八田 鮎子(はった あゆこ)
オオカミ少女と黒王子(おおかみしょうじょとくろおうじ)
第9巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
エリカにまさかの浮気疑惑!? さんちゃんの誕生日プレゼントをさんちゃんの弟(小学生)と買いに行くと言うエリカ。すると神谷くんは「あれは怪しい」と佐田くんにけしかける。不安が募る佐田くん。ついにはエリカと弟くんの買い物当日、佐田くんはエリカの様子を見に行くことに。しかしエリカの前に現れたのは、とても小学生とは思えない長身イケメン! 動揺を隠せない佐田くんは学校を欠席。果たして、2人の関係はどうなってしまうのか?
簡潔完結感想文
- さんちゃん ストーカーを撃退す。長女だからか独力で解決しようとする さんちゃんだったが…。
- 純とエリカの土曜日。さんちゃん の小学生の弟と待ち合わせをしているエリカ。だが現れたのは…。
- 恭也とライムの10日間。離れて暮らす母姉の飼う犬を預かることになった恭也。子煩悩 来る!
共通のテーマは「目を逸らしたくなるもの」だと思われる 9巻。
付きまとうストーカー、彼女の浮気現場、増える自分の体積、そして彼氏の もう一つの顔。
うん、この『9巻』は間違いなく『サザエさん』状態ですね。
お馴染みの登場人物たちで短編4本 作りましたという内容。
内容としては前巻と大きく変わらないけれど、個人的に重要なターニングポイントだと思っている『8巻』に比べると本当に何も起きない巻である。
恭也(きょうや)が一層 キャラ崩壊を起こして滑稽さを増しているぐらいだろうか。
貰った遊園地のフリーパスでエリカをデートに誘うが断られてたり、
エリカが自分に愛想が尽きて浮気されているのではないかと疑い、
ついつい エリカと その浮気相手と思しき男との待ち合わせ場所に出向いてしまったりする。
かと思えば、しばしの間 一緒に暮らすことになった犬に鼻の下を伸ばしたり、
これまで見せたことのなかった顔を幾つも見せてくれている。
この恭也の百面相は、序盤の彼のファンにとって嬉しいのか、嬉しくないのか判別が付かない。
私としては本来のキャラを頑張って守りつつ、本来の素顔が見えてきたことが少し嬉しい。
書くことが、ない…。
取り立てて大きな事件も、思いつく考察もないので、感想がない。
全巻読んでからの感想としては、さんちゃん こと 三田(さんだ)さん と健(たける)は 1話目のストーカー話が伏線で、
この後、恋愛関係になるのかなと思いましたが、結局は2人とも話し合いの末、友人関係でいることになったらしい(『16巻』より)。
私は脇役の恋愛を本編に持ち込んで連載を続けるのが あまり好きではないので、これは むしろ歓迎する展開。
さんちゃん が恋愛に溺れたり悩んだりするのはキャラじゃない だろうし。
さんちゃん を助けるために特攻服に身を包んだ、エリカ・恭也・健の3人。
目つきが悪い恭也は本物っぽく見えますね。
2話目は そんな さんちゃん の誕生日を巡る物語。
さんちゃん の弟からサプライズで渡すプレゼントを一緒に選定して欲しいと頼まれたエリカは、
大変 珍しい恭也からのデートの お誘いを断って、土曜日に駅前で弟くんと待ち合わせ。
誤解と誤情報が重なって、エリカが嘘を付いていると思い込む恭也。
本来、休日は出不精で家に居ることが多い恭也(『7巻』おまけマンガ)が、
何かと駅前に出かける理由をつけて、エリカを見張っていると、そこに現れたのは…。
彼女の浮気現場を目撃して、魂が抜けてしまって、家に逃げ込む恭也の姿からは、彼のメンタルの弱さが露になりますね。
相手の弱みに付け込んで上に立つのは上手いが、
自分の弱点が露呈されると、一層 慌てて、思考がストップしちゃうところが小物感に溢れています。
一時的とはいえ、エリカが恭也の上に立つというのも珍しい現象。
恭也がエリカに握られた弱みは、惚れた弱み、ですよね。お幸せに。
そして何よりオチが良いですね。
もう完全にギャグ漫画です。
3話目は完全なネタ回。
新年あけてから2月に入るまで暴飲暴食をし続けたエリカのダイエット企画。
二次元の人が太ろうが痩せようが関係ないと思う冷淡な私。
ただエリカは極端な痩せ型に描かれてないので、少女漫画で たまにいる
棒のような手足でダイエット、ダイエット言っている人よりは切実度が伝わってきました。
順調に体重を落としながらも、一度、誘惑に負けてしまった自分に喝を入れるべく、
「もし目標を達成できなかったら そのときはっ 恭也くんと別れるっ!!!」
と高らかに宣言するエリカ。
こういうところがエリカらしいなと思いました。
そして安直に彼氏との交際を終わりにしようとするところが嫌いなんだよな、と改めて思いました。
4話目は、海外旅行に行く母と姉の家で飼っている犬・ライムを10巻預かることになった恭也の話。
ただの親バカと成り果てた恭也の新たな一面が見られる。
恭也の犬好きは本物だったんですね。
一目見ただけで恋に落ちてるし。
親の別居が原因で失くしてしまった彼の童心が戻ってきたという感じでしょうか。
この話で精神的な浮気をしているような状態の恭也に、エリカが文句を言わなかったのは偉いと思った。
これは これまでのエリカとは えらい違いだ。
これまでのエリカなら犬にも嫉妬して、張り合おうとして、間に入って空回りして、
結果的に そんな態度を恭也に呆れられて、喧嘩してというパターンだってあり得たはず。
彼を優しく見守るエリカの彼女としての余裕が見られます。
もしくは母のような眼差しでしょうか。
相対的に 元・王子の恭也が小さく見えますが。
胸キュンやトキメキ成分は少なめですが、
着実に関係性を深めている2人は きちんと描けているのではないでしょうか。
単純に本物の犬と、飼い犬・エリカを同列には並べられないが、
もしかしたら、母姉の犬・ライムに接しているように、恭也の心中ではエリカに対しても同じような気持ちがあるのかもしれない。
何をしても可愛い。人に自慢せずにはいられない。
色んな服で着飾ってやりたい。四六時中一緒にいたい。
居なくなったら寂しい。
だから、俺が呼ばなくても いつも一緒にいろよ(ハート)
この辺から恭也の中では『関白宣言』が流れているかもしれませんね。
俺より先に死んではいけない。愛する女は生涯お前 ただ一人。
繰り返しになりますが、勝手に重要な巻だと思っている『8巻』からは攻守が変わって、恭也のターンが始まった。
受動態から能動態へ エリカへの態度が変わったが、なかなか素直になれない恭也。
恭也側の少し こじれた「好き」が描かれているのが、この巻なのではないか。