《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

この漫画の歌は、魔法少女アニメの浄化技。マリアの歌が響けば、どんな問題も解決。

悪魔とラブソング 11 (マーガレットコミックスDIGITAL)
桃森 ミヨシ(とうもり みよし)
悪魔とラブソング(あくまとらぶそんぐ)
第11巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

目黒とマリアは、とうとう恋人同士に! けれど、いまだに声の出ないマリア。原因は自分の過去と関係があるのでは、と考えます。昔住んでいた横須賀へ目黒や優介たちと行きますが、そこでマリアが出会ったのは…!?

簡潔完結感想文

  • 触れたいけど触れられない。触りたい欲望も助けたい願望も躊躇させる目黒の右手の傷。
  • 宿命の地へ。声を取り戻すために全ての始まりの地へ向かうマリア。愛をとりもどせ
  • 世界を繋ぐ輪。血縁者たちは皆いい人なので全てを赦す。だってあと2巻しかないので…。

通の利かない、お役所仕事感を受ける 11巻。

『11巻』の内容は主人公・マリアにとって非常に大事な場面の連続だ。
だが、それを無理矢理に1巻の内に終わらせようとする性急さを感じた。

ここに事前に設定した工程表通りに物語を進めようとする印象を受けた。
続く『12巻』で目黒の問題の解決、
『13巻』で まとめ&大団円と分かりやすい割り振りになっている。

これは前編の「あんな編」の失敗を教訓とした結果なのだろうか。
どこに向かっているのか、いつまで続くのかが分からなかった「あんな編」。
近づいては反発の繰り返しが読者の心の離反を招いた。
だから事前の計画とスピード感を念頭に置いた連載計画になったのか。

「クロス・黒須編」辺りで出版社の担当者が交代したの影響もあるだろうか。
物語がちょっとキレを増したように思う。
それは悪く言えば頭でっかち なのだが…。

作品も、マリアの人生もずっと暗かったのに、
『11巻』の内だけで方向転換して「良い人変換」されても読者は面をくらう。

クライマックスの一つといっていい重要な場面なのだから、
ページを贅沢に使っても良かったのではないか。

作中の時間、2日間で3人、もしくはマリアも入れて4人の人間が改心するのは展開が速すぎる。

いじめ描写で1か月以上、4巻分使われていたのに、
同じぐらい大事な場面は2日間で1巻分だ。
性急と言われても仕方ないだろう。


分の声を回復することが、
目黒(めぐろ)との触れ合いの契機となることを悟ったマリア。

目黒がマリアの願望を叶えるためにコンサートに出たがったように、
マリアは目黒のため失われた自分の声を取り戻そうとする。
それが彼女の動機となる。
お互い相手のために成長する恋愛ではあるんだよなぁ…。


今回は前回よりも直接的な行為にもかかわらず、
目黒が自制できたのは互いに失ったものを感じるからか。
自分の手は思うように動かず、自分の名前を呼ぶはずの声は彼女から失われている。

ただ今後も目黒は自分本位に失敗しそうな雰囲気がある。
この2人はトライ&エラーで距離感を詰めていくしかないのかもしれない。


マリアは自分の両親の記事のコピーを目黒宅で見つけ、この問題に退治する。
しかし家族が見るかもしれない楽譜の中に、雑誌のコピーを入れておくかね。
ちょっと不自然な流れだ。


ったものを庇い合うように生活する2人。
傍から見れば、それは仲の良いカップルの姿だ。

だが、精神的な問題であるマリアの声よりも
震えや力の入らない目黒の手の方が心配に写る。

マリアは自分の因縁の地、
自分の生まれる理由となった横須賀へ向かう。
提供はJRか それとも京急か。

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目黒は『11巻』で何回 右手を出しただろうか。学べよ!とも思っちゃったけど(苦笑)

駅で出会った黒須や、マリアのことが心配で追いかけて来た目黒、
そして神田(かんだ)も含めて、女王様と3人の騎士たちで かの地へ向かう。


横須賀は幼いマリアが母親と暮らした地でもある。
世間から好奇の目で見られている中でも地元で暮らし続けたらしい。

若い身空で外界に出られなかったのか。
でも、それにしても実家の両親に近すぎるような気がする。
若いからこそ自分と関係のない場所に行ける気もするが。
全てを1つの地に集約したのだろうか。
ここも1巻内で話をまとめようとした弊害か。

自死したマリアの母親や、噂好きのオバさんが言う、
「失敗したこども」という言葉に違和感がある。
避妊に失敗したわけでもあるまいし。
嫌な言い方だが、望まぬこどもとか、もっと下品な言葉なら分かるが、
この失敗というのは何を意味しているのか?

キーワードとして悪魔とか天使とかラブソングとか、
作品内で使いたい言葉があるのは分かるが、
どうにも使いたいという気持ちだけで適切でない場合が多々見られる。


リアら4人らのパーティーが冒険する横須賀クエスト。
時間が無いので解決までは一直線。
電話一本で祖父母の会社に辿り着いてしまう。

そこでマリアは自分のクロスが母親のかもしれないという可能性に思い当たる。

では あんなが持っていたのは?
2人にクロスを渡したのはシスター・サラ。
マリアが聖カトリアを退学になった原因でもある彼女も重要な人物なのだろうか。
そして あんなに渡した理由は?

マリアの母親の名前は杏奈(あんな)。
高校で あんな と出会ったのは運命だったのか。

祖父母との再会で判明したのは、
マリアが一人暮らしをするマンションは祖父が購入したもの。
母の死後、祖父母に懐かない彼女をそこに送った。

在日米軍兵の性的暴行を受けた娘に、
彼ら両親(マリアの祖父母)は最初は裁判をして戦い抜くつもりだった。
しかし経営する会社には借金もあり次第に示談金に考えが傾いていった。

示談金によって経営が大きく回復、発展していったことは、
彼らにとって娘よりも会社を取ったと苛む結果となるだけだった。

しかし一体いつ、マリアの母・杏奈の妊娠は分かったのだろうか。
まるで最初から妊娠を前提にして話が進んでいる。
妊娠発覚とか産むまでの経緯とかそこは省略(時間が無いので)。

こういう場面を1ページ・数コマの中に描いてくれると奥行きが出来て、
物語に深みが生まれるんだけど、表層上のことしか なぞらない。


須は あの学校を取材したテレビ番組(『4巻』前後)で「父親」のジョンの事情を知った。
彼の実の娘と会うために十塚(とつか)高校に入った。

しかし それと同時にジョンの罪も知ったと思うが、それはどう消化してるのだろうか。
ここも省略。
急ぎ足で歩いて、抱えていたモノをポロポロと落としてしまっている。


最初から謀っていた黒須の企みに目黒は激怒する。
傷を負った右手で彼を殴るほどに。
「憎しみなんか 知らねえままでいいだろうが!!」と激高する目黒。

でも私は黒須の方が正しいように思う。
マリアが「真実を知ることで前に進んでいく人」だからこそ、この地に来た。
彼女が声を取り戻したい動機の大部分は目黒なのだ。

目黒は一体どんな解決策があると思っているのだろうか。
彼の言う憎しみ=父親のジョンということなのだろうか。
会えるのに会わないで、欠けたピースで心を埋めればいいのか。
目黒の過保護が過ぎる。


リアは目黒の傷を治すためなら神頼みもする。
自分の中に憎しみも持たないと約束する。

…という言葉は一瞬で撤回され、今度はマリアが父親に殴りかかる。

これは今度は『10巻』で我を忘れてマリアを襲った目黒のように、
マリアが目黒のことを考えられないほど怒りで我を忘れたってことなのか?
2人とも言葉だけの頭でっかちさん かよ!!


ようやく この頃になって目黒は自分の手が動かなくなる可能性の恐ろしさに気づき始める。
その恐怖心から彼もまた相手より自分を優先してしまう。
自分が万全じゃないと、相手にも全力で向かい合えない。
自分の暴走が招いたこととはいえ、目黒は二重に内面の汚さに気づいてしまう。


ョンの「子供」と母の手紙を助けに入った海でマリアは溺れる。

マリアが沈んだ暗い海で彼女の居場所を知らせたのは彼女のクロス。
彼女が母親の愛を信じる根拠となる一つの奇跡です。
この宗教体験のような奇跡が後の彼女の寛大な心に繋がるのかな。

ここでの神田の人工呼吸キス。
劇的だけど気道をしっかり確保しないと、と細かい点が気になる。


そこで語られる両親の顛末。
だが、厚顔無恥に手紙を送るジョンも、それに返事をする杏奈も全く思考が分からない。

他に繋がりのない杏奈だから、彼女のマリアへの言葉を今に伝える方法はこれしかないのだろう。
けれど不自然さの方が勝る。

2人の特殊な関係性や思考に もっと紙面を割かなければいけなかったのではないか。
駆け足に事実だけ述べても読者は置いてけぼりである。

特にジョンは、毎日、手紙を送るぐらいなら理性を保てなかったのか。
でも目黒にも前科があるし、「男はケダモノ」が本書の前提みたいだ。


また杏奈は手紙で書くことで何を実現したかったのか。
ジョンに何を求めていた?
ジョンに手紙を書くことすら、孤立無援な彼女にとって世界との繋がりとなったのか。

ジョンには「忘れないための復讐」と記していたらしい。
でも子供の成長を つぶさに綴って、
自分の弱い内面すら彼に吐露して復讐になるのだろうか。
彼女にとってカウンセリングのようなものだったのか。

ここでも妊娠を前提にしている。
ジョンが語る 彼への返事では 既に出産している場面から始まる。

杏奈が母親になる決意など、
描かれていて当然のことも描かれていない。
中学生で人生を狂わされた女性の悲哀が浮かび上がってこない。
あるのは設定だけだ。


マリアはジョンが話す手紙の内容を全面的に信じた。
信じたからこそ、彼女に声が回復する。
そして溢れる想いを歌に乗せる。

それが「アメイジング・グレイス」。

ここでは『4巻』の合唱コンクールの際に、マリアが この曲を説明した内容が重要だろう。

「1人の牧師が自分のしてきた罪を悔いて 償いの気持ちで作った曲」
彼は元・奴隷商人で「まっくろな悪魔のような人」。
でも嵐の日に船に乗り九死に一生を得ることで「はじめて傷つけられた人の いたみに気づいた」。

同じように過去に罪を犯したジョンが赦される歌でもある。
だからジョン牧師であり、罪人でなければならない。

罪として性的暴行があるのは分かる。
杏奈との手紙を通して、愛に目覚めたのも まぁ分かる。

でも彼が杏奈を助けられなかった罪はどうなるんだろう。
彼女の自死に対してジョンが反省も後悔も述べないのが謎です。

作品が杏奈という女性の人生に優しくない。
自死までの彼女の葛藤をもっと描かなければならなかった。
これじゃ まるでマリアを産む機械として存在しただけじゃないか。

本当の被害者を描くという重いテーマをすっ飛ばして、
悲劇のヒロインを誕生させる装置にしたことが頭にくる。


ジョンに関しても、罪を設定し、そこから「良い人変換」することに終始している。

多くの人の人生を変えてしまうほどの罪を犯しながら、
ジョンは神を盾にして現実から逃げ込んでいるように思える。

マリアは そこの矛盾を突かないのか。
彼の人生の順番のおかしさに、言い分の身勝手さに。

自分が生まれなければ母は死ぬことはなかったと責めるマリア。
違うだろう。
自分は生まてこないことになるが、
そもそもジョンが罪を犯さなければ良かったのだ。

ジョンには罪を犯してからの18年余りの悔恨と懺悔の旅があっただろうに。
それを変なキャラ設定にして誤魔化しているだけだろう?とマリア風に指摘したい。


マリアが言葉の裏に潜む人間の汚さを暴き出すことが鮮烈だった本書だが、
この両親の件に関しては、その能力が鳴りを潜めている。

人を信じられることがマリアが強さを獲得した証明かもしれないが、
あまりにもジョンの言い分を全肯定する様子には首を傾げる。

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一緒に歌を歌えば、イジメも罪も帳消しになる。だから一緒に歌えなかった あんな は…。

分がジョンを赦したから、次は彼を祖父母に会わせようとする。
マリアの行動ってやっぱり独善的だ…。

祖母はジョンが近くに住んでいることを、教会にいることを知っている様子。
自分たちも含め娘を自死に追いやった人たちが集結した。

しかしジョンといい祖父といい「良い人変換」が早過ぎる。
マリアが歌を披露して それで万事解決という流れに辟易。
宗教曲の力に頼り切っているように思う。
万能薬じゃないんだから。

繰り返しになるが、1巻でまとめるような内容ではない。
マリアの母・杏奈が少しずつジョンに心を開いていったように、
血縁者たちとの交流はもっと丁寧に描いて欲しかった。
(それを乗り越える理由として、これまでの彼らのマリアへの支援があったかもしれないが)


マリアの独善性といえば、
彼女が目黒を肯定する言葉って、目黒を苦しめる言葉にもなり得ると思った。
「心配性で不愛想で でもほんとは すごくたのもしくて」
今の目黒が聞いたら自分の汚れを意識せざるを得ないだろう。
マリアの言葉は凶器となる。


そんな目黒はディープキスをする。
驚くマリアに、焦りすぎたと謝罪してるが、また理性が飛んでる⁉

もうトラウマを克服したから関係なし?
なんというか繊細さの欠片もない人間だな…。