森下 suu(もりした すう)
日々蝶々(ひびちょうちょう)
第8巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
2年になり同じクラスになったすいれんと川澄。いつも同じ教室に好きな人がいる──。でも川澄は空手にもっとのめりこんでいき…。すいれんはどこか寂しそうです。切なさがつのる第8巻です。
簡潔完結感想文
- 同クラ。冷やかしの対象になってしまい苦慮する二人。そして川澄が…。
- 空手バカ一代。学校以外での距離が少しずつ離れていく二人。
- すいれんの想い。ジンクスにすがるほどの心情を川澄が理解できるか。
言いたいことも言えないこんな世の中は、すいれん。
本書が一貫して言葉によるコミュニケーションを描いていたことをやっと理解し始めた8巻。
同じクラスになれた放課後の喫茶店でいつも以上に会話を重ねる二人の姿を見て安心したのも束の間、少しずつ大事なモノが両手からこぼれ落ちていくような展開になっていく8巻。
いい滑り出しを見せたかと思われた2年生の新しい環境だったが、何かにつけて冷やかされる教室内の雰囲気を経験した川澄はすいれんにある提案をする。
「クラスじゃ 話さない方がいいと思って」。
すいれんを騒ぎに巻き込まないための妥当な提案だと私も思う。
だが、この後のすいれんのモノローグによって彼女が想像以上に傷ついている事が判明する。今までは自主的に口を貝のように閉ざす事で平穏を保ってきたすいれんだったが、今回は口にガムテープを貼られるような提案で自由を奪われ息苦しさの中で生きなければならなくなった。
しかもその発案者はよりにもよって川澄なのだ。
一方、川澄はその提案の前後に一層空手に熱を上げるようになっていく。
なぜなら道場の大会で後平とたたかう機会を得られそうなのだ。
大事な試合があるのですいれんと一緒に帰れないと報告する川澄からの電話はすいれんがベッドに入ってからの遅い時間。
川澄なりに気を使って日常生活が終わってからを狙っているのかもしれないが、相手が寝ている恐れや眠い恐れは無考慮で、または最初っから長電話をする意思がない事を遠回しに表現しているようにも捉えられてしまう。
ここで以前の後平の予言のような嫌味が効いてくる。
川澄に恋愛と空手の両立は難しいのだろうか。
すいれんは一方的にストレスを抱えてしまうのか。
一度 不安に襲われると挽回がなかなか難しい二人の関係性。
空手大会の勝利の報告はいの一番にすいれんにしたが、大会の日時は伝えていない川澄。
少しずつ何かがずれ始めていく。
そんな川澄との意思疎通の不全を経験したすいれんは、学校の遠足で訪れた遊園地で川澄と距離を縮ませようと精いっぱいの努力をする。
「恋人同士で乗っててっぺんでキスをすると いつまでも幸せ」というジンクスに頼るため、川澄を観覧車に誘導してキスを申し込むのだった。
すいれんにこんなこと言わせんなよと思うが、その答えとして川澄は大きな理想だけ語る。
それに対しすいれんは涙を流しながら今までため込んでいた些細な、でも本心からのお願いを言い連ねる。
「話をしよう」、素晴らしい言葉だ。
思いやってるけどすれ違う、そんな状況を上手く書いた巻だ。乗り気のしない合コンで後平と知り合った小春。
強い者フェチの小春は後平の空手姿を見て、後平の事が気になり始める…。
なるほど『前巻』の番外編は、小春のフェチズムのお話だったんですね。
それなら小春の心の動きが分かりやすい。
ただ正直、小春と後平の準主役メンバーの恋物語にページが割かれることは望んでいませんが。
直接的な告白はしていないものの後平にやんわりと牽制された小春。
すると彼女は好意を押し続けるでもなく「応援してる」と後平に告げる。
応援といえばすいれんも川澄に使っていた言葉だが、これは偶然の一致なのか。
空手は格闘技なので自然と女性は立ち入れず一歩下がって応援する立場になるのでしょうか。
川澄とすいれんの関係以上に心配された、すいれんのお友達問題は「めぐなちゃん」という存在が助け舟を出してくれて想像以上に順調だ。
けれどこの彼女、距離感の詰め方がなかなか強引ですいれんたち3人の女友達にグイグイと入り込んで、屋上で一緒にお昼ご飯を食べる仲にまで進展している。
すいれんの幼なじみ・あやちゃんの無表情が怖いところ。
そして外見的な特徴で偏見を持つようだが、このめぐなちゃん、一癖ありそうな顔立ちをしている。
端的に言えば裏表のある意地悪そうな人にも見える。
さてどうなるか。
「日々蝶々 番外編」…
高屋良祐の恋人になった「みなちゃん」が良祐を気になりだしたある日の出来事…。
良祐と付き合えて良かった、ねみなちゃん。
良祐に女子への免疫がなかったから功を奏したものの、無自覚で女子に喋りかける人もいるからねぇ。
更に水を差すようだけど、良祐の側の描写はどうなんだろう。
女の子に誘われる、告白されるという事態に舞いあがっているようにも見える。