《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

同じ分野で好きな女性に才能があった時、男はどうすればいい? 努力しか ないだろ。

町でうわさの天狗の子(11) (フラワーコミックスα)
岩本 ナオ(いわもと なお)
町でうわさの天狗の子(まちでうわさのてんぐのこ)
第11巻評価:★★★★☆(9点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

それぞれの想いが交錯する、衝撃の11巻!
修学旅行で奈良へ向かった秋姫達。
秋姫は、瞬との奈良町行きを楽しみにしていたが、奈良に住む鬼の一族に狙われてしまう。
友達が狙われるのを防ぐため、タケルは うららと共に、鬼の宝を見つけるために吉野へ向かう。
それを知った秋姫・瞬もタケルを追うが……
吉野で待ち受ける、秋姫の衝撃の運命とは――!?

簡潔完結感想文

  • 奈良編終了。家に帰るまでが修学旅行ならば修旅は終わらない。また お山で皆に会いたい。
  • 総勢15人の登場人物たちを3班に分けて、それぞれに活躍の場面を創る『ワンピース』的手法。
  • 秋姫の覚醒と作者の覚醒。序盤ではたどり着けなかった画力と境地に到達している。圧巻。

れっ、この漫画の掲載誌は「少年ジャンプ」でしたっけ?の 11巻。

今回、『10巻』で ずっと追っていた奈良の地に封印されしものの正体が明らかに。
『11巻』は表紙からして不穏な空気が漂っています。

その封印を解くカギとなるタケル君、
タケル君の目的地を知って追う瞬(しゅん)ちゃん、
友人たちからのメールでタケル君の優しい嘘に気づき、
たとえ独りでも彼を追うことを決意した秋姫(あきひめ)。

3班に別れた登場人物たちが順々に かの地に到着して、己の責務を果たしていく。

多くなった登場人物たちを何班かに分けて、
場面を切り替えていく手法はさながら尾田栄一郎さんの『ONE PIECE』のようである。
ここ2巻は「町でうわさの…」の「奈良 鬼退治編」だろうか。

そして最後に真打として登場し、
全てに決着をつけようとする秋姫は『ワンピース』のルフィみたいである。

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次のページで秋姫が「ギア 3(サード) ゴムゴムのぉ…!」と言っても全く違和感がありません。

巻末の あとがき で
「なんだか最近は描けば描くほど描いてみたいことが あふれてくるような気がしています。」
と仰っていますが、本当にそんな感じを受ける。

新たな技法、新たな画角、新たな表現、
作者のクリエイティビティが爆発している。

お話自体も独創的で面白いのに、
それに加えて漫画の絵画表現の一層の充実を目指す作者に脱帽です。

本書の連載を通して作者は唯一無二の漫画家になったのではないでしょうか。
これからも漫画芸術を高めていってほしいです。大好きです。


直なところ、結構 前から奈良で何かが起きる、と伏線を張った割には、
待ち受けていたものの正体は、正直 言って小物で、勝負も やや呆気ない。

まぁ それもそのはずで、このお話は本当のクライマックスである『12巻』の前哨戦に過ぎないのだから。

というと『11巻』の内容を全否定するようだが、読みどころはたくさんある。

戦いに挑むにあたっての決意や心境など、それぞれの登場人物の心理が窺い知ることが出来る。

一番 最初に封印の地に到着したタケル君は、
自分を呼ぶものの正体をある程度予測し、その対策を練っていた。

秋姫や瞬ちゃんに頼らずに、自分の力で自分の因縁を断ち切ろうとした。
ただ、望む力が大きすぎて、扱いきれなかったけど…。


二番目に到着した瞬ちゃんは、本気の戦闘モード。
鬼より えげつなく全力を出すのは秋姫を巻き込まないためだろう。

この戦闘の中で、以前ミドリちゃんから問われていた
「なんで天狗になりたいの」という質問の答えが明かされる。

瞬ちゃんは、赤ちゃんの時から知っている秋姫と一緒にいるために、自分の進路を定めたのか…。
相手が圧倒的な才能を秘めていたとしても、努力を欠かさないことで力をつける。
こんなに深くて大きい愛、瞬ちゃんにしか貫けないよ…(泣)


真打として登場した秋姫だが天狗の力の制御が不安定で、
なおかつ、全力を出せば一層 天狗に近づく悩みを抱えながら戦う。

だが、瞬ちゃんが安否不明だと知った途端、彼女の身体は変異する…。

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少年漫画 顔負けの迫力の戦闘シーン。秋姫と共に作者が覚醒していく漫画だなぁ。

『10巻』で初めて本格的に天狗の能力を使い、結界を張り続けたモミジちゃんは、今回は休息中。
全力運転なのは「昨日は柄にもなく いいところを見せたくなって しま」ったらしい。

これは誰に対してなのだろうか。
瞬ちゃんと考えるのが普通だが、守るべき人は秋姫なので彼女と言う線もある。

自分の身も顧みず、鬼となった うらら の父を送り出すモミジちゃんは やっぱり良い子である。

父娘の関係で言えば、秋姫の父・康徳(こうとく)様も流石の強さを見せた。
康徳様ならば、行方不明になった秋姫を倒れるまで捜し続ける気もするが…。

ちょっとした戦いではあったけど、眷属見習いたちが錫杖(しゃくじょう)を構えるシーンも好き。
いつもヘラヘラしている、なごみ系の彼らが、
急にキリッとして、戦闘モードに入るギャップが たまりません。

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ボス戦では全く役に立たないほど弱いので、小物を相手に…、などと言わないように。

ちなみに鬼との戦闘の裏で一番 活躍しているのは、
四国の天狗・栄介(えいすけ)の お山の眷属神・福山(ふくやま)様。

ビジュアル面も能力面も非常に高いポテンシャルを お持ちだ。
秋姫たちのいる緑峰山(りょくほうざん)の眷属神の お二人よりもずっと目立っているなぁ。
欲を言えば、2人の眷属神の見せ場も作って欲しかった。


闘中に我を失い 恐れていた、この国最古 最強の天狗・天狗(あまつきつね)と近づいた秋姫。

彼女は追う瞬ちゃんからも逃亡し、山中で気配を消した。
瞬ちゃんは戦闘の疲労もあり力尽きて眠り続ける…。

修学旅行も終了し、お山と奈良の関係者で秋姫を捜し始めて4日後。
うらら が秋姫を発見する。しかし彼女はキツネの姿のままで…。

うらら が秋姫に食料と荷物を置いていくシーン。

私が初読時で胸を打たれたのは、
左右のページに亘って掲載されている この数日間の
秋姫を心配する友達たちからの37件+1の受信メール。

再読時には、それ以前の何でもない日常にも何回も胸を打たれるのですが、
初読時はこの場面から、センチメンタルのスイッチが入りました。

このメールたちは、秋姫が高校生活で結んだ友情の結晶だ。
そう思うだけで、もう涙を止められませんでした。

お山を初めて離れて、自分の存在を当たり前には受け入れてくれない世界で、
少しだけ偏見や悪意にも晒されながら、
それでも自分の力と、そして瞬ちゃん・ミドリちゃんたちの協力があって、
気苦労の多い4月を2回乗り切ってきた。

そして高校生活も半分を過ぎた今、秋姫にはこんなにも多くの人に囲まれている。
前半の何気ないシーンの一つ一つが、かけがえのない思い出として思い返される…。


メールといえば、独力でタケル君の向かう土地が判明したのも秋姫にきた友達たちからのメールでしたね。

これは文化祭やバレンタインデーなどで学校内での特定の人の動きを把握した、
女子生徒のメールネットワークと同じである。

術を使ったり、頭脳を使ったりせずに、ここでも友情が秋姫の背中を押している。
そして、おばさんの井戸端会議の情報網みたいでもある…(笑)


うらら に発見された秋姫を両親が迎えに来る場面も号泣必至。
秋姫母・春菜(はるな)ちゃん は、器の大きい人ですね。
なんて愛に溢れた作品なのでしょうか。


そしてタケル君は妙な色気が出てきましたね。

これまではイケメンだけどアホの子で人畜無害という感じだったけど、
少し表情に愁いが加わって、良い面構えをした青年へと成長しています。

そして心根はそのまま優しいから、一層モテそうだ。

しかしタケル君は自分の恋愛の癖を知りながら、
最初からフランクに接していた秋姫と交際したというのか…。
許せん。瞬ちゃんをはじめ お山のみんなに〆てもらいましょう。


ショートストーリー「町でうわさの…」
8.この日、瞬ちゃんと一緒に飛行場に行ったのはタケル君と山田君なんですね。
  西城はマディとデートか。
  「今日は天気も良くていい一日」だったと言える幸せな日々がもう一度来ますように…。