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堤監督! 監督の心の蓋を開けるのに7巻もかけたって本当ですか⁉ 主人公かよッ!

悩殺ジャンキー 8 (花とゆめコミックス)
福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
悩殺ジャンキー(ノーサツジャンキー)
第08巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★★(6点)
 

遂に「珠苑(ジュエン)」の最終審査が始まった! 双子のデザイナー・苺&花楓とも仲良くなれたナカは、沖縄での成果を出すことが出来るのか!? そして、ナカを引き抜き、自分の手元に置こうとする堤の真意とは──!?

簡潔完結感想文

  • 沖縄の撮影以降スランプに陥るナカ。だがそれは堤の長期的な計略と調教のせいだった。
  • 写真集の発売=堤の引き抜きまで日がない。海の計画を不退転の覚悟で臨むナカだが…。
  • 時間がないと焦るナカ。更に怪我までして、撮影時間は30分⁉ 落ち着け、この漫画。


各々が自分の中の汚さに向き合う 8巻。

その黒い気持ちに心を汚されないように努めていたが、
肝心のモデルのナカに怪我されちゃって撮影は大混乱、という内容です。


ってかカメラマン・堤(つつみ)撮影のナカの写真集の発売、早すぎじゃない?
12月の1か月間(12月25日まで沖縄で)撮影して、1月12日に発売って…。
出版社である白泉社の編集者も注意しなかったのかね、コレ。

しかもよりによって年末年始を挟んでるし。
さすがに誰も働いてないと思うよ…。


さて、長期間(『1巻』後半から)にわたる堤によるナカの調教(語弊アリ)もいよいよ大詰め。

ナカは沖縄撮影でモデルとしても自信が出てきて、
あの時を思い出せば、と沖縄での成功体験を心の拠り所にしていたが、
帰京以降、オーディションではどうしても上手く笑えない。
ただ、他の仕事で堤が撮影すると上手くいく。
それは、ナカの身体がそうなってしまったからだった。
慢心していたナカは自分の心の汚さを嫌でも見せつけられるのだった…。

ここまで遠大な計画だったんですね、さすが堤監督。

堤の思惑は、海と一緒。
願うのはナカの独占。
似た者同士ですね。
これが彼らの心の汚さ。

堤にとっては暫くぶりに見つけた自分だけのミューズ。

女の子にインスピレーションをもらい続けて輝く堤は、光源氏のようだ。
堤は50歳になっても自分のミューズにお熱になり、
はるか年下の子を独占しようと画策しそうですね。
そして世間からは重度のロリコンと思われるのだ。

そんな頃、自宅に保管してあった自分の原点ともいうべき、
カメラマンとして本格始動する前に撮影した写真の入った缶を捨ててもいいと家族にいう堤。

これは堤の過去との決別を意味する。
元彼女・美羽(みはね)との思い出もその中に封じているのだろう。

まさに彼女との思い出を缶に閉じ込めて、気持ちに蓋をしていたということですね。


堤の策略と自分の思い上がりで、ナカは堤じゃないと実力が出せない身体になってしまった。

このままでは、ナカは堤の事務所に引き抜かれ、ますます堤に依存する身体になってしまう。
そう案じた海が一発逆転を狙った作戦は、
ウミナカで依頼された仕事で成果を出すこと。

期限は写真集が発売される5日後まで。
その日が、堤が決めたナカに引き抜きの話をする日だからである。

出ました、お得意の、そしてマンネリの、タイムリミット&カウントダウン。
本当に2巻に1回はこの手法を使いますね。
人目を引くための閉店セール(改装のため)を連発するディスカウントストアに思えてしまい、
作品の品格や質が落ちるように思えてしまいます。


そんな、2人での仕事、カタログの制作は花楓(かえで)と苺(いちご)、
デザイナーの双子の兄妹と仲を深める機会でもある。
まだまだ新参者の双子を読者に馴染ませるためでもあるだろう。

そして年少の中学生組が、年長の高校生組の堤監督に一泡吹かせようという展開でもあります。

カメラマン以外は『悩殺・八犬伝』8人の中から選出され、8人中5人の共同制作作品となります。
ビデオカメラは千洋(ちひろ)が担当。


この仕事を前にして、ナカは堤に覚悟を示すため、結果が出なければモデルを辞めると宣言する。
これは堤と美羽の過去とダブらせる意味もあるだろう。
けれど退路を断つためとはいえ『7巻』のウミに続き、ナカまでこんなことを言い出すとは…。

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不退転の覚悟、なんだろうけど、モデル辞めるとこの漫画終わるよ…。

辞める、ってことを簡単に言って欲しくないなぁ2人とも。
使えば使うほど安くなる言葉だと思う。
モデルの仕事が好きだという言葉も薄まってしまう。


何だかなぁ、と思う展開はもう一つあって、
多用される体調不良で寝込んだ時のうわ言のような本音に続いて、
酔っぱらった時になって、サラッと本音を言う堤に失望した。
正気を失わないと、本音が言えない弱い人たちなんです。

中盤、お酒に弱く酒入りチョコ1つで撃沈する堤の体質を使って本音が引き出される。


発言のキッカケは本当に残念だけど、語られる堤の本音は、本書にとっては爆弾そのもの。
ナカはやっぱり代替品、美羽の「身代わり」と堤が明言したのには驚いた。

でも身代わりの割には、1巻からずっとナカに付きまとってましたね。
もう全16巻中の『8巻』で折り返し地点ですよ。

これは今までの土台をひっくり返すような重大発表で、長い長い言い訳だったこと、巻数の贅沢な使い方に驚かされる。

ただ、こういうことを酒に酔った勢いで行ってほしくなかったなぁ。
誰もかれも本音は正気を失っている時しか言えない漫画なんですかね?
ここもワンパターンだと思うし、
涙を流す堤に心動かされるというよりは、小狡さ・卑怯を感じてしまう。
もっと正面からぶつかって欲しいです。

この辺りの、登場人物が自分の気持ちを素面(しらふ)で言えないことが、この作品の汚さですかね。


そして千洋も同じ、堤が気持ちに蓋をしたままならば
自分が美羽と上手くいくような未来を夢想していた自分を汚いと感じていた。

でも、彼らが気持ちに蓋をしていることも、千洋には手に取るように分かる。
だから、今度は自分が気持ちに蓋をして、お節介を焼く。
このお節介の効果はこの『8巻』では描かれていません。


そして、いよいよカタログの撮影開始。
時間のない中、アイデアを形にしていく。

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見とれるほどのウミの「男装」。作者の画力が段違いに上がっている。

しかし時間のないなか、アクシデント発生。
『8巻』の序盤で苺が海についた、ナカが足を怪我したという嘘が本当になってしまった。
言霊ですかね。

でも足に怪我って前、ウミの時もやりましたよね。
モデルにとって目立たないのが足で、
時間制限に怪我でナカの焦燥と成長を表したいのだろうけど、
こうやって枷をつけて困難を演出するのも飽きました。
ってかピンチの引き出しが少なすぎる。

しかもカメラマンが東京に急いで帰らなければならなくなり、時間制限は残り30分に!
本当に時間に追われる漫画だな。
せわしない。
ピンチになって覚醒する手法も少年漫画的ですね。

『5巻』の終わりでナカが沖縄から帰ってきて2週間ちょっと。
ちょっと詰め込み過ぎだ。

登場人物の心の移ろいは丁寧に描けていると思うが、
その心を伝える時は非常事態が伴っているので、落ち着かない。


ちなみに今回、カメラマンを買って出たのは珠苑の編集長。
元カメラマンなのに無駄にモデル体型で、とても40歳には見えない。
堤の同級生と言われても違和感がない。

そんな外見で言動だけは立派だから違和感が出てきてしまう。
絵に貫録が欲しいところ。