに、そして父が安定と引き換えに繋いでくれた この命。
だけど その命は1年後には消えようとしている。
その無力さと無償の愛に応えられない情けなさでキラ君は心境の整理が出来ない。
それを救うのはニノン。
いや、ニノンが聞いたキラ君の父親の言葉。
まさか『2巻』のキラ父との初対面が伏線になっているのは予想外!
本当に素晴らしい構成です。
高校生の恋愛だけじゃなく、親子愛まで しっかり描いてくるとは…。
そして拾った猫の飼い主として名乗り出るのが矢部(やべ)。
猫をキッカケに矢部はキラ君と話す機会を得る。
直接的な距離間は縮まらないが、
猫の受け渡しの際にキラ邸を生で訪問出来たり(グーグルマップでは調査済み…)、
写真を撮ったりと矢部のストーカー心は満たされた模様。
更にはニノンとも2人きりの時間を得て、
ニノンに自己肯定してもらい、彼もまた虚飾を脱ぎ始めかけているように思う。
偽りのキラ君を信奉したために、自分を偽り始めた矢部。
当初こそ、偽りを脱ぎ捨てたキラ君に対し怒り心頭に発していたが、
彼もまた ありのままの自分を愛せるところまで戻ってこれた。
この友情(を一部超えた愛情)がどんな結末を見せるのかも楽しみである。
2人を取り結ぼうとするニノンが、キラ君の嫉妬心に火を付けてしまう流れも自然だ。
自分の認めた人には とことん警戒心が低いニノンに矢部が変なことをしなきゃいいですが。
ちなみにニノンの誕生日プレゼントのために、バイトをして自分でお金を稼ぐことにしたキラ君。
人生初バイトだろうか。
確かに競馬で当てた金(馬券の購入は20歳になってから☆)じゃ 体裁が悪い。
こういう普通の男の子の、普通の青春も彼には必要だろう。
彼がニノンに何を用意したのかが分かるのは次巻(のはず)。