《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

エリート高校生でも 越えられなかった現実の壁。それが鍼の世界。高校生には刺激的。

親指からロマンス 5 (花とゆめCOMICS)
椿 いづみ(つばき いづみ)
親指からロマンス(おやゆびからロマンス)
第05巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

武の師匠・大貫に誘われて、マッサージ学校に潜入した千愛・陽介・武の三人。最高の鍼師やマッサージ師に出会い、刺激がいっぱい!! 更にカリスマ生徒・伏見となぜか千愛が対決することに――!? 一方、千愛LOVE☆な三姫の妄想愛の行方は…!?

簡潔完結感想文

  • お出かけ用の服も購入し向かった先はマッサージ専門学校。出会うのは老若男女に奇人変人。
  • 高校の中では描けない めくるめく世界をチョイ見せ。マッサージとラブとギャグの高度な融合。
  • 陽介の凝り臨界点突破。暴走して制御不能の陽介は学校内に悲鳴を響き渡らせる。彼は愛の獣。

校生では立ち入れない禁断の世界が開かれる、ある意味 18禁の 5巻。

『4巻』のラストから「マッサージ界でピカ一の腕を持つといわれている」大貫 朝登(おおぬき あさと)が再登場。
「若くにマッサージ学校を設立して自分はそこの理事長」をしている大貫。

彼に再会して、以前から誘われていた学校見学に向かう千愛(ちあき)と、
その兄で大貫の唯一の弟子でもある武(たけし)、そしてなぜか千愛の恋人・陽介(ようすけ)も同行。

当然、新しい舞台には新しいキャラが付き物で、今回も数人の新キャラが登場します。
ただ、同じく大貫が主催した「裏マッサージ大会」の時のように、
今後も今回から登場した人物たちがレギュラーメンバーのように活躍するかというと違う。

というのも、専門学校というのは当然、高校を卒業した者が進む進路であり、
(特にマッサージ系の)生徒たちの年代は様々だという特徴があって、
新キャラたちは、彼ら高校生3人よりも年長であるという理由が大きいだろう。

今回、専門学校を見学することによって、
より現実に即したマッサージの習熟過程が見られるし、
そして、高校生の彼らでは扱えない分野のことも描かれている。

前半は、マッサージ系社会科見学といった感じの内容だ。


つの間にか不陶花高校の3人ははぐれてしまい、個別に行動することに。
そんな中、千愛が出会ったのが、32歳の専門学校1年生、白岩 梶(しらいわ かじ)。

女好きで浮気性、そして決して賢くない梶は4回目の1年生をしているらしい。
一緒に講義を受けるだけでも、そんな彼のダメダメな面を垣間見る千愛。
だが、実技に入った白岩の姿に千愛は魅了される。

実は彼、既に働いていおり、最高の鍼師の異名を持つという。

これは鍼という、これまで登場しなかった新しい分野の紹介ですね。
いくら資格のない高校生によるマッサージがフィクションの設定であっても、
さすがに鍼の分野をさせる訳にはいかないだろう。

そこで鍼の分野の奥深さを見せるのが今回の白岩の役割。

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鍼の神が降臨。もろびとこぞりて 見学して 奇蹟の技を拝む。主は来ませり。

ということは 作中に出てきた「あはき師法」、
あんまマッサージ師 はり きゅう師に関する法律の中で出てきてないのは、
お灸に関する話も用意されているのかな。
…と思いましたが、出てきませんでしたね。

陽介の体の上で燃える灸、熱さを我慢する苦悶の表情など見てみたかったなぁ…。


そんな既に働いているプロの立場から白岩は陽介の凝りの原因が分析する。
それは精神的なモノであると白岩は告げる。

「そのままでいたら壊れる」という陽介の精神性の凝り。
実は自分の、自分も知らない過去に対して恐怖を感じている陽介。
その限界が早くも現れるのが後半である。

陽介の精神的なトラウマ、そして過去の蓋が徐々にではあるが開かれていく。
少しずつではあるが、物語の向かう先が明示されているのは良いですね。

先に目標があると読み続けようとやる気のスイッチが押される気がします。


この一連の回は、作者の学校見学の成果が存分に見える。
肌で感じてきたことを、ちゃんと作品に落とし込んでいるところが凄い。

職として学びとしてマッサージに接している方々に敬意を払い、
失礼のないように正確な情報しっかりと挿んでいる。

それでいて笑う箇所を用意して、真面目過ぎない線をしっかり保持しているから凄い。
マッサージ系の専門学校の案内として使えそうだ。使えないか…?

本書を読んでマッサージ師という進路を考える中高生たち、
そうでなくてもマッサージに行ってみようと思う人たちはかなり多いのではないか。

マッサージ協会みたいなところから認定書籍にしてもらえそうだ。もらえないか。


た理事長である大貫という存在も、この作品には珍しい指導者の立場である。

不陶花高校のマッサージ部は上下の関係が緩く、
千愛も1年生ながら既にかなりの腕前をもつことから、
千愛がマッサージ技術の不足を感じたことはほぼ無かったが、今回は千愛も多くの収穫があった模様。

それを感じさせられたのが、もう一人の新キャラ・伏見 倫太郎(ふしみ りんたろう)との対決。
彼は本書に珍しい闘志を隠さないキャラで、嫌な奴でもある。

大貫に弟子志願しても叶わず、彼から学校への入学を勧められた伏見。
だが今回、大貫の唯一の弟子的存在・武に遭遇してしまったことで敵意をむき出しにする。

しかし実際に指名され、対決したのは千愛。

といっても「裏マッサージ大会」のように持てる技術をフル活用するのではなく、
マッサージへの向き合い方が勝負の鍵となった。

この対決を通して、マッサージが上手いというのは どういうことか、
マッサージ道のようなものが語られます。

凝りばかりで人を見なかった伏見、
伏見は駄目なお手本としての登場でしたね。

若さと外見の良さで実力以上にチヤホヤされてしまうのはどこの世界でもありそうなこと。
伏見はこの機会に大貫に鼻っ柱を折られて、逆に救われたかもしれませんね。

本書は千愛が高校1年生の1年間のお話だけだが、
後年の話があれば、伏見は腕の良いマッサージ師として再登場したかもしれません。


して伏見への説教を傍で聞きながら、自分の陽介に対する姿勢も同じだと思い知らされる千愛。
マッサージと愛がマッチしていく様子が良いですね。

千愛もまた日々自分とマッサージと向き合い成長し、
陽介に何があっても受け入れる、受け止める準備をしている、のだろう。

千愛は無自覚に愛されるだけのヒロインじゃないので、
なるべく彼女には辛い思いをして欲しくない。
そう思うぐらいに彼女に肩入れしている自分に気づく。


して後半で早くも凝りが臨界点を突破した陽介。
「寝ぼけると色気マックス」になり「誰かれかまわず口説く」陽介の習性が組み合わさり無敵モード。

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凝りが臨界点突破し、もはや凝りが本体となり、人格や行動を乗っ取られた暴走 陽介。

普段は感情の起伏があまりなく、ヒーローとしては影が薄めの陽介だが、
このモードに入ると、胸キュン場面も作者の ほしいままに展開するのが面白いですね。

女性たちが蕩けてしまいそうな気障なセリフも、
アクションだって、コメディだって何でもこなしてくれる万能キャラになっている。

最終話の何をやっても面白いことになる三姫(みひめ)共々、
前半でやや硬くなった物語を見事に解きほぐしてくれるギャグ展開でした。