《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ずっと、あの子に謝る言葉は持っていなかった。卑怯な私にはその勇気も資格もないから。

君に届け 26 (マーガレットコミックス)
椎名 軽穂(しいな かるほ)
君に届け(きみにとどけ)
第26巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

進路のことから爽子と風早がなんとケンカ!? 仲直りできないまま最後の夏休みをむかえます。さらに勉強合宿で、くるみが黒沼家に泊まりに来るのですが…。

簡潔完結感想文

  • 気まずい二人。わがままは男の罪、それを許さないのは女の罪(※イメージです)。
  • くるみとお泊り勉強会。一日が終わるときに 明かりを消す前に(©山崎まさよし
  • 矢野ちんの恋。あなたが私にくれたもの 一粒ののど飴 自分を超えていく勇気。

自分の過ちを認める26巻。青春の痛みは、成長の証しです。

前半は引き続き、爽子と風早の進路をめぐるケンカの続き。
お互いを思い遣ってのケンカで、お互い自分が悪いとは思っていない事もありなかなか長引いている様子。

そんな中、爽子は高校で初めてできた友達との会話の中で、本音を言える事がどれだけ自分にとって凄い事なのかに気づかされる。
そして風早は自分の生き方に不平ばかり言う父親との口論の中で自分の欠点に気づく。
親の背中を見て子は育つと言いますが、風早は親の背中を目標にも反面教師にもしたみたいですね。

それぞれ違う人間関係で見えた自分の特性を、2人は2人の関係に還元していく。
もう一人善がりの答えじゃない、もう1人と1人の問題ではない。
ケンカの際、ピンが判定した「爽子7 対 風早5」で爽子の勝利という判定、私には風早の押しつけがましくも感じられる風早の親切や遠慮しか分からなかったですが、爽子の方もまた自分の気持ちをちゃんと伝えてなかった事がピンには見えていたのでしょうか。


仲直りの際に語られる、風早の爽子への気持ち。
風早は爽子が大好きで、そして人間として憧れているみたいですね。
それは『1巻』の頃の爽子の風早に対する気持ちに似ている。
気持ちが、物語が循環して一層、清冽な空気に包まれた気持ちになった。

風早は腹を割って なりたい自分の姿を話す。そういう人(黒沼爽子)に私は なりたい。

そして中盤からはくるみメインのお話。
風早への恋心を共有した瞬間から、爽子とくるみは言いたい事を言い合える仲だと思っていましたが、どうやらくるみは過去の爽子に対する言動・嫌がらせを悔恨している様子。

それが語られるのは、くるみが爽子の家にお泊り勉強会をした夜のこと。
そういえば黒沼家にお泊りする友達はくるみが初めてなんですね。
てっきり矢野ちん・千鶴が泊っているものばかりと思っていたので意外です。

黒沼家の人々との会話中も、心なしかくるみの言葉は真摯かつ鋭さを秘めているように思える。
そして、時間が進むごとに少しずつ自分にその鋭角な言葉を向けていく。
その日が終わる頃、くるみはずっと言えなかった爽子への謝罪を口にする。

想いを溜め込む人ですね。風早に恋すること4年余り、爽子に謝罪したくて2年。
そして改めて真面目な人だと思う。ケジメをつけなければ前に進めないのだろう。
かなりの頻度で登場人物が泣く本書ですが、くるみの悔恨と謝罪は久々に自分の涙腺に影響を及ぼす涙でしたね。

爽子はライバル兼ともだちだが、性格的には矢野ちんこそ、くるみといい友達になれそうですよね。
誰よりも強そうに見えて、実は一人でいると焦りや不安で煮詰まっちゃうところが似ている。

生真面目で優しすぎる くるみ はライバル役を演じることで 爽子の隣に辛うじていれたのかも。

爽子母もまた神の如き人ですね。娘との距離感が良い。
爽子自身が悩んでない事が救いだったのかもしれませんが、もしかしたら友達の出来ない娘について人知れず悩んだ頃もあったのではないか。
夫婦仲、家族仲が良かったから乗り越えられたのでしょうね。
これで誰も支えてくれなかったら精神的に辛い日々だったでしょう。


夏休みの一日。久々に爽子・矢野ちん・千鶴の三人で集合。
この3人の雰囲気、本当に久々な気がします。
1ページ中にこんなに文字の多い構成も、序盤の頃の3人が帰ってきたという気がしますね。


矢野ちんはピンへの想いに気づき始める。
しかしあの爽子が勘づくなんて相当な事件です。
余程あからさまなのか、それとも爽子の恋愛アンテナの感度が向上したのか。

それほど混んでないのに、混んでるからと一緒に乗らない電車、そんな意味ありげな行動を取ったらピンは千里眼の持ち主ですから、もう見抜かれているかもしれませんね。
ただ冗談にならない事を冗談にするようなモラルのない人ではないので、矢野ちんから言わない限り何のアクションもないでしょうけど。

そしてホワイトデーの日に貰ったピンの「のど飴」は矢野ちんにとって一層大切なお守りになっていく…。
同日貰ったはずの健人のさすがに飴はもうないかな。あのお別れの日に、捨てたスタッフが美味しくいただいたのかもしれませんね。

少女漫画で教師と生徒の恋愛は一大ジャンルですが、もしかしたらピンはその中でも有数の名教師ですよね。
物語の終盤を飾る、最後の特大花火になりそうです。
矢野ちんの進路を考えたとき、どう考えても未来はないような気がしますが、散ってしまうのもまた美しい。


そういえば長期の連載の間に携帯電話においてスマホが広く普及して、26巻発売の2016年では爽子も風早もガラケーの設定が古くなりつつありますね。
物語としては爽子の携帯電話は思い出のエピソードがありますので気軽に変更できないのだと思いますが。風早から貰ったストラップもありますしね。
調べたら2016年でスマホの普及率は60%超だそうです。あと少し時代の変化から逃げ切ったまま終えて欲しいですね。