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重い荷物を抱えてる 『冬のはなし』

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小畑 友紀(おばた ゆうき)
僕等がいた(ぼくらがいた)
第08巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★☆(7点)
 

七美(ななみ)と矢野(やの)。二人の大切な約束の日、矢野は奈々(なな)の妹・有里(ゆり)と一緒にいた。それを知った七美は傷つく。その頃、七美への想いを断ち切ろうとしていた竹内だったが、傷つく七美を見てついに自分の想いを告白。こじれてしまった七美と矢野の仲に、追い討ちをかけるように矢野の母の離婚問題が……!?

簡潔完結感想文

  • 恋愛天気予報。予報はエンドレスストーリー。交際 のち 別れ のち 交際 のち 別れ のち 別れ⁉
  • 飲酒はするけど 純潔は守る 純愛漫画。君は俺の支えを必要としていない点で俺の運命の人なんだ。
  • 未来予報。矢野は絶対ひとりじゃないから → ひとりぼっち。矢野の不幸は七美の予言が原因⁉

福は糾える縄の如し。ハッピーエンドのための一時的バッドエンド の8巻。

物語にとって超重要なターニングポイントとなる『8巻』。
全16巻のちょうど真ん中で、まさに折り返し地点。

ただ、この後が辛い。
『8巻』のラストでもいきなり約4年後に話は飛ぶし、
その間、主人公の七美(ななみ)は高校卒業後に再会を約束した矢野(やの)と
一度も会えないという驚愕の事実が明かされる。

ここまでも交際後は喧嘩していることが多く、
決して順風満帆ではなかったが、
まだ「プラスマイナス」の総量では「プラス」だったが、
この後は確実に「マイナス」の周期に突入するようだ。

序盤の ありふれた高校生の恋愛はいつの間にか壮大なドラマになっていった。


の後の大きなドラマ性を重視したためか、
何だか大事な場面を前にした恋愛描写が大雑把な気がした。

私が一番モヤっとしたのは七美と矢野の仲直りの過程。

竹内(たけうち)の気遣いで彼の口から引っ越しの話を知った七美が、
焦燥に駆られて再々交際を決めたように映ってしまうのだ。

引っ越しの話題を知るのも矢野本人からではなく竹内からだったのも残念な展開。

そして あれだけ矢野のことを避けていたにもかかわらず、
そこからの七美の態度の変わりようも身勝手なヒロイン的過ぎる。

そのモノローグが、
「全然気づいて あげられなかった」
「けど …どうして あたしに一言も 話してくれないんだろう…」ですもの。
現実を都合よく改変するのは七美の悪い癖ですね。

ここで浮かび上がるのは七美と矢野の恋愛観や人生観の違いでしょうか。

イムリミットがあって初めて限られた時間を実感する七美と、
人生は有限であることを痛感している矢野。

『7巻』のラストで七美の友人が指摘したような、
矢野に好意を寄せる山本(やまもと)など他の女性に矢野を取られるという展開ではなかったが、
危機に即したから執着心を見せるのは何だか即物的な印象を受けてしまう。

このチキンレース的な展開が、再度 復縁のキッカケを待っていた七美の「衝動」なのだろうか。

気になるのは引っ越し危機が無ければ2人はそのまま疎遠だった恐れもあるということだ。
『6巻』で七美が、矢野の元カノ・奈々(なな)を乗り越える過程にあったような葛藤や許容を感じられない。

ただただ焦って矢野と復縁することが第一目的で、
2人の気持ちが再び1つになるような出来事や瞬間がないのだ。

また、短い周期でくっついたり離れたりしているので
読者としては2人の関係に盤石性を感じない。

もっと言えば、メタ視点で考えると『8巻』の巻末をタイムリミットとしており、
そこからの逆算でスケジュールが組まれていたからだろうか、と思ってしまう。

ここはもう1エピソード展開して、
矢野への愛情が一層深まったことを示してから、
別れの危機を描く方が恋情としては分かりやすかったのではないか。

どうしても、いざこざが多すぎて
七美が矢野を ずっと信じるための貯金が少ないように思う。

『8巻』のラストでは少なくとも4年近く矢野と会っていないらしい大学生の七美。
心のプラス貯金も切り崩し終わって、もしかしたらマイナスの生活になっているのかもしれませんね。


校2年生の年末ということもあり、
引っ越しの話と並行するのが進路の話。

四角関係の4人は それぞれ東京の大学を目指し、そこで再会することを願った。

といっても長年 矢野に想いを寄せる山本の場合、進路変更は盗み聞ぎ・盗み見の結果っぽいが。

なんとしても矢野との縁を切らないよう努力する山本。
一縷でも望みがあるのならそこに全力を掛けることの出来る現実的な人です。

こんなところも「信じる」「守る」などの理想論の多い七美とは違いますね。

一方で進路の場面で七美を好きになるのは、
難関大学を志望することを心配する矢野に対して
「あたしは 矢野のために東京の大学 行くんじゃなくて 自分のために行くの」
と言い切れるところ。
「…その先が 矢野の道と交差してれば いいと思う そうであってほしいと思ってる」

七美は母とも奈々とも違う存在だということが明確に立ち上がってくる場面です。


や駆け足な再々復縁の後は、引っ越しに揺れる矢野と七美が描かれる。

ある夜、飲酒した矢野が七美の家を訪れるが、
矢野はまた2時間かけて歩いて帰ったんですかね。
今回は風邪ひかなかったみたいですが。

彼は合計何時間分の記憶がないのだろうか。

そして矢野が母と、ある交換条件と引き換えに実現したのが初めての一泊旅行。

そういえば竹内の姉・文香(あやか)の指摘で初めて気が付きましたが、
矢野の母親と、死んだ恋人・奈々は似てるんですね。

まぁ、矢野が母の次に支えたいと思った人なんだから当然か。

そういう意味では矢野にとって七美は異質な存在なのか。
これまでとはまるで違う女性という点で「運命の人」なのかもしれません。
まだまだ上手くいかないことも多いですが。

矢野がクリスマスプレゼントとして七美に贈った旅行プラン。
その日程から、クリスマスに矢野は誰と過ごすのか、
そして更には矢野との別離が分かってしまう描写がいいですね。

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あなたはクリスマスは別の女性と過ごすから、私はその一週間前なんだね…。

本当に作者は七美を天国から地獄に落とすことに命を懸けていると思われる…。


っ越しに関しての矢野の決断は、『8巻』の唐突な2人の復縁に比べれば十分理解できる。
これまでに矢野の心の推移を理解できる手掛かりは しっかり描かれてきたし、
私も恋愛よりも矢野親子の異常性を考察してきたので理解は早かった。

もしかしたら前述の七美と話した大学の進路の内容なども影響しているのかもしれませんね。
七美は七美の足で進路に向かって歩けるが、
母の足取りは覚束ないように見える。

ならば支えて上げなくてはならないのはどっちか。
確固とした行動原理がある矢野の中の答えは簡単に出たのだろう。

これは2人の関係が親子だからというよりも、
矢野の生き方がそうさせたのだ。
まぁ矢野にその考えを植え付けたのが母本人なのだが…。


んな喪失感と緊張感に満ちた一泊旅行。
宿泊先では、また飲酒しています。
矢野も自分が不能になる恐れがあるなら、酒なんて用意しなきゃいいのに。

泥酔したところを襲うわけじゃないんだから、
七美が飲んだことのない酒を飲む理由が分からない。
特別感か、それとも極度の緊張を紛らわしていたのか。

まぁ、単純に何もしないことへの理由が必要だったんでしょうけど。

決定的なチャンスでシュートを放たないのは、本書の男たちの特徴か。
そんな矢野と竹内だから、ずるずるとライバル関係が続くのかもしれませんが。

ここで一線を越えさせなかったのは、純愛の精度を高めるためでしょうか。
しかし純潔であることが純愛なら、世の中から純愛が消失しかねない。

お別れ旅行が、こんな連載を長期化するための よくあるオチみたいでいいのだろうか。

ただ酔って上機嫌になった七美が腹を割って話すシーンは好きです。
聞くに聞けないことをズケズケと聞く七美。

果たしてこの記憶は彼女に残っているのでしょうか。
結構、覚えていた方がいいこともあるような…。

そういえば七美は雑誌で見ていたクリスマスプレゼントは結局 用意しなかったのでしょうか。
引っ越しが分かった時点で渡さないつもりだったのか?
引っ越さなければ渡したということ?


して後顧の憂いを断つために竹内にお断りする七美。
返事は要らないと告げたはずなのに、返事をもらった竹内は思わず、
「この先あいつ以外 好きにならないと? 1年後も? 5年後も?」
と皮肉めいたことを言っている。

さて5年後、七美と一緒にいるのは誰でしょうか。

駅のホームでの別れの後は驚きの連続。
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外れることで有名な七美さんの誓いや願い。ひとりじゃない、なんて言うから…。