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悪魔とラブソング 8 (マーガレットコミックスDIGITAL)
桃森 ミヨシ(とうもり みよし)
悪魔とラブソング(あくまとらぶそんぐ)
第08巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

姿を消したあんなから、マリアに届いた1通の手紙。そこには何が…!? あんな編、ついに完結!! そして、2年に進級したマリアたちの前に現れた、黒須という1年生。マリアに近づいていき!? 新章・クロス編スタートです!!

簡潔完結感想文

  • 退場。彼女が再登場してくれれば評価は変わったが、しないので夜逃げと見なす。
  • 背中を預ける。抱擁は許されないが、背中を見つめ背中を貸すことならできる。
  • 新キャラと夏イベ。1年目には描けなかった夏を満喫する水着回。作風の変化。

の大三角の一角が消滅し、新星の登場で次の三角形が形成される 8巻。

『8巻』中は ずっと、明らかに主人公・マリアと対立する者はいない。
これは本書の中で初めての安息ではないだろうか。

物語に過度な緊張感は取り払われて、肩の力を抜いて読める作品となった。

一方で、一編の始まりで まだ核心に迫っていないこともあり、
話の密度が薄くなった気もする。

今回のマリアは ただの恋に悩む女性なのだ。
そして初めて友人たちと青春を楽しむ女子高生にもなる。

マリアの母親に関する重い過去はあるものの、
多くの少女漫画で見られる、学校イベントや友人との旅行が展開される。

鬱々とした展開で人気が逃げていったからか、
今回は明るくしようと努めているように思える。


新キャラ・黒須 申太郎(くろす しんたろう)も加わり、
マリアの周囲にはトリプル王子体制が完成した。

これまでとは違い、取っつきやすい作風を目指したのだろうか。
この分かりやすい恋愛シフトや青春は、
読者の人気獲得を意識しているのかな、と深読みしてしまう。
(私は「あんな編」が読者からの不人気により打ち切りだと思っているので…)


また、作中の時間の速度が不安定だと感じた。

2年生に進級して暫くは冬服(もしくは春秋服)だったのに、
52話と53話の間に いきなり時間が経過したようで、夏服になっている。

しかも水着を買うような気温らしく、作中が何月なのか分からなくなる。
(※『9巻』の発言にて6月ということが判明。水着はちょっと早いのでは…?)

雑誌掲載時の現実の季節と合わせたからなのかなぁ?
ここも季節感を採り入れて、少しでも読者からの人気を獲得しようとしたのか。


巻末の「ごあいさつ」によると『8巻』の最終収録話54話から担当さんが交代したらしい。
時間経過に違和感を覚えるのと少し重なるのは偶然か、それとも新担当の意向か。

優しくも厳しい新担当体制で何が変わったのか、
『9巻』を読むのが少し楽しみになってきた。


んな編は、手紙一通で終了宣言。

あんな を通して作者は何が描きたかったのだろうか。
最後まで私には見えてこなかった。

ただマリアの行動も全くの無意味ではなく、
あんな が時間をかけてマリアのことを、自分自身を消化できれば、
違う関係性を見出せるかもしれないという希望を残している。

でも「××編」の最終話に その編の重要人物を登場させないのは毎回、首を傾げる。

あんな に関しては姿を消すことが彼女の解決策という見方もできるが、
どうしても肩透かしの まとまらなさ は悪目立ちする。

彼らとマリアが新しい関係を築けていないまま終わるのが納得がいかない。


うやら本書では4,5巻に亘る一編が終わると小休止のために日常回が挿まれるらしい。

前回(『5巻』)は勉強回を挿んでいたが、今回はマラソン大会。
そこでマリアは目黒(めぐろ)と久方ぶりに触れ合うことになる。

しばらく あんな派みたいな動きを見せていた目黒だが、
あんな がいなくなっても目黒はマリアとソーシャルディスタンスを保つ。

ただしマリアを誰よりも見ている騎士の役は果たす

だからマラソン大会でも走るペースについて忠告し、
マリアの背中を見て走り、
マリアの足が止まりそうになったら、自分が止まり木になり彼女を癒す。

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目を見て話すとマリアに自分の隠しごとが露呈してしまうから背中合わせの会話。

これが彼が出来る精一杯の配慮とスキンシップでしょうか。
思いは同じなのに、背中合わせで別方向を見なければならないのも辛い。

目を見たら、むっつりスケベの自分は我慢が出来ないことを自覚してるんでしょうね(笑)

この場面、もしマリアが悪魔のような体力の持ち主で、
ずっとペースが落ちなかったら、目黒は絶対に追いつけなかったでしょうね。
彼女の背中を必死に追いかけるが、追いつけない貧弱なヒーローになるところだった。


2年生進級。
クラス替えがあるのだが、神の采配で「申し子」たちは全員 同じクラスになれた模様。

進級して、マリアは その美貌と、
取材されたテレビ番組の効果もあって新入生の1年から注目の的になる。

もしかして学年主任たちの思惑通りに志願者増の効果があったのか?

作風をガラッと変えるなら、新しい編としてテレビに映ったマリアが芸能界入りする
「塩対応アイドル編」なんてのも見たかったかも。

「お前のその鼻筋は整形か?
 芸能界を知るために読んだ1年前の雑誌写真と鼻の形が違うぞ?」
マリアが各所で怒りを買い追放される物語だ(笑)

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積極的にマリアにアプローチする黒須の登場に、目黒は2つの意味で危機感を覚える。

新入生の中でも目立つのが新キャラ・黒須 申太郎。
十字架を意味するクロスと、「申し子」の資格を持つダブルネーム。
これはキーパーソンの匂いがプンプンします。

でも、私の認識能力の不足もあると思うが、神田に似すぎやしないか。
短髪キャラとか、もっと分かりやすい判別法があったのでは。

作者の男性キャラは髪が長くて重め。
夏には見たくない髪型かもしれない。


マリアは これまで反発を通してしか人と交流できなかった人だが、
黒須は最初から理解できてしまう人。

この辺に彼の特殊性が表れている。
やはり何かを秘めているに違いない。

初登場の黒須を目立たせなければならないのは分かるが、
男性陣の気持ちの描写の偏りが気になる。

目黒のターン、神田、そして黒須のターン、と明らかな順番がある。
特に神田は忘れた頃に(誰かが身を引くと)自分の想いを前に出してくる。

もっと継続的に想っている描写や、3者3用の強い想いを描いて欲しかった。


キンシップ過多にマリアと交流する黒須を目黒は牽制する。

だが目黒が黒須に、マリアの過去を話すタイミングが謎過ぎる。
あんな や神田までは分かるが、黒須に馬鹿正直に全てを話す意味が分からない。

マリアを守るためには、彼女に抱きつく可能性のある人物(神田や黒須)に
先制して忠告すべきなのは分かるが、
これもまた目黒のエゴのような気がしてならない。

マリアへの気持ちが「ネクラな独占欲」と図星を突かれて頭に血が上って、
他人の秘密をベラベラと喋ってしまったのか?

目黒のやることは0か100しかなく、不器用さが滲む。

黒須に関しても、自分のマリアへの好意を認め、彼氏気取りで手を出すなと忠告すればいい。
なんなら暴力もありだ(ヘタレの目黒が出来るとは思えないが)。

愚直に何でも話せば穏便に済むと思ってそうなところが、お坊ちゃま育ちの弊害か。
もっと器用に立ち回らないとマリアは守れない。


して上述の通り、季節が一気に進み水着回&旅行回。
海辺の目黒の家の別荘に男女6人で行くことに。

もうホント、普通のマーガレット漫画の季節イベントですね。
マリアがモテモテの四角関係となる、乙女ゲーのようだ。

黒須までマリアに惚れて、両手に花から、
トリプル王子体制で女性読者を鷲づかみにしようという魂胆か。

なんか「あんな編」の失敗を取り戻そうと必死な感じを受けるのは、こちらの先入観のせいか。

甲坂(こうさか)の神田(かんだ)への想いは消去されたし、
亜由(あゆ)の神田への想いも残念ながら叶うとは思えない。

ここにも主人公と脇役キャラの明確な格差を感じずにはいられない。

マリアモテモテ編が読者に受け入れられるのか、反感を買うのか、
女性の同性への やっかみが怖いのは本書が教えてくれてますからね…。


この編の課題曲は「アヴェ・マリア」。

「あんな編」の「よろこびの歌」は歌う前に一編が終了してしまったが、
今回は ちゃんと鍵となる歌として登場させることが出来るのでしょうか。

目黒の演奏でマリアが歌うのは今回が初めてかな?

これまでも指揮者と演奏者としては共演していたが、
マリアが目黒の音に歌を乗せるのは初めて(だと思う)。

それに加えて目黒にとっては、
正解的指揮者の偉大過ぎて複雑な思いを抱える父親に褒めてもらった
忘れられない曲になったのではないか。

目黒は お坊っちゃん育ちではあるが、
普通なら抱えなくていいコンプレックスを抱え、
だからこそアウトローに生きている部分もあるのだろう。

ピアノを再開したり、苦手なマラソンを走ったり、
父親に褒められたり、マリアと出会って目黒はこんなにも変わった。

そこをマリアに気づいてほしいものだ。