《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

一人暮らしの男性宅に 女子高生が無理なく入り浸るには どうしたらいいか? 答えは便利屋。

ReReハロ 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
南 塔子(みなみ とうこ)
ReReハロ(りりはろ)
第01巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★(6点)
 

まだ恋じゃないけど、ほっとけない男子ができちゃいました! 便利屋の父をもつ世話焼き女子・早川リリコ(高1)。一人暮らしを始めたわがまま御曹司の周防湊のご飯作りを頼まれてしまう。 母がいないリリコの大変さは倍増したけど、湊は、なぜだかリリコの生活になくてはならない人になっていく…!?

簡潔完結感想文

  • ガール。便利屋の娘・リリコ。亡き母の代わりにする家事と、入院した父の代わりに便利屋仕事もする働き者。
  • ミーツ。父の代理で訪問した家は同じ年の男性の一人暮らし。いきなり女子高生が訪問したことで住人は驚く。
  • ボーイ。名門高校の生徒・湊。実家を出たはいいが片付けも料理も出来ない御曹司。支払いはカード決済希望。

『1巻』は戦場だ。限られた時間で作品の魅力を どれだけ伝えられるかの勝負だ、の1巻。

そういう意気込みがあったのか なかったのか『1巻』は何だか慌ただしい。

主人公とヒーローは一目で分かるのだが、彼らが恋仲になるのは まだ先のようだ。
『1巻』では彼らの出会いと、その関係が継続的なものになるまでの過程が描かれている。

慌ただしさの一因は、高校1年生の主人公・早川(はやかわ)リリコが、
10年前に亡くなった母親代わりに家事を引き受け、
そして1年前に急に脱サラして便利屋を始めた父の仕事も手伝っているから。

そして そんなリリコが、色々な事情から
同じ年で一人暮らしをする周防 湊(すおう みなと)の部屋に自由に出入りする。

この部屋こそがガールミーツボーイの場面なのだが、
その出会いの環境を整えるために、なかなかに込み入った事情を創作している。

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便利屋代理は一度ベルを鳴らす。制服は その人の立場の証明。女子高生から秒でジョブチェンジ

「朝は戦場だ」という言葉から始まるリリコの一日を追う中で、
家族構成の説明や、友達の紹介、父親の過労入院と リリコの代役、
そして湊との出会いに、彼と縁が出来るまでを描くから、1話は本当に目まぐるしい。

作中の リリコは大変に忙しい女子高生である。
学校の授業以外では常に動いているのではないかというほど。

この行動量の多さや切り替えの早さは彼女の性格にも影響しており、
ハキハキ、キビキビとした彼女の言動は見ていて気持ちがいい。

当然のように『2巻』以降は恋愛要素が盛り込まれてくると思うが、
そうなっても彼女はヒロイン体質でメソメソ、ウジウジなんて絶対にしないだろう。

ここは今後の展開で楽観視できるところです。
人を好きになる気持ちすら知らなかった リリコが どんな恋愛をするか楽しみです。


書は枠組みだけ見れば、男女の経済格差が大きい
少女漫画の典型的な構図がある(端的に言えば『花より男子』的な)。

しかし それを感じさせないのは、
一つは リリコの家が漫画表現的に困窮していないことが挙げられる。

父の転職によって安定した収入はなくなったが、赤字ラインぎりぎりのところで生活は出来ている。
リリコは一家の家計を支える身として財布の紐は固いが、堅実な生活をしている自負はあるだろう。
だから不必要な引け目もないし、湊の生活レベルに安易に憧れたりしない。
彼女にとって湊のバックグラウンドは あまり恋愛と関係がない。
それは本書で通底している彼女の価値観だ。

そして、もう一つの要因がヒーロー・ 湊の性格だろう。

湊は いわゆるセレブの ご子息であることが推察される。
4人で暮らすリリコのアパートよりも広いであろう部屋に、親のお金で一人で住んでいる。

だが、湊は典型的な金持ちのボンボンのような振る舞いは一切しない。
(『花より~』のD明寺くん みたいに幼稚ではない)

ちょうど今 読んでいる小説、恩田陸さんの『黒と茶の幻想』の中で「育ちのいい男論」があったので引用する。

「極端に育ちのいい男というのは何種類かに分かれる。
 『お坊ちゃまだから仕方がないよね』と誰もが許してしまう天真爛漫な王子様タイプ、
 己がいかに恵まれているかということを自覚しているがそのメリットも十分享受しているバランスのいい人格者タイプ、
 自分が恵まれているということに引け目と居心地の悪さを感じているタイプ。」

だそうだ。引用しておいてなんだが、湊はどれだろうか?
どれが一番近いかといえば1番か…? いや2番も少しあるような…。

湊は昨年、母親を亡くしているという過去も彼の精神に影響しているかもしれない。
これは、リリコとの共通点でもある。


このように経済格差や環境格差が大きい2人だが、
それによってトラブルや喧嘩が起きるということはない。

また本書において金に物を言わせた主従関係が生まれることはない。

湊の お金持ち要素は飽くまでも彼の一部であって、
物語的には、湊が一人暮らしをしていて、便利屋を呼ぶ財力がある根拠として扱われるだけ。

しっかり者の リリコは湊を客の一人として認識して対応しており、
また、湊もお坊ちゃん特有のマイペースを発動する時もあるが、基本的に理知的で穏やか。

お互い、これまで自分の周囲には いなかったタイプの人であることは確かだろう。
2人は あくまでも同じ年の人間として、知り合い、そして縁を深めていくのだった…。


でも本書の流れでは まずリリコが湊の胃袋を掴んだことが大きい気がしてくる。
リリコはそんな気はないだろうが、料理の腕一つで玉の輿に乗ったともいえる。
海老で鯛を釣るように、キーマカレーでイケメン御曹司を釣り上げたのだ。

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年齢や容姿・仕事っぷり でなく、料理の腕前が評価され、この家への出入りが許されました。

ただ、全体的にイベントが大雑把な気もする。

恋愛感情を抜きにして、リリコと湊が
気の置けない仲になるような展開が用意されているのだが、
やはり妙齢の男女が部屋に出入りする設定は少し苦しい。

湊が いきなり熱を出してリリコが看病する回も、
2人の距離が縮まる意味はあるのだろうけど、リリコに看病させるまでの展開が雑。
というか、これはもっと恋仲になってからやるとドキドキ度が増したのではないかと思う。

そして湊がリリコと会えなくなると勘違いする流れも よく分からない。
これは反対にリリコが勘違いするなら、リリコらしい話なんですが、
湊が勝手に勘違いして、不機嫌になっているから、ダメな坊っちゃん感が出てしまった。

またリリコが湊と結ぶ交換条件も、ゴールありきの強引な展開。
大体、便利屋への支払いはカード決済は無理でも他の支払い方法がありそうなものだ。
湊が便利屋で働く労働意欲が湧くには動機が足りない気がする。

2人を付かず離れずの関係に おしとどめておくために強引さが生じている。
それもこれも恋愛感情に気づくまで2人一緒にいなければならない、という枷が原因だろうけど。

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御曹司としてではなく、ただの周防湊として弱っている姿。早くも一夜を共にしちゃいます!

が読む作者の長編は2作目。

実は、このブログで最初に感想文を書いた少女漫画は同じ作者の『360°マテリアル』
同じ作家さんの長編作品は 最低1年以上 空けて読もう、という不文律を自分で勝手に設け、
そしてとうとう1年が経過して、今回、南塔子さんの2作品目の読了となった。

そこで驚いたのは、前作の登場人物と似ている人がいないこと。

髪型や髪色が違うことで別人であることにしている作家さんもいる中で、
一層可愛らしく&格好良くなった魅力的な人物たちを生み出している点に感心した。

線も綺麗だし、繊細さと凛々しさが感じられる作者独自の絵に進化している。

電車がキッカケで、とある男性のことを主人公が知ることになる展開は『360~』と似ていると言えますね。

出会いは女性客にのど飴をあげた湊と、その光景を見て彼の顔を覚えていたリリコという展開。
ちなみに、最終11巻で その のど飴は 当日の朝、
マンション管理のおばちゃんから貰ったものという後付け設定が出てきます。
確かに、湊がのど飴を持ち歩いているのはキャラに合わないですもんね。


ただ、相変わらず と言っては失礼だが、キャラたちが上手く機能していない部分もある。

読了してから読み返すと、あの設定が活かされてないとか、
あの展開は余計だったんじゃないかとか、残念に思う部分が 少なくない。

脇役キャラまで全員を作品の中に生かすことが出来ていない気がする。
複数人を同時に動かすような構成があれば、もっと作品世界が広がるのに。

残念設定の1つが、リリコの友人・永遠(とわ)の予知能力。
これなんて『1巻』と あと1回 思い出したように使われたっきり。

永遠の存在自体が物語から弾かれがちというのもあるが、
この予知能力も、ラスト付近でリリコがピンチになる場面を創出するなど、
もうちょっと、ここぞ という場面で効果的に使えたはず。

キャラを立てようとして作った設定が蛇足に変わるのは残念。
はたして作者が友人たちをフル活用できる日は来るのだろうか。
次作に期待したいと思います。


また、同級生トリオの一人・秦(はた・男)は、なぜ秦という漢字を使ったのだろうか。
「湊」と「秦」という混同しやすい漢字をわざわざチョイスしなっくても、と不親切に思う。

あとは、リリコの兄(雷太・らいた)も いなくていいような…。

これは男兄弟に囲まれて、男性への免疫があるから湊とも互角に渡り合える、
男ばかりの家事を一切担うという肝っ玉母ちゃん感を出したかったのかな?

ReReハロ 1 (マーガレットコミックス)

ReReハロ 1 (マーガレットコミックス)

  • 作者:南 塔子
  • 発売日: 2013/07/25
  • メディア: コミック