《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

すきだから応援はできない。ステージが大きくなるほど客席の私とは距離が離れるでしょ?

君に届け リマスター版 22 (マーガレットコミックスDIGITAL)
椎名 軽穂(しいな かるほ)
君に届け(きみにとどけ)
第22巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

3年生になった爽子たち。だいすきな人と近くにいられるのか、それとも離れてしまうのか。自分の未来と待ち受ける現実に悩みながらも、少しずつ答えを出していくのですが…。【収録作品】スペシャルコラボ 河原和音×椎名軽穂 まゆげの角度は45°で

簡潔完結感想文

  • 千鶴の誕生日。想いは一つに。けど「すきなのに、すきだから応援できない」。
  • あやねの告白。こちらは千鶴と逆。離れてしまうから言えなかった事がある。
  • ふたりの朝活。二人の時間を確保するために学校始業前に約束する爽子と風早。


高い学力さえあれば進路の幅は広がる。なので進路確定よりも取り敢えず勉強する22巻。


昨年のクリスマスの夜に変化した女性陣3人の恋。あれから約半年が経過しようとしている。
爽子は悪化しかけた関係をクリスマスに修復して以降は平穏な日々。千鶴は龍との関係を保留し続けていたが今巻で一つの結末に達する。矢野ちんはその日から始まった交際が上手くいっていない様子。

まさに三者三様です。ここにきて千鶴や矢野ちんの恋も並行させた作者の意図が分かってきました。
進路が恋に、恋が進路に及ぼす影響を各人の恋愛模様と絡めて描いている。
この勉強ムードの中で爽子と風早の動きのない恋愛だけじゃ、連載としての面白さは半減しちゃいますからね。
特に千鶴は大学には進学をしないため、皆が勉強している時にも千鶴だけは比較的自由に動けている。
それぞれの進路も大局的に連載を考えた作者の計算かもしれませんね。
また龍も野球で結果を残してのスカウトによる進学希望っぽいので、勉強一辺倒の人ではない。
その分、龍は野球に全力投球ですが。ポジションは捕手だけどね。

そして脇目もふらず一心不乱の龍をいつの間にか見つめている事に気づいた千鶴。
千鶴の誕生日の夜、目の前に現れ、野球で結果を出すと言う龍に、千鶴は心とは裏腹の、いやお腹の奥底に隠してあった本心をぶつけてしまう。
彼の明るい未来を全力で応援できない自分のわがまま、切なる願い。
この千鶴のジレンマは切なくも共感できますね。好きな人との距離が離れている事を喜ぶ人なんて誰もいない。

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自分勝手でも本音を言える千鶴。言えないのは風早…?
その千鶴の葛藤を見た後の龍の告白シーンはいいですね。やっぱりオスですね。
私は中身のない俺様男とかSの人とかは受け付けないので、こういう硬派な人の少しの強引さが好きです。
ただこのようなずっと黙っていられる男は少女漫画の主人公としては不適格なんですよね。
龍だって好意を抱いて10年以上動きはないし、告白したと思ったら野球に熱中しちゃうし。
なので、少女漫画的には毎回の連載で確実に一回女性の心身を揺さぶるような男ばかりがもてはやされちゃう。
商業主義による男のバリエーションの限定化でしょうか。

二人寄り添って迎えた朝の龍の言動も良いですよね。
夜に勝手に年頃の女性の部屋にあがって挨拶もなしに帰るのは良しとしない常識的な人。
千鶴の父親に殴られることも覚悟しての正直な申告をしようとする。
さすがに千鶴に止められて穏便に帰りましたけどね。


矢野ちんは引き続き進路に迷っている様子。
当初から狙っていた推薦入学は果たせそうで、更に健人も同じ大学を目指すという。
ただ自分の設定したハードルを上げて自分の限界を突破したい成長願望も持っている。
矢野ちんは本音で語ろうとするほど、彼女の中の健人の存在の希薄さが露見してしまいますね。

どうも健人は矢野ちんの進路の障害の役目を担ってるようですね。可哀想に。
彼女が進路を他に決めた時、その障害は取り払われちゃう、のかな…。
爽子とくるみに引き続き、屋上での女子話を聞いてしまっている健人。
彼はどこまでも追いすがるのか、目を背けたくなる現実に向き合うのか。
立つ鳥跡を濁さず、の通り、健人の去り際は後腐れないものであってほしい。


意外な事にくるみが受験ノイローゼに。
勉強の目的はあり過ぎても不安が生まれるようですね。
特に志望校が一校に絞られて、ここに合格したいと思い詰めるとと大変でしょう。

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勉強面では爽子が「ライバル」としてアドバイス
そこで爽子は一緒に勉強することに。
一見くるみにしかメリットがなさそうだが、爽子も刺激を受けているらしい。
爽子もまた矢野ちんと同じでハードル設定が今後の課題か。
爽子の得意教科が数学とは意外だった。文系の人だと思っていたので。偏見ですかね。

風早は自宅勉強組みたいですね。
この辺りも本来塾に通いそうにない爽子と立場が入れ替わっているようで面白い。

勉強に割かれどうしても風早との時間が減少してしまうので、何とか時間を捻出する爽子。
そうして生まれたのが朝の始業前の教室での逢瀬。
だれもがちょっとずつ自分に負荷をかけていて息苦しい。
でもその負荷が成長の証しとなるはず。
風早は何となく気づいてそうなので、札幌進出は成長した爽子から聞きたいものだ。


「まゆげの角度は45°」…
同じく北海道が舞台の河原和音さんの『青空エール』とスペシャルコラボ。
以前の感想文で『青空エール』の高校の野球部の山田くんと龍との北海道大会の模様が見たいなぁと書きましたが、意外な教師コラボは実現しました。
ピンは通常営業だけど、吹奏楽部の顧問の姿は部員達には見せられませんね。
杉村先生の自信にはなったようですが…。
あと龍の兄・徹、こりゃ絶対浮気するタイプの人ですよね…。
子供生まれたというのに。