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少女漫画と小説の感想ブログです

男女6人の 3つの三角関係だったけど、一切 後腐れを残さず、明日からも仲良く働きます。

ハッスルで行こう 4 (白泉社文庫)
なかじ有紀(なかじ ゆき)
ハッスルで行こう(ハッスルでいこう)
第04巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

いよいよクリスマス。海里はデザート、彩はパンをそれぞれ一品マスターから任されることに…!! ある日ひょんなことから海里の自分への想いに気づく彩。兵調もいよいよ卒業の時が近づいて…!? 篤郎と玲奈の恋の行方、夏己と千帆の出会いを描いた番外2編も収録!

簡潔完結感想文

  • ピッコロ従業員同士の恋愛は店舗2階で、相手が寝ている姿を見ると始まるらしい。
  • クリスマス回にバレンタイン回、冬の恋愛イベントで三角関係に終止符が打たれる。
  • 社員の数が増加するピッコロ大丈夫? こういうところがサークル内恋愛に見える。

きになる下準備に時間をかけたので、仕上げは あっという間完了する 最終4巻(文庫版)。

良い本だなぁ、と思う。
老若男女、そして普段は少女漫画を読まないような人も絶対に楽しめる内容の漫画である。

が、同時に もはや昔話みたいだとも思った。
恋愛においては欲を出さずに、ひたすらに己の進むべき道を邁進していたら、結果的に幸運が振ってくる。そんな教訓めいたものまで見えてきそうな内容なのである。
読んでいて誰も嫌な思いはしないし、傷つかない。それが とても安心感を生むものではあるけれど、同時に料理において苦みが味を引き立てるように、人生においても ある程度の苦みが必要な時もあるだろう。結果的に それが その後の人生の大きな糧になる場合もあるのではないか。そういう点では、可愛い子には旅をさせない、過保護な愛情を感じる。

作者の主義とは合わないかもしれないが、もう少し不安や悲しみの配合を多くしても良かったかもしれない。特に この『4巻』では彼らの人生がトントン拍子に上手くいきすぎている感がある。もちろんそれは冒頭の一文の通り、彼らの人生は彼らの努力によって拓かれるものであって、これまでの努力という下準備があるから、運命は上手く好転するとも捉えられるだろう。
だが、専門学校2年目になっても就職の心配を一切しないままだったり、バイト先のマスターに それとなく自分の処遇を聞いたりしないまま、クリスマスが視野に入った頃になって入社を打診され即、就職が決まるのは、非現実的な展開と思えてしまった。もうちょっと社会に出る際の不安とか、未来が見通せない恐怖とか、専門学校の生徒が味わう経験を彼らにさせてもよかったのではないか。物語も最終盤で、全てを大団円にするために徹底的に苦みを排除したことが裏目に出ている気がした。

恋愛要素は仕上げの工程の1つ前で終わっている。少女漫画におけるメイン料理である恋愛が未完成なことが、物語がネバーエンディングであることを示唆しているのかもしれないが、不完全燃焼にも見える。間接的に主人公カップルは自分の好意を示しているから結末は簡単に予想がつくようになっている。だが他の2組のカップルが番外編で その先の関係性まで描かれている中、主人公カップルだけが交際の描写がないのはサイドメニューばかりでメイン料理が運ばれてこないような やはり物足りなさを感じる。


う1つ気になるのが、トラットリア・ピッコロの経営。
前述の通り、『4巻』で主人公・海里(かいり)とヒロイン・彩(あかり)がピッコロ社員になる。これまでの篤郎(とくろう)・夏己(なつき)に加え、マスターもいるし、どうやらマスターの娘・玲奈(れな)も引き続き働く(社員なのかは謎)。まだ来年度も大学3年生の千帆(ちほ)はバイトのままだろうが、そこまで広い店ではない(30席だったか?)のピッコロに一気に社員が2~3人増える。

レストラン経営の内情なんて全く知らない門外漢だが、この布陣は多すぎる気がしてならない。実際、海里がバイトに来るまでの間はマスターと篤郎・夏己+ホールだけで店は回せたわけで、新たに2人の戦力が厨房にいるとは思えない。人件費ばかり かかるだろう。パティシエが得意・専門分野の人が2人いるし。
もし海里たちをバイトから社員へと昇格させるなら、独り立ちできる実力のある篤郎か夏己がピッコロを巣立っても良かったのではないか。実力次第で若くして成功できるし、働き方も流動的であろう飲食業界で、恋愛も仕事も この6人で一緒にしようという目論見が、プロの世界というよりサークル感を醸し出す。どうも作者が彼らを大事にしたいだけに思えてしまう。ここら辺も過保護である。誰も傷つかない世界であるが、ちょっと世界観が甘すぎる。もうちょっと飲食店の実情に合った展開でも良かったかも。

この布陣だと、特に玲奈が どういう展望でいるのかが分からないなぁ。彼女はピッコロの調理に一切 関わらない。それなら普通に大学で経営学でも学んで、店のオーナー的立場になるみたいなスタンスでも良かったのではないか。彼女が何のために専門学校に入ったのかが見えてこない。当時の料理界の構造のせいなのか、男性優位で女性がいつも一歩遅れているのが気になって仕方がない。



25話では『2巻』で結婚した姉(二十歳)が妊娠を報告してくる。
海里も19歳で、若くしてオジさん になるのだが、彼の弟の湊(みなと)なんて自分がアンパンマンに夢中な年頃なのにオジさんになる。もはや兄弟のような年齢差である。
海里の実家はピッコロでお祝いの会を開く。そこで海里はケーキ作りを任せられる。結婚パーティーの時以上の大役になるのは、彼の成長だろうか。この役目を海里が巻かされるのは、本来、ケーキが得意分野である篤郎の気遣いと信頼の証でもある。

続く26話では本書2回目のクリスマスが目前に迫る。
今年も海里はデザートを一品 任され、彩もパンの考案することに。
そして この時期になって、マスターから2人が社員となって働かないかと打診される。就職活動のピークを過ぎてからの話は、マスターが彼らの進路を阻害しないためだろうか。逆を考えれば、海里と彩は就職活動をしなかったということで、彼らは何を考えていたのだろうか。苦みを感じる部位は綺麗に取り去ってしまうため、彼らが能天気な人間に見えてしまう。

こうして将来が決まった後、ピッコロの2階で海里が寝言で自分の名を呼ぶのを彩が聞いてしまう…。これは もうすぐ一人前になることが約束されているから恋愛も解禁ということなのだろうか。また千帆と夏己の時といい、ピッコロの2階は寝ると恋愛が少し進むパワースポットなのだろうか。

千帆が寝たふり中に夏己からキスされた時のように、まさか海里の この寝言も寝たふりだったりして!?

言を聞いたことで、彩は海里を異性として意識する27話。
一方、海里も街中のショーウィンドウで見かけたペンダントが彩に似合うと直感して購入する。少女漫画におけるアクセサリーは愛の結晶。これを渡すことは告白と同義といってもいい。…が、やっぱり直接 告白する場面も読みたかった。
クリスマス当日を乗り切った男性陣は、それぞれに女性に贈り物をする。篤郎はケーキを、夏己は料理本を、そして夏己は あのペンダント。

28話は年が明けて元日の話。
彩は海里からのプレゼントを見つめる日々。そして海里は彩からの年賀状に その お礼が書かれていて浮かれる。
専門学校生同士での初詣回となり、彩はアクセサリーを身につけて海里に会う。年も開けてしまい、彼らも いよいよ卒業である。

海里らと別れた後、彩は玲奈に街中で遭遇する。玲奈は彩の胸元にあるアクセサリーが海里から貰った物だと勘付き、失恋を予感する。
玲奈はピッコロで海里に会った際、ペンダントの件に探りを入れる。赤面して隠し事の出来ない海里を玲奈が「そーゆうトコ好き」と笑うと、海里も「オレに惚れてんの?」と軽口を返す。だが玲奈は それを冗談とかわせず、海里に想いが伝わってしまう。それでも海里の答えは「彩ちゃんが好き」だった。

海里にとって一番 告白に近づき、そして一番 痛みを覚える場面となった。本書で唯一しっかりと失恋するのは玲奈ですね。
玲奈は彩に気を遣うのは無しと念を押し、彩がペンダントを貰ったこと、そして彩が海里を好きなことを知っていることを告げる。こうして玲奈を通して、間接的に両想いだということが証明された。

以前、夏己への想いを封印する彩のそばに海里がいたように、玲奈の失恋のそばには篤郎がいる。相手の失恋は自分の恋の成就のチャンス、と思ってしまうのは性格の悪い私ぐらいか。でも結果的に そうなる。

海里が こういう前向きな行動に出るのも彼が一人前に近づき、両想いの下準備が整ったからか。

終話である29話では専門学校の卒業展示でパティスリーを経営する海里たちの奮闘が描かれる。
また2月なのでバレンタイン回でもある。クリスマスとは逆に女性たちが、それぞれ誰かを頭に思い描きながらチョコを購入している。

卒業展示も無事に終わり、片付けに精を出す学生たちが物悲しく見えるのは、そこに青春の終わりを感じるからか。

バレンタインデーに彩からチョコを貰った海里は「今度の休みに どこかへ行こう」と彼女を初めて個人的に誘うのであった…。
…で終幕。打ち切りかな、と思うぐらい唐突である。彼らが学生時代の内に終わらせたかったのか。従業員男女6人が全員 恋人同士の店は あんまり入りたくないなー。


「あなたがパラダイス」…
ピッコロ15周年イベントで、1日ケーキバイキングが企画される。もうクリスマスを視野に入れる時期なので、最終話から10ヵ月弱経過しているのだろうか。

メインは篤郎と玲奈の話。篤郎は出会いから約7年の片想いを成就させ、ラストには結婚している。この結婚式でも新婦の父親であるマスターはビデオカメラを回したのだろうか。そして篤郎が娘と結婚すると予想していたのだろうか。

篤郎がクリスマスのコースメニューを任されるのだが、相変わらず本書はパティシエなのかシェフなのか よく分からない。もっと分業なのかと思っていたが、皆が幅広い技術の習得を目指しているのだろうか。ここら辺は最後まで謎だった。

『3巻』の告白に続いて2回目の告白が篤郎からある。だが、今回は前回とは違う感情が玲奈に湧き出る。時間の経過が玲奈の心を変えたのか。
最後の場面はクサいがロマンティック。だが、海に不法投棄しているようにも見える。

ちなみに海里と彩は交際していると思われるが、それを感じさせる場面もないのが残念。


「世界はあなたのために」…
夏己と千帆の出会いから、現在・未来までを一気に描く番外編。
本編と重複する部分もあるが、これまで 取っ散らかっていたものが1つにまとめられて彼らの交流が分かりやすくなっている。
初めて知るのは夏己が実家を出た理由。自分の好きな人が兄嫁になったことで、早く1人前になるために大学進学よりも手に職をつけ、そして通えない距離ではない家から出て、1人暮らしを始めた経緯があるらしい。夏己が千帆に惹かれるのは、彼女の大らかな部分が兄嫁に似ている部分があるからも1つの要素だろうか。

この短編における現在や翌年・春といった言葉が どの時間軸なのか全く分からないが、千帆が大学卒業したらすぐ結婚するぐらいのタイミングだろうか。海里の姉といい、玲奈・千帆ともに結婚が早い。これは1990年代という時代も関係しているのか。ここから女性の結婚期限がクリスマス理論だったのが、大晦日と推移し、そして一層の晩婚化と時代は移り変わっていくのか。
3組のカップル中2組が結婚エンド。なのに主役カップルは交際の描写すらないという…。