《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

イケメンという言葉が存在しなかった 20世紀のイケメン同居モノ少女漫画。

グッドモーニング・コール 1 (集英社文庫―コミック版)
高須賀 由枝(たかすか ゆえ)
グッドモーニング・コール
第1巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★(6点)
 

両親の都合で、卒業までの半年間、マンションで一人暮らしをすることになった中三の菜緒。ところが引っ越しの日に、何と別の男の子が同じ部屋に引っ越しをしてきたから大変! しかも、彼は同じ中学の上原くん。結局、同居するハメに!?

簡潔完結感想文

  • 手違いから始まった中学生男女の同居生活。その上、偽装交際まで始めてドキドキは最高潮。
  • ライバルの存在を通して恋心を自覚していく2人。単なる同居が同棲に変わるかもしれない⁉
  • 読み返すとツッコミどころ満載。特に金銭面。オシャレな服にオシャレカフェ、贅沢な暮らしだ。

女の子の憧れをギュッと凝縮した夢のような物語の 1巻。

女漫画はあの手この手でイケメンと同居させようとするが、
その中でも辛うじて無理のない、そして掲載誌が「りぼん」ということもあり健全な感じがする作品です。
イケメン男子との『L♥DK』ならぬ「2L♥DK」生活の始まり始まり。

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不動産屋の二重契約によって同じ部屋に引っ越してきた二人。互いに行き場のない2人は同居を始める。

回でまず読者の心を掴んで離さない作品。
中学校3年生の女子・吉川 菜緒(よしかわ なお)は両親が田舎に戻るため、一人暮らしを始めることになった。

同居以前に、この出だしから憧れますね。中学生で一人暮らしなんて。
特に思春期で家族という存在すら鬱陶しく思えてくる頃には夢のようだろう。

しかしそこに男が勝手に上がりこんできて、ここは自分が契約した部屋だと言い出したから大変。
よくよく見ると、その男は学校の「少年御三家」と呼ばれる同学年の上原 久志(うえはら ひさし)。

「御三家」という言葉が時代を感じさせます。
わざわざ学年一とか学校で一番とか言わないから、「御三家」ということが重要で、
のちのち残りの2人も登場するかと思ったのですが、しませんでした。

2人は悪徳の開戸井(あくどい)不動産による二重契約に巻き込まれてしまったのだった。
お互いに訳あって家族の元には帰りたくない2人は同居を始めるのだが…。

初回のラストは『グッドモーニング・キス』!
同居しているからこその展開ですね。

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同居していたら、こんなハプニングもあるのは当然。これぞ『グッドモーニング・キス』ですね。

人公の菜緒も、恋愛漫画としても、少しおっとり気味なのが良いですね。
イケメンだ! 恋愛がしたい!という前のめりな姿勢ではなくて、
同居を通じて、お互いの良さが分かってくるという構成が心地よい。

恋愛描写は基本に忠実といった感じで独自色は薄め。

夜道を歩く菜緒を心配して上原が駆け寄って来たり、
連日のバイトの疲労で、ソファで寝てしまった上原に菜緒が布団を掛けたり、
続々と登場する女性キャラに嫉妬を覚えてみたりする。

更には同居のことを隠すためにも学校では他人の振りをするという縛りが出て来たり、
アホの子の菜緒がそれを破って、話しかけることで女子生徒から恨みを買って、
嫌がらせから菜緒を守るために、上原が偽装交際を工作したりする。

また菜緒の親友が上原に恋をして身動きが取れなくなりそうだったり、
菜緒自身が同級生の男の子に告白されたりもする。


当に少女漫画のお手本のような流れが続くが、
適度に現実離れしていて、適度にコミカルなので気負わずに楽しく読める。
生真面目にお話が進むのでプロットが見え隠れする部分もあるが、
何といってもテンポが良いので、端正な線と相まって夢中になれること請け合い。
まぁ、長編化にあたって息切れしないかは今からとても心配ではあるが…。

上原のキャラクタも21世紀の極端なキャラ付けとは違い、
適度な俺様キャラで、安心して (?) 心を奪われることができます。
上原の情報として剣道・書道・そろばん の段級位を持っているというのが、ちょっと昭和臭いですね(偏見)。

そういえば菜緒の方は同居前から、学校のアイドル的な存在の上原の顔と名前を知っていたが、
上原の方は顔も名前も知らなかったんですね。
初恋の人・百合(ゆり)しか眼中にないから目に入らなかったのか、
男子生徒の中で話題にならないぐらい、菜緒の容姿が十人並みだという証明か…。

そんな上原の初恋の相手・百合は、今や兄の妻になってしまった女性。
親を亡くして10歳上の兄と暮らしていたが、兄が結婚し、しかも相手が百合であることから上原は家を出た。

現在21歳の百合は既に働いていて、上原の家出にも「2人っきりの新婚生活を味わ」える、と寛容。
百合が21歳だったのは再読で驚いたことの1つ。
てっきり兄と同じぐらいの歳かと思ったら、上原兄弟とは絶妙な年の差があった。
これぐらいなら年齢を重ねれば重ねるほど気にならない年齢差だなぁ。
これは菜緒、大ピンチ。

そんな菜緒は、百合との会話はタメ口でいいと言われて、
本当に見事なタメ口で違和感がある。イラっとするぐらい(笑)
せめて「です」「ます」ぐらいはつけてほしいところ。

そんな感じで多少の障害はあるものの、少しずつ恋愛を意識しだす2人。
一番近い存在を好きなってしまった時、同居生活が どう変わっていくのか楽しみです。
現時点では高校入学までの半年間という期限も作品に緊張感を醸し出すのに一役買っています。


女漫画としては当たり前かもしれませんが、同居生活の良い部分だけが描かれているなぁ、とは思う。
洗濯物とかトイレの問題など羞恥を覚えるようなの描写は一切なし。
家事分担を決めたりすることもなく、
料理をしている場面こそあるが、結構余裕をもって生活をしている(特に菜緒)。
今まで家事をしてくれていた親のありがたさを感じるということもなく、気ままな二人暮らしといった感じ。
(上原は社会人の兄と二人暮らしなので、かなり家事を担っていた可能性が高いが)

そして『1巻』の時点では勉強や学力の問題も全く出てきませんね。
普通の公立中学校の3年生で受験生だろうに…。

そういう しみったれた描写は都合よく排除されています。


み返すと、ツッコミどころの多い作品だなぁと思ったのも事実。

まず2人の一人暮らしのこと。
2人が一人暮らし、結果的に2人暮らしになった理由ってワガママなんだよなぁと思ってしまった。

↑のあらすじには「両親の都合で、卒業までの半年間、マンションで一人暮らし」ってあるけれど、
単に自分が田舎が嫌という理由じゃないか。自分を美化しないで、菜緒…。
そして菜緒の性格からいって、住めば都、田舎の良さに目覚めそうな気もする。
しかも転校先にイケメンが居たら、もう引っ越しに感謝すらするだろう…。

そもそも高校入学までの半年間は、母親と暮らすという選択肢はなかったのか。
そして嘘かもしれないが、上原と同居するために菜緒が言う「前の家はもう人手に渡っちゃったし」というセリフ、
じゃあ、引っ越し当日の朝はどこから学校に来たんだよ、と追及したい気分だ。

そして初恋の相手が兄と結婚したため親代わりの兄の家から出てきた上原。
金欠だろうに、宅配ピザを注文したりコンビニでスイーツを買ったりと節約意識がない。

基本的に家賃を7.5万円が必要で、その上 生活費もとなると菜緒のワガママに幾らかかってるのか頭が痛くなります。

そして菜緒は衣装持ちですね。
オシャレさんで、一点一点がそれなりに値が張りそうな服を着ている。
そして一人暮らしという場所がありながらも友人とカフェを満喫する金満家。

まぁ上原のバイト以外には経済という観念はないと思った方がいいですね。

そんな上原は夏休み中、バイト三昧で過労で倒れる。
そんな上原を診てくれたのは医者の息子の同級生。
睡眠不足と軽い栄養失調という診察を下すが、いやいや本物の医者に連れてけよとツッコんでしまう。
そして、この同級生の みっちゃん(男)は男女が同棲していることに何のリアクションもない…。

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上のコマの人物は主人公ではありません。血も繋がっていません。画力の問題です。

話は楽しいのですが、心配事の一つは作者の画力です。
基本的に目の描き方が全員一緒なんです。
辛うじて髪色と髪型、眉の角度などで判別しています。
男女の見分けもなかなか怪しいところがあります。
それなのに登場人物がどんどん増えていくから、読者として集中力が要求されます。
これからが、もっと心配だー。


んと2020年現在も主人公たち2人が大学生になった続編『グッドモーニング・キス』が連載中。
ちなみに本書の雑誌初掲載は1997年。
現実時間では、その年(1997)に生まれた赤ちゃんが大学を卒業するほどの時間が経過しているのに、
作中時間では、続編開始時点で5年ほどしか経過していないらしい。
お金に余裕の出来た、かつての現役読者から細く長く搾取するのは少子化の弊害でしょうか。


本書に登場する小物は さすがに時代を感じる描写がありますね。
菜緒は親からPHS(2018年終了)を持たされているが、固定電話の描写も多い。
子機というの名の大きい機械を耳に当てているのは今となっては違和感がありますね。