高須賀 由枝(たかすか ゆえ)
グッドモーニング・コール
第2巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
悪徳不動産屋にだまされて、同居するハメになった菜緒と上原くん。上原くんに片思いな菜緒は、クリスマスイブを上原くんと過ごしたいのだが、バイトに忙しい彼。ところが、イブの日に休みが取れた上原くん。そこで菜緒は…!?
簡潔完結感想文
- 受験生のクリスマス。24日は上原くんとお出掛けが出来ると舞い上がった菜緒が高熱を出し…。
- 受験生のバレンタイン。受験の数日前(推測)にチョコを作っている中学3年生がここにいる。
- 高校生の新生活。合格ラインぎりぎりで勉強は2ページぐらいしかしてないけど合格。予定調和!
恋愛以外の悩みは作者が予定調和で解決してくれる 2巻。
文庫版の柱(1/4スペース)は作者が連載当時の約10年前を振り返っている。
この『2巻』の柱では、主に本書終了の経緯と続編を開始するキッカケについて語っている。
本書の終了は「ストーリーに奥行きがない」「予定調和ばかり」という批判ばかりが耳につき、
作者も気に病み、連載も長期化したこともあって、物語を畳むことを決めたらしい。
そして、連載終了後しばらく経って、連載当時は全く開封しなかったファンレターを読んで、
本書が大切に読まれていることを知り、本書で描ききれなかったことを描きたいと望み始めたとか。
私はてっきり かつての人気作家への出版社側からの救済措置かと思っていました(もしくは大人になった読者からの小銭稼ぎ)。
そういうことを知ってしまうと、手厳しい批判は出来ないなーと思いつつも、
批判したくもなるよなー、というファンタジー設定も目につきます。
『2巻』ではずっと「受験生だろ!」とツッコミ続けましたね。
それは後述するとして、
恋愛漫画として一番面白いのは間違いなくこの巻ですね。
2人が想いを少しずつ寄せていく様子、
想いを届けるのか届けないのか、じりじりと焦がれる様子、
そして意外な場面で展開される 待ちに待ったその瞬間、
どれもこれも つい頬が緩んでしまう場面ですね。
『2巻』前半では上原(うえはら)も菜緒(なお)に近づく同性(おもに阿部(あべ)っち)嫉妬を覚えたり、
周囲の助言や言動によって自分の中の恋心を自覚し始める様子が描かれている。
この上原の気持ちを後押しするエピソードを丁寧に重ねているところが好きです。
好きじゃなきゃしないこと(菜緒の顔を見たくなったなど)を無自覚でする、
少しばかり鈍感だけど、素直であるから、徐々に自分の気持ちを認めていく上原が可愛いですね。
そんな気持ちの変化が訪れたのは、冬を迎える頃。
そう菜緒たちに中学3年生の冬がきたのだ。
『2巻』における私の批判の8割は 受験生だけど受験生じゃない菜緒たちの生活にあります。
挙げるときりがないのですが、
・2学期の終業式の日に進路希望の紙が配られたり、その時点で志望校すら決めてなかったり。
(進路相談とかなかったのだろうか…。)
・受験生が2人住む家に、上原の兄嫁・百合(ゆり)が数日間 居座ったり。
・ショッピングをしたり、デートを重ねたり(阿部っち)
・本当に受験数日前のバレンタインデーに手作りチョコを渡す算段に頭を悩ませたり。
受験のストレスで2人の仲が険悪になる展開なんて絶対に見たくないから、
作者も思い切って、受験に関してのあれこれを一切排除したのだろうけど、
それにしてもチグハグさは否めない。
連載だっていつまで続くか分からないし、
少女漫画として恋愛系のイベントも盛り込まないと、という葛藤の末の決断なのでしょう。
実際、冬の場面は中3の時しかない(らしい)ので、この決断は正解だったのかもしれません。
中学3年生で、菜緒は高校は寮のある学校に入るつもりだったので、
長くても半年間の同居生活だから、お互い譲歩して始めてみよう、
というハードルを下げるための設定が、かえって裏目に出ている気がしますね。
これなら最初から高校1年生の設定の方が、お話に余計な要素を持ち込まずに済んだのでは?と思う一方、
それだと3年間の長期の同居も視野に入ってしまうからハードルが高いのかなぁ、と思考が堂々巡りしてしまいます。
ちなみに上原は成績上位30人以内。
「イケメン御三家」問題といい、30位以内という控えめな数字といい、設定特盛ではないところに好感を持つ。
(特盛の場合は学校一のイケメンで生徒会長で成績も学年トップ)
そんな上原は一番近いからと菜緒の頭脳でも(辛うじて)合格できる(かもしれない)学校に進学予定(予定調和!)
そういえば頭の良い男子が、出来の悪い女子に勉強を教えるという少女漫画では定番となっているシーンは本書にはありませんでした。
…っていうか、勉強しているシーンが(ほぼ)ないわ!
高校進学で湧き上がるのが、同居解消問題。
もともと長くて半年、高校は寮のある学校と決めていた菜緒は、好きになってしまった上原と別れるのが辛い。
だが、上原は部屋を出ていく準備を整えていて…。
この辺りから菜緒が一人で勝手にドツボにハマっていく展開が多くなったような気がします。
当初のやや強気な気風の良さはどこへやら、自分の意志や疑問を内に秘めるようになってしまった。
これでは何もしない ぶりっ子内気キャラと変わらない。
そして人に遠慮することで事態をややこしくしている。
些細なことを重大事件だと見せて漫画を盛り上げようとする作者の意図に菜緒の性格が変貌していったように思う。
当人(上原)に聞けないからといって同居人の物を勝手に漁るなんて、
マナーとして絶対にして欲しくはないことだろうに(『2巻』だけで2回やっている)。
まぁ、恋愛以外で菜緒の悩みなど太ったことぐらいだろう(決して太ってないので嫌味にしか思えないが)。
作者としては短期完結型の物語を重ねたいのだろうけれど、波乱の創作には疑問が残る。
なんとも微妙なケンカが多い(『2巻』では2回。特に文庫版は収録回数が多いのでネタ被りがち)。
そしてあっという間に仲直りして元通り。
夫婦喧嘩は犬も食わぬ、ではないけれど、何度も繰り返されると勝手にしてろ、と辟易&傍観する気持ちになります。
『2巻』で巻き起こる本当の夫婦喧嘩は、
上原の兄と、その嫁である百合に巻き起こる。
旦那が浮気していて百合が離婚する、と言い出したから大変。
もし百合が人妻でなくなったら、上原は百合への想いを再燃させるかもしれないのだ。
しかし百合も受験生2人の家にお邪魔して居座るなんて罪な女だ。
そして百合の喧嘩も一瞬で元通り。
そして考えてみれば百合も上原がいないことで新婚生活を享受しているのに、
仕送りを一銭もしないというのもシビアな兄夫婦だ。
ワガママの代償ということなのだろうか。
せめて義務教育期間だけは援助を、と思わなくもない。
ただ、この騒動を通して掛けた迷惑の代わりに百合が菜緒のために、上原にけしかけてみる。
部屋には菜緒がいないと思ってる上原に本音を引き出そうとしたのだ。
意外な形での告白シーンとなりました。
この告白は少女漫画の中でも かなり上位に入る告白場面ですね。
自然体に人を好きになっている感じと、上原の純朴な人柄が相まった素敵な場面です。
菜緒が返事をしていないどころか、上原が菜緒の気持ちを承知しているのかすら不明なぼんやりとした交際が始まりました。
作品の雰囲気には、とても合っているんですけどね。
恋人だから、あれをしなければいけない、これをしようという手順がない感じが好きです。
何だかんだ菜緒には甘い上原、というのもよく伝わってきますし。
でも上原には欲望というものが感じられませんね。
早く手を出しても下心と言われ、遅かったら魅力がないと落ち込む女性たちに、どう対応するのが正解なのだろうか。
私は本書を一度、完読しているはずなのですが、
既にこの『2巻』の中盤から記憶がない。
本当に一片の記憶がないことに自分でも驚いている。
そしていつの間にかに受験も終わり、高校生編がスタート。
新天地で、新キャラも登場してるんだけど、展開が本当に誰も記憶に残っていない。
果たしてこの後、ピークを越えた物語は どうなることやら…。