南 塔子(みなみ とうこ)
360°マテリアル(さんびゃくろくじゅうどまてりある)
第8巻評価:★★★★(8点)
総合評価:★★★☆(7点)
勇気と想い、飛行機雲の彼方へ―― 水族館で丸井が美桜に告白して以来、おかしくなってしまった滝くんと美桜の関係。花火大会で交差する3人の想いの行方は―!?
簡潔完結感想文
- まさかの滝くんとお別れの最終巻。しかし美桜のリア充生活は続く。
- キレたら押し黙る滝。キレたら上から嫌味満載の美桜。お似合いだよ。
- ハッピーエンド。でも女心と秋の空とも言うし仲秋の候には…(笑)
続きが気になって仕方のない終わり方をした『7巻』。
この『8巻』でも美桜にとって事態は負の連鎖が繋がっていく。
きちんと話したくてたまらない滝からはメール・着信を無視され、数学のテストではクラスでただ一人赤点。
そして夏休みの補習(これは例えクラスに好きな人がいなくても居たたまれない)、更に誤解の生じるような場面を滝くんに再び見られてしまう。
そして遂に滝くんからはお別れの言葉を告げられ…。
何度も言って申し訳ないけれど、美桜と滝くんのいつまでも意思疎通が不全の関係性、作者の初長編という構成の危うさなど色々と不安定な土台の上に成立する物語だからこその、かつてない緊張感が生まれている。
若手作家だからこその冒険心、パターンが出来てないからこその未知数な結末、そして恋愛における美桜の行動は一種の「あるある」だという紛れもない事実が、丸井エンドを十分に予感させる。
恋が段々とシフトしていく事のリアル、袋小路から連れ出してくれる人のリアル、気持ちを並走させるリアル、自分を騙すロジックのリアル、自分が自分で信じられないリアル、そんなこんな360°まじリアル。
滝くんも美桜も必需品として携帯電話を持ってはいるけれど、全巻通じてほとんど機能していないのが印象的。
時代設定を20年前、1990年代にしてもほとんどの話が成立するのではないか。
そのぐらい登場人物たちはリアル(現実)とそこで生じる想いを大切にしているのだろう。
最先端でない分、10年後、2020年代に読んでも共感しやすいかもしれない。
美桜たちは恋愛で間違え、赤点や補習を繰り返しながらも、今の気持ちに向き合い、それら経験全てを自分の糧として生きる。
ただ私は最終話・32話の美桜の丸井への言動、全部嫌いだなぁ。
その前に美桜の心は決まっているとはいえ、31話の最後で同級生にこれ見よがしに誹謗中傷された後で、心を決めて丸井へ付き合えない事を伝える流れも、結局、他人の言葉によってしか自分に確信が持てない美桜の弱さばかりが目立たせる気がする。
そして断る時は何故かブチギレてるし、上から目線の断り方になる。
何と言っても「この先 丸井が別の誰かと幸せそーにしてるとこ見るまで 私 丸井とは口きかない」という言葉。
嫌味を言った同級生じゃないけど、調子に乗ってるわ、この子、と憤慨した。
恋人のいない人には人権もないのか(違うか)。
丸井に「滝がいなかったらオレと…」と聞かれた時の疑問を疑問で返して嫌味を含ませるのも嫌だ。
そこから180°方向転換をして、数十分後には幸せの絶頂といわれても、何が何だか。
高校1年生の秋から2年生の夏の日まで、季節が一巡したところで物語は閉じる。
一連の出来事で、さすがに いたく反省した様子の美桜。
でも滝くんも、実姉に指摘されたように、自分の嫌な展開になったら世界を閉じたし、美桜という存在をぞんざいに扱い無視しし続けた。
結局、他者から指摘されないと自分の気持ちに踏ん切りがつかない、似た者同士の二人。
美桜はもちろんだけど、滝くんも大いに反省するべき点があると思うが、どうも深く追求しない天然な性格をもって美桜の言動を許す、という滝くん優位の流れが気になる。
まともに喧嘩もしなかった(出来なかった)二人は、また「ゆるふわ」の国に帰っていったのだろうか。
他の少女漫画のどのカップルよりも先行きに不安を感じながら本を閉じるのであった…。