《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

連載開始から6年半。若き日の作者から託された終幕は、成長した作者が美しく結ぶ。

町でうわさの天狗の子(12) (フラワーコミックスα)
岩本 ナオ(いわもと なお)
町でうわさの天狗の子(まちでうわさのてんぐのこ)
第12巻評価:★★★★★(10点)
  総合評価:★★★★☆(9点)
 

大人気青春ラブファンタジー、ついに完結!
月刊フラワーズで6年半の連載を経た「町でうわさの天狗の子」が、ついに完結! 仲間を助けるために力を使い、ついに狐の姿になってしまった秋姫。彼女を助けるため、瞬が、そして仲間達がとった行動は…!? 瞬の秋姫への深い想いが胸を打つ最終巻、ぜひご覧ください。

簡潔完結感想文

  • 夜へ急ぐ人。汗と涙を流しながら大切な人のことを思う女子高生たち。衝撃告白はマジで衝撃。
  • 天狗大決戦。信じているから一緒に堕ちよう。彼女を救う手筈は整った。未来の君らに期待大。
  • 最終話。念願の普通の女子高生ライフ、そして ほんとの恋。神様が結んだ手を離さないから…。

の日 誓いし決意が時を越えて今、果たされる 最終12巻。

色々あった2020年ですが、その終盤が幸せだったと思えるのは良い作品に出会えたから。

人は人をこんなに強く想える、ということ描いた作品に出会い、
その姿に私まで背筋が伸び、少しだけ生活まで変わる契機となりました。

良い作品は何度も見返せる。
そして何度でも新しい発見があると実感した作品でもあります。

読む回数を重ねるほど一層 作品を好きになり、
既に何回も読んでいるはずのに なぜか感動は深くなる。
そうして また一から読み返したくなる無限ループに陥る。

ある意味で私は出口のない「天狗道」に堕ちているのかもしれない。
そうなっても、きっと瞬(しゅん)ちゃんが助けに来てくれるから、また会えるね(笑)


天狗のいるファンタジー世界を基盤としながら、
描かれるのは ローカルな女子高生の日常。
それを積み重ねた後でセカイ系も驚きの危機が勃発するが、
最後は極上の恋愛少女漫画として収斂(しゅうれん)する本当に不思議な物語でした。

私からもラストページの秋姫(あきひめ)の言葉を作者に贈りたい。
本書に出会えて、心の底から嬉しいです。

表紙と裏表紙に描かれている30人以上の人と、
そして描き切れなかった その他の登場人物たちに感謝を込めて…。


んなことが起きても、ちゃんと女子高生たちの姿を描いているのが良いですね。

彼女たちは大変なことになっている友達を思い、夜の町を自転車で疾走する。

また友達と学校生活が送れるように、
次に会う時に「ほんとの恋」を始められるように、大粒の汗と涙を流す。

なかでもやっぱり、ミドリちゃんの衝撃告白には度肝を抜かれました。

これまでも自分の恋心などプライベートな大事なことをなかなか言わないミドリちゃんでしたが、
まさか最後まで こんな隠し玉を用意していたとは。

読み返してみると、この件や、秋姫の天狗(あまつきつね)の話は、
ちゃんと『1巻』の段階から、伏線が張られているんですよね。
こういうところも再読必至の構成でございます。

ミドリちゃんは秋姫への友情だけではなく、
もう一つの意味合いも含めて、彼らのことを応援していたのか。
言われてみれば、性格も似ている気がするなぁ。
底意地が悪そうなところとか、シニカルなところとか(笑)

ずっと秋姫と瞬ちゃんを兄弟のように育った関係と思っていましたが、まさかまさかの真実。
『8巻』において秋姫がクラスメイトから瞬ちゃんとの関係を
「腹違いの兄妹って うわさほんと?」と聞かれているが、横にいたミドリちゃんの心境やいかに⁉

最後の巻で ようやく本音を吐露する。ミドリちゃん たち、君たちは やっぱり似てるよ。

半、急速に存在感を増したように感じられるタケル君もまた、ある意味 求道者になる。

今の自分には無理かもしれないが、
努力を重ねた未来の自分にならば可能かもしれないこと。

瞬君はタケル君に常に自分を磨くことを要求する 一通のメールを送っていた。

『11巻』でも素晴らしい活用の仕方をされた携帯電話のメール、
今回も、本当にメールの文面だけで涙が出てくる場面がありました。
男同士の友情、信頼の究極の形だよ…。

そして、タケル君に要求することは自分にも課せられる修練であることが胸を打つ。
大切な人を救える自分になること、男たちの戦いは本書の外にある。

そこに流れる膨大な努力と時間、
そして、それが達成されたことを読者は知ることが出来る。

作者によって入念に準備された道具立ての素晴らしさに 再度 目に涙が浮かぶ…。


度堕ちたら最後の天狗道が開いてしまう展開も感極まる場面が多い。

娘のために全身全霊で「黒き天狗(あまつきつね)」と闘う父・康徳(こうとく)様の荒ぶる姿と、
天狗道に進んで堕ちようとする娘の言葉に大粒の涙を落としながら言う言葉は忘れられない。

更には弟子であり息子でもある瞬への別れの言葉も良い。
さすがに感極まった様子の瞬ちゃんの表情だけでも泣かせる。

黒き天狗を自らの中に戻す秋姫に、
彼女と共に天狗道に堕ちることに迷いのない瞬ちゃんに、
そして眷属見習いたちに掛ける瞬ちゃんの言葉に、胸がいっぱいになる。

そんな緊張感の中でも不思議な笑いがあって、
まさか秋姫の好物「メロンパン」がこんな形で使われるとは思わなかった。

そして黒き天狗に体力を奪われ衰弱する秋姫の口に、
瞬ちゃんがお菓子を無理矢理に詰め込む様子は、
さながら『のだめカンタービレ』の千秋先輩のようであった(笑)


して果たされる約束。

ここでの注目ポイントは天狗道を開けた2人の天狗がいることだろう。
入り口で監視・待機しているだけで、天狗道内での戦闘には参加しないので判然としないが、
これは、あの同年代の天狗たちだろう。
みんな、ズッ友だよ!

確かに、タケル君が作った錫杖(しゃくじょう)は計9本。
これは未来の瞬ちゃん 以下 十郎坊までの9人分だろう。

その横にはナギナタの形をした武器(?)が二本ありますね。
これが「天狗道への道を開く」ための道具なのだろう。
そして、あの2人の天狗が使う道具となっている。

長い年月をかけて道具は揃った。それを使う者たちも準備万端。状況開始!

ちょっと先走って書きましたが、天狗道に突入してきたのは
未来の瞬ちゃん = 瞬臣坊(しゅんじんぼう・天狗となった瞬ちゃん)と、
三郎坊から十郎坊まで眷属神となった元・見習いたち。

この場面は鳥肌が立ちますね。みんな頑張りました。

ちなみに瞬ちゃんは「大天狗 緑峰山瞬臣坊」という名前。

大天狗になっても康徳様から独立(?)してないんですかね。
まぁ、急に知らない お山の名前を名乗られても困るという理由もあるだろう。

瞬臣坊が無敵という訳ではなく、ちゃんと高校生の瞬ちゃんが秋姫を助けている点も良く出来ている。
『11巻』ではタケル君の祖先が作った鬼の面を、
憑りつかれた うらら ちゃんごと躊躇なく殴打しにいった瞬ちゃんですが、
今回もまた、黒い固まりを秋姫ごと躊躇なく薙ぎ払いにいっている。

ただ今回のフルスイングは「堕ちた天狗を祓う錫杖を作ってくれ」と要請したタケル君への信頼が理由だろう。
この錫杖なら、秋姫に傷を負わせず、黒き天狗だけを祓える能力を備えていると信じているのだ。
タケル君の才能は本当に開花したんだなぁ。

天狗道から脱出する際の五郎坊の役割も良いですよね。
眷属神になる際は「仕事・金・人と何かの縁を結ぶ神」志望だった五郎坊。

そんな五郎坊が立派な眷属神となって、
意識を失って運ばれる秋姫と瞬ちゃんの手を そっと結んでいる。

神様によって結ばれた手だもの、
「瞬がもういいと言うまでは その手を離さ」ないことは保証されたかな…。

そういえば文化祭のダンス以降、いや、瞬ちゃんが手を離さないと決めた時から、
本書の中で手を繋ぐという行為が何度も繰り返されていましたね。

ただ、この展開だと瞬ちゃんの連続性が途切れている気がしてならないけど。
ずっと天狗道に居るはずの瞬ちゃんが、未来の瞬ちゃんに なれるはずはなく、タイムパラドックスが生じている。
秋姫と別れ、瞬ちゃんだけ歳を取らせる訳にもいかないから、メインの瞬ちゃんは天狗道に残り、先に助けられ、努力で天狗になった未来の自分を獲得することにしたのだろう。


終話は再び高校生活。

どうやら秋姫は2日間倒れて寝ていたみたい。
天狗道に「力」を全部 置いてきて、念願の「普通の女の子」になったらしい。

あれっ、でも普通の人には見ることは出来ないはずの、
小さい妖3人組を見れてるし、会話もしているぞ…?

秋姫には悪いが、ちょっとぐらい不思議な力が残ってて欲しいなぁ。


本編の最後の日は、どうやら、お山の「みんなでご飯の日」らしい。

実際の時間経過としては、最後の晩餐のようだった
秋姫が作った夕食会(『10巻』)から少ししか経ってないのでしょうが、
天狗道から帰還して、全員が約束を果たしたことが分かってからの食事会なので感慨も ひとしお。

タケル君の寝不足の理由も良い。やっぱり優しいなぁ。

そういえば最終話の話ではないのですが、未来のタケル君が錫杖ほか道具を完成させた際には、
数十年後の緑峰町の姿が何コマか小さい背景として描かれてましたね。

赤沢化粧品店は事業拡大している様子。
さすが未来の「商売繁盛の神」三郎坊を味方につけているだけあります。

そして駅舎は新しくなり、駅名まで変わっている、緑峰貝塚駅
結局、マディが「アレ」を掘り当てた遺跡は県とか国によって管理されたのだろうか。


最終話、四国の天狗・栄介(えいすけ)と会話して空元気を演じるモミジちゃんは、
秋姫と瞬ちゃんの関係に心に痛手を負った様子。

モミジちゃんの好きな人は、どちらとも取れますね。

『12巻』でも秋姫を人一倍心配してるし、
修学旅行で珍しく感情を露わにして「柄にもなく いいところを見せた」かったのは、
追われる秋姫を守るナイトになりたかったとも考えられるし(『10巻』)、
思い出されるのは、考え事をしている自分の手を引いて帰路を歩いてくれた秋姫だし(『2巻』)。

瞬ちゃんへの分かりやすいアプローチは、バレンタインデーの際の大きなチョコ(『7巻』)だが、
もしかしたら、これは秋姫に「友チョコ」と称してチョコを渡すカモフラージュかもしれない。
(なんだか迷推理を繰り広げる偽の探偵みたいになってきた…)


そしてラスト10数ページは、もう少女漫画屈指の名シーンでしょう。
あの瞬ちゃんが…、と驚きと共に感動が込み上げてくる。

何度も言うけれど、瞬ちゃんは概してポテンシャルは高いが決して「スパダリ」ではない。
努力の天才だ。
愛情の深い人なのだ。
その原動力は言わずもがな。

その手をもう離さないで…。