《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

たとえ3年経っても 私よりも背が低くても 好きになったはず。はずだもん…!

キミのとなりで青春中。(1) (フラワーコミックス)
藤沢 志月(ふじさわ しづき)
キミのとなりで青春中。(きみのとなりでせいしゅんちゅう。)
第1巻評価:★★★(6点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

「幼なじみ」って近すぎてなかなか「恋」になれないね――
父親と二人暮らしで、主婦代わりの毎日を送っている女子高生の美羽(みう)。そんなある日、3年前アメリカに引っ越してしまった幼なじみの慶太(けいた)が隣の家に戻ってくる。超イケメンになった慶太に、とまどいを隠せない美羽は――? 青春LOVE連載♥待望の第1巻!!

簡潔完結感想文

  • 一番近くにいるのに一番遠い。そんな関係性の人々が織りなす思いを繋ぐ物語。
  • 友達の予防線を張りまくる彼。過去に一度、告白を茶化した私には権利すらない。
  • キミのとなりにいるには、現状が一種の理想。でも私は自分のリアルを伝えたい。


一番近くて遠い そんな人生の大半を一緒に過ごしてきた人々の ままならぬ心理が描かれる物語の1巻。

13年間ずっと家が隣同士の幼なじみとして育った美羽(みう)と慶太(けいた)が3年間の空白を経て再会する。
成長期の違いで、3年前は女の子の美羽よりもずっと小さかった慶太がイケメン化して育った土地に戻ってくる。
イケメンで長身で英語ペラペラの帰国子女で、あっという間に学校の人気者になる。
会えなかった3年間で色々な設定が乗っかった慶太。
だが周囲の女子はともかく、そんなものは美羽にとっては副産物でしかない。
あの雪の日、思春期の入り口で、自分よりも背の小さかった慶太から告白された頃の冷凍保存していた気持ちが溶け出していくことに懊悩する美羽。
だが何事もないように幼なじみの友人として接してくる慶太。
身長も関係性も大きく変わっていく中で、変わらないよう努める彼らの思いとは…。

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3年間で逆転した背の高さ
全巻を通じて一番近くて遠いキミのとなりを選択するまでの過程が描かれる。
それは恋人だったり家族だったり様々な関係があるのだが、どのようにその人に寄り添うか子供から大人に変わる時期 = 青春の中での彼らの悩みや苦しみが本書にはある。

もちろん、お話の中心は美羽と慶太の恋愛。
好きや恋愛が絡まなければ、ずっと上手くいくはずの関係性。
1巻では、それを壊してまで自分に正直であろうとする主人公・美羽の葛藤が中心となります。

「幼なじみが あんなイケメンになって戻ってくるとか 少女まんがみたいじゃん」
「今ドキ つまんないよ そんなありきたりな マンガ」

↑ は作中で、主人公が友人と交わす会話ですが、良くも悪くも作品の本質を突いています。
上述の通り美羽にとってイケメン化は副産物としても、3年間の空白が彼女に恋心を、初恋を思い出させるというところがミソ。
本来なら3年前の慶太の告白によって変わらざるを得なかった関係性が、リセットされてもう一度、今度は美羽の側からの初恋が始まるという構図の転換が面白い。
高校生の恋愛の中でもピュア度はかなり高め。
でもかけがえのない、それこそ人生と同義のような関係性を壊す恐怖もかなり高い。
美羽が動くに動けない心理状態を炙り出す様子はなかなか上手い。

更には主人公の美羽は母親が家族を捨てて家を出て行ってしまったというトラウマもある。
だから彼女は「恋ってもんが なんか信用できなくて… 壊れちゃうもんなんだ」と思い込んでいる節があり、恋愛に人一倍奥手になっている。

好意的に解釈すれば この辺りの美羽の恋愛に関する感情の不安定さは、交際が始まってから美羽が抱える不安の連続の理由になるのかな、とは思えるような思えないような…。

そういえば年頃の子供たちがお互いの部屋を行き来する関係は親にとっては色々と心配でしょうが、独り身の美羽父のもとで酔い潰れる慶太母というのも なかなか危ない関係性な気がする。
研究者らしい慶太父がめったに帰らないのをいいことに、ここにも やけぼっくいに火がついてしまう熟年男女がいたりして…。

今巻のラストで美羽はその恐怖を独力で乗り越える。
自分を好きだと言ってくれる男性の存在を振り払ってでも、例えどんな結果になろうとも自分の気持ちを嘘にしないと決めた。
ここは母親のトラウマを、存在を乗り越える大事な場面で、美羽の強さがしっかりと表れている。

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慶太への告白を決意する美羽
ただ、1巻1話で作者が図らずも予言した通り、全体的に「ありきたり」なんですよね。
全8巻で一貫したテーマらしきものは感じられるのだが、特に恋愛に関しては「ありきたり」が過ぎる。

各人が抱える家庭環境の問題とかが、ほぼ設定にしかなっていない。
特に美羽は両想いになってからというもの全てがリセットされてしまった感がある。
読者に共感してもらうためにも人生や恋愛を達観してもいられないのだろうが、うじうじと独り悩む様子には腹立たしさすら覚えた。
母親のトラウマや、告白までの心理的な揺れと成長がまるで機能していない。

それは慶太の側も一緒で、色々と乗っけてみた設定に彼らの性格が追い付いていない。
大仰な背景を加えるならば、もう少し心理描写を克明に描いて、深みを物語に与えて欲しかった。
独りで悩むのではなく、もっと相手を信頼して対話して問題の解決に当たれば、その言葉の端々に嗜好や性格が滲み出たはずだ。
幼なじみの美羽と慶太だからこそ築けた関係が、信頼しあう二人だけの関係性がもっとあったはずだと歯がゆさが残る。

あとがき など作者の言葉を読むにつけ、ウジウジした物語を描くような人ではないような気がする。
もっと快活な主人公で、爽やかさに特化した青春を描いた方が良かったかもしれない。


2巻以降は少女漫画にありがちな、交際後の物語の陳腐さ・チープさ の罠にはまってしまったように思う。
興味をかき立てるための「この時の私は知らなかった この後に起こる大変なことを…」という言葉の多用にも辟易した。