《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

あの頃の僕らが 嘲笑って軽蔑した(略)真心をからかったね 愛さえはぐらかして『砂の果実』

私がモテてどうすんだ(13) (別冊フレンドコミックス)
ぢゅん子(ぢゅんこ)
私がモテてどうすんだ(わたしがもててどうすんだ)
第13巻評価:★★★(6点)
   総合評価:★★★☆(7点)
 

交際をスタートした花依と六見。ラブラブな毎日を過ごす花依に、大好きなアニメ『ミラ・サガ』の続編放送決定とイベントの吉報が入る。だけど、イベントの日は六見と会う約束をしている日。六見にお願いして1部だけ行くことになった花依だけど、六見の友達・八城から誘われた2部の最前チケットに目がくらんでしまい、六見との約束を破ってしまう。翌日、謝りに六見のもとへ行く花依だけど…!?

簡潔完結感想文

  • あたしって、ほんとバカ。漫画継続のためなら何度だって間違えるお。
  • 顔を近づけ押し倒されてホテルに泊まって。確実に進む二人の尊い関係。
  • ホテルで先に寝ちゃう六見の習性。あの時、シャワー浴びてたら⁉


オタクに恋はむずかしい13巻。

架空アニメ「ミラ・サガ」の続編決定によって、在りし日のオタク心を取り戻した花依。
六見とのデートを二の次にしてアニメイベントに参加し続ける花依だったが、ある日、イベント参加を隠して出かけていた事が六見に露見して、あの温厚な六見に「俺とシオン どっちが好きなの?」と言わせてしまう…。

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次元の違う 好きを両立させるのは難しい
恋人同士になったのも束の間、すれ違う花依たち。
そのすれ違いの裏には暗躍する新キャラの8・八城がいた。
六見に隠し事が露見する場面も実は八城が仕組んだもの。

花依に嫌がらせをする八城だが花依との共通点が多い。
「ミラ・サガ」好きであること、そして六見好きであること。
同士にしてライバルの登場だ。
名字に数字こそ入っているが明確に彼はナンバーズではない事が判明する。
今ではもう忘れかけているが花依を好きな者同士が集まったナンバーズ、本来彼らは恋のライバルであった。
そして今回、初めて花依の恋のライバルとして登場するのが八城。

通常の少女漫画であれば花依に誤解や嫉妬を生じさせる存在だ。
実際、花依も六見が八城と急接近するのを目撃して尋常じゃなく慌てふためいている。
これまた通常の展開なら八城と直接対決したり、六見と対話を重ねて誤解をほどいていく展開になるが、今の花依にはその手法はどちらも取れない状況。
六見の問い、自分とシオンどちらが大切か、その答えが花依の中で明確になっていないため、自分こそ六見に相応しいと胸を張って宣言できないのだった…。


八城の役割が明確になったところで、この展開の意味がやっと分かりました。
すなわちこれは以前(1巻)の花依が望む世界なんですよね。
「王子様の隣には王子 彼らには関わらず それをそばでのぞき見するのが 私の幸せ 私のポジション」、そう言っていたのかつての花依が望む理想がいま目の前に誕生したのだ。

5・7、4・7と妄想し続けた花依に6・8という新たな世界が開かれ、そして8は紛れもなく本物だという事実。
男同士のスキンシップを目の当たりにして脳汁が噴き出してトリップしていたのは過去の花依、それが鼻水を垂らしてパニックになるのが現在の花依。
その違いは明確。
いま八城の隣にいるのは自分が初めて好きになった異性・六見なのだ。
「ミラ・サガ」復活によって頭がお花畑になってしまった花依ですが、これも過去との明確な対比のためですかね。


二人の関係を修復させようとするナンバーズの裏工作なども読みどころ。
六見の最大のライバルと目される五十嵐は、六見に花依との関係が終了するか問いただし、それに即答しない六見に花依は俺がもらってもいいか確認する。
声を荒げ提案を拒否する六見を確認した五十嵐は、六見を奮い立たせる言葉を吐いて立ち去る。
状況を冷静に観察できて少しばかり機転が利くと損な役回りばかり演じる羽目になる。
同類の二科も五十嵐の助言を実行する役回りをしっかりと遂行する。
七島は、オタクとリア充を両立している花依の親友・あーちゃんに連絡を取り、花依の相談役になる事を依頼する。
四ノ宮も心配してる、らしい。完全におまけ扱い。
これが最終順位ですかね。優勝者は6、以下5・2・7・4の順に花依に近づいた感じでしょうか。

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挑発という名の 奮起のための言葉
物語が終了したと思われる時点での登場で完全に蛇足キャラだと思っていた八城ですが、じっくりと考えてみるとしっかりとした役割があるんですね。
六見好きの設定が故にネタキャラ、もしくは作者の好みに偏ったキャラだとばかり捉えてましたが、終わってみれば彼もまた六見と花依の関係の修復に一役買っている損な役回りのキャラクタだ。
自分の好きな将棋を六見と指しながら、将棋盤の向こうにいる六見に真摯に交際を求める場面なんて、この漫画二番目に良い告白シーンじゃないだろうか。
告白はすなわちカミングアウトで八城の顔に羞恥と不安と恐怖の入り混じった表情が浮かぶ。
そして彼の表情を見て冗談ではない事をすぐに察知して茶化さない六見先輩も流石である。