水波 風南(みなみ かなん)
レンアイ至上主義(れんあいしじょうしゅぎ)
第8巻評価:★☆(3点)
総合評価:★☆(3点)
伊緒(いお)の魔の手に翻弄(ほんろう)される世莉(せり)と碧樹(たまき)。けれど伊緒の目的はあくまで鷹来(たからい)親子でした。ついに鷹来グループは倒産し、伊緒の復讐は終わりをとげます。そして、受験&卒業のシーズン。試練を乗り越えてきた2人…ついに感動のフィナーレです!!
簡潔完結感想文
- 大雑把な伊緒の復讐。巻き込まれただけの碧樹と世莉。仕事しなかった父、失職。
- 遂に始まりました同居生活! 碧樹と鷹来のね(笑) 意外と家庭的なのね。ポッ。
- いいお話風にまとめてみました。乱暴した人にも幸せをお裾分けのお花畑展開。
今後、二度とページを開くことはないだろう漫画の完結8巻。
最後まで読んで分かるのは、作者はいつでも畳める作品を気合と根性で描き続けてきたんだな、ということと、
碧樹(たまき)のことがそんなに好きじゃないんだな、ということ。
それが伝わってくる最終巻でしたね。
そして最後まで「レンアイ至上主義」が伝わってこない作品でした。
3学期限定の教師・伊緒(いお)の復讐は唐突に終わる。
碧樹と鷹来(たからい)が協力して伊緒の裏をかく作戦も、最初から伊緒にはお見通しというお粗末な結末。
その作戦が、碧樹が鷹来の振りをして監視カメラ付きの理事長室で世莉を抱いて伊緒を騙すというもの。
他の男の名前を呼ぶ女性を抱くのは男にとって屈辱で、それこそ罰ゲームなのではと思った。
そして監視カメラで見られてると分かってながらも痴態を披露する二人には絶句。
伊緒が鷹来親子に復讐する原因となった親子揃って伊緒母に暴行したのは何年前なんでしょうかね。
本書収録の鷹来主役の番外編の描写だと少年の面影を残してる感じがします。
何にしても かなり年の差があるのに、暴行する鷹来はやっぱり異常です。
作者の贔屓からか伊緒の復讐でもそれほど不幸にならず、そして最終回での幸福な暮らしの描写には少女漫画として疑問を感じます。
そして伊緒によって いきなりの鷹来グループ倒産が報告される。
社長秘書として「お金を管理」しているとは言っていたものの、学園だけでなくグループごと倒産させるなんて荒業をやってのける伊緒。
当然のように、その手段は描かれていません。本書で細かい描写は性描写だけですもの。
でも鷹来父は一切仕事をしている描写がなかったですもんね。
転職するなら、心身のタフさを活かして男優さんとかどうですか。
そうして鷹来は住む家さえ失い、碧樹父の厚意で碧樹の実家に居候することに。
この辺りから、作品内における碧樹の扱いが厳しくなります。
鷹来の扱いに文句ばっかりの息子に対して「そんなに嫌ならば 家出しろ」と突き放す父。
口だけ番長の碧樹が、ここにきて大人たちの正論に打ち負かされます。
そうして向かったゲレンデでのバイトでも、バイト先の店長がやたらと碧樹に厳しい。
まぁ仕事をいい加減で、バイト中に彼女と隠れて事を始めようとする碧樹は糾弾されて当然ですけどね。
それでも嫌な予感がするという理由だけで仕事を放り出して世莉のもとへ行こうとする碧樹の彼女第一主義を「仕事を甘く見るな」と叱責する店長。この店長は作者の良心や本心の化身だろうか。
碧樹のこと、そんなに好きじゃなさそうですもんね。
最初から薄っぺらい存在ではありましたが、最終巻でその本質が炙り出されるとは。
作者は意地悪ですね。私も胸のすく思いで読んでましたが(笑)
最終巻でも暴行シーンはあります。これもまたノルマでしょうか。
ゲレンデでナンパ目的の男たちに絡まれる世莉。
そんな彼女を救った碧樹だったが「今回は凶器とか持ってなかったから助かったけど!」と世莉を注意する。
って、雪山で凶器持ちながらウィンタースポーツに興じる男ってどんな奴だよ。
なんて思ったら、その男たちによる暴行シーンが始まる。最後まで胸糞わるいです。
季節は移ろい、高校三年生の夏。
世莉は大学の推薦が取れそうだが、碧樹は性欲に負けて受験勉強もおろそかな状態。
そして、そんなことを彼の現状を把握せずに碧樹と一緒にいる世莉。
世莉は成績悪かったんじゃなかったけ?と、あるようでない設定にツッコむ。
そんな折に元 学校教師の九条(くじょう)先生が再登場。
碧樹の模試の結果が芳しくないので、過去問を持ってきてくれたらしい。
って、どこで模試の結果を手に入れたんですか? 碧樹、逃げてー。そのお陰か無事に大学に合格した碧樹だが、世莉が内緒で計画した卒業旅行は碧樹の都合で行けなくなった。
怒りに任せて子分のような男の子・朝飛(あさひ)を連れていく世莉。
彼氏から誤解されるようなことを平気でする世莉は最後まで成長が見られませんでしたね。
意地悪な私は世莉も、その薄っぺらさが露呈すればいいのにと願っていました。
高校の3年間であれだけ暴行を加えられたのだから、絶対に男性と二人きりにならない、という決意が欲しかった。
結局、一番の危機であった鷹来にも貞操は奪われなかったこと判明しましたが、そのことがこの恋の純愛の証なんですかね。
最終回はそんな二人の愛の結晶で終わる。
自分を暴行した男たちに手紙で子供の誕生を報告する世莉に絶句。
ラストのモノローグは、
「何度も何度も壊れかけても 恋を信じて愛を貫いて そして道場裏の小さな初恋は… 確かな愛しい かたちになる」
なんだその『君に届け』でも使えそうな文言は。
美しい言葉を並べても、かえって虚しさが募るだけです。
作者の倫理観からすると、意図せぬ妊娠はダメ男の所業らしい。
だからなのか世莉が妊娠する流れがあると予想した読者のことを暗に批判している。
こういうところですよね、私が作者を好きになれないのは。
避妊の描写、言葉を一切 描いてはいないけれど、自分の中では碧樹は男の責任として いつでもどこでも避妊しているという設定がある。
だから、そんな私の作品の品位を貶めるような想像はして欲しくなかったと言い出す始末。
こんな内容の作品における変なプライドが鼻につきます。
過激な描写は編集部の命令とばかり思っていましたが、作者にも今後も性的な作品を描きたい欲望はあるらしい。
ベストセラー作家になった今、年を重ねた今も、本書の内容に胸を張っていられるのでしょうか。
自意識の高い作者コメントも含めて若気の至りだったと思っていて欲しい。
「絶望の花・快楽の棘」…
鷹来番外編。息子の眠るベッドの脇で性行為を営む父親。完全なる幼児虐待です。
それでいて鷹来が父と同じく女性を辱める道を歩む過程が分からなかった。
ちなみに本編の最後で鷹来は女性と暮らしている描写があります。キスも気軽にしている。
結局、一時的に経済的に困窮しただけで、鷹来は幸せですね。
鷹来父はともかく伊緒の復讐は何だか中途半端です。
そして数多くの女性を不幸にしてきた人が幸せになっても、作者以外は嬉しくありません。