福山 リョウコ(ふくやま りょうこ)
悩殺ジャンキー(ノーサツジャンキー)
第01巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
緊張すると極悪面になってしまう蕪木那伽は、目下オーディション19連敗中の駆け出しモデル。しかし、超人気モデル・ウミの秘密を知ってしまった那伽は、口止め料代わりにブランド「ジャンク」のモデルに抜擢され――!?
簡潔完結感想文
- 自分をフッた先輩を見返すためにモデルになったナカ。だがオーディションには落ち続け…。
- その先輩が悩殺されているのが売れっ子モデルのウミ。しかしウミには重大な秘密があり…。
- 秘密を知って以来、2人で行動することの多いナカとウミ。2人でなら前へ飛び続けられる。
主人公たちを人気モデルに、作者を人気漫画家に駆け上がらせた作品の1巻目。
少女漫画ではよく見られる、元々は読切短編だった作品を長編化した作品。
しかも本来ならば1巻分5話までの短期連載だった予定が、
読者からの多大な人気を得て(推測)、
連載終了時には90話『16巻』まで到達したから凄い。
初長編も初めてなら初連載も初めてなのに『16巻』まで続くというのは、なかなかないだろう。その人気も納得の、最初から世界が出来上がっている作品となっている。
ちょっと読み手を選ぶ気はするが、最初から最後まで勢いが変わらないことは間違いなく長所。
作者の若さと熱意が作品にほとばしっていることが伝わってくる。
読み手を選ぶ、というのは常時 高めのテンションや設定を受け入れられるか、という問題です。
お話自体は切れ味がよく、長編化しても読者の心を離さない工夫が随所に見られる。
作品に「悩殺」されると楽しい漫画です。
ただし作品に悩殺されなかった場合は、かなり読むのに苦労する漫画でもあります。
正直、私も中盤までは人物に興味が無さすぎて、ページを開けば すぐに入眠できる安眠漫画として活用していた。
けれど、作品の持つ底力なのか、作者の筆力なのか、
中盤以降はどんなことでも乗り越えていく登場人物たちに魅了され、
最終的には彼らが好きになっている自分に気づかされた。
初読時に強く思ったのは、(私の中の)典型的な白泉社の漫画だなぁ、ということ。
1.基本的に、多めの登場人物と物語のハイテンション。
2.(漫画の)線が細め。
3.作者の字が読み辛い。
と、私の中の白泉社漫画への偏見が見事に詰まっている作品でした。
(2010年ぐらいまでの)白泉社の漫画の線の細さは編集者側の好みなんでしょうかね。
そういう作家が選ばれるのか、選ばれるために作家側が描いているのか。
もっと作風のバリエーションがあってもいいのに、と思わなくもない。
また、再読して本書が少年漫画みたいな構造であることに気づきました。
主人公たちの前に次々と現れる癖の強い10代の男女たち。
モデル業界周辺にいる彼らは早熟な才能の持ち主で、ライバルであり「同士」。
時には反発しつつ、一緒に仕事(バトル)をして拳を交えると見えてくる相手の高い技術とプロ意識。
そうして大きな仕事を一つこなす度に、いつしか彼らは「同志」になっている。
読み返してみると、信頼できる仲間を一人ずつ集める、
モデル業界の『八犬伝』(よく知らないけど)みたいな内容だと思いました。
(最終『16巻』の表紙は8人が並んでいることもあって)
ウミ・ナカに続いて、この巻で登場する後々の3人目の同志は高校生天才カメラマンの堤 郁依(つつみ いくえ・男性)。堤くんも最初は完全に敵(かたき)役のようなポジションです。
ただ、読み返しても序盤の堤の性格にも不自然さをあまり感じない。
作者が凄いなと思うところは、キャラにブレが少ないところ。
初登場時からかなりの精度で完成されたキャラがポンと投入されており、
その後のお話もその性格のままで作れているところが凄い。
作品内で起きるトラブルも相手の人となりや思考が分かるまでの齟齬・すれ違いなのだ。
そして相手に自分を分かってもらうまで全力で物事に対処するから清々しい。
すっかり忘れてましたが、物語は主人公・ナカの失恋から始まっていたんですね。
先輩に片想いして、その復讐のためにモデルになった。
そこで出会ったのが既に売れっ子モデルとして活躍している同じ事務所のウミ。
ある時、ウミの所有物を拾ったことからウミの秘密を知ってしまったナカは、
ウミの秘密を秘す代わりに、ウミと仕事をすることに。
それが全ての始まりだった…、というのが今更ながらの あらすじ紹介。
もとは読切短編なので仕方ないですが、1話目、結構大きなブランドである「junk」の仕事を
ウミの秘密と引き換えに、ナカがコネで取ってるという展開はちょっと残念ですね。
最初がこれだと努力や実力ではなく、コネの世界なんだ、と誤解してしまう。
しかも後半の、ブランドの顔になる難しさを描く展開と矛盾してしまっている。
早くも、抜群に可愛いのに売れないモデル・ナカという設定の説得力の半分が消失している。
(もちろん、ブランド側もナカに可能性を感じたのだろうが…)
そして読む人を選びそうな設定の方も問題が多い。
これは物語の中に軽々と没入できる若さや体力がないと、かなり苦しい。
まずは性別の超越の問題。
男 ⇔ 女 の入れ替わりは少女漫画にはよく見られる設定で、目をつぶるべきファンタジー設定なのだろうけど、
本書で扱っている職業がモデルというのがよくない。
まず着る服に制限が出来るだろう。
足りないところは追加できるが、出るところは引っ込められないのだから。
どんな服装でもポーズでも、万人に不自然さを与えない、というのは高い高いハードルだ。
そしてファッションショーの裏側は戦場で、目まぐるしく着替えるらしいが、ウミにはそれが出来ない。
駆け出しモデルだった頃から、ずっと個室状態で着替えられる環境を与えられていた訳ではないだろう。
(ネタバレになるかもしれませんが)後半に、この問題は大きく取り上げられるが、
そもそものスタート地点で疑問が湧いてしまい、読書欲にブレーキがかかる。
中途半端に分別臭くなると純粋に楽しめなくなってしまいますね…。
そして、カメラマン・堤がウミの性別に疑念を抱くという展開上の措置とはいえ、
合宿オーディションの各部屋に監視カメラがあって、回し続けるという設定もいかがなものか。本書がモデル業界に対して真摯なのかいい加減なのか分からなくなる内容だ。
そこも読者側が割り切って読まないといけないのだろう。
「ファンタジー」「ファンタジー」と呪文のように唱え続けなければなりません。
そして一旦、作品と距離を感じてしまうと、
設定が全乗せされているウミはともかく、ナカだって結局スタイル良くて美少女なんだなぁと
選ばれた人たちの物語に思えてしまいますね…。
そういう疎外感を感じさせないためのナカの極悪フェイス設定や、
お笑いに走る展開だったりするのだろうけれど。