《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

今まで彼氏だと思っていた男は本当の彼氏ではなかった、という叙述トリック。それも許される丸井ホリック。

360°マテリアル 6 (マーガレットコミックスDIGITAL)
南 塔子(みなみ とうこ)
360°マテリアル(さんびゃくろくじゅうどまてりある)
第6巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★☆(7点)

想ってるだけの恋はあふれたときにどうなる? 校外学習で美桜たち2年生は水族館に行くことに。滝くんと観てまわる美桜ですが、偶然、丸井と一緒になります。そこでついに…!?

簡潔完結感想文

  • マテリアル史上最高の告白シーン。滝じゃない丸井なんだよ!
  • 滝くんはヒットで、丸井はホームランで得点を重ねるタイプ。
  • 逃げるは恥だが役にも立たない美桜の行動。疑惑の総合商社


6巻は何と言っても丸井の告白巻である。

舞台は校外学習で訪れた水族館。
水族館のショーの「青のファンタジア」を”カップルで手を繋いで見ると別れない”という噂を聞き付けた美桜は、滝くんを捜すため水族館内を走り回る。
しかし実際にショーを一緒に見ることになったのは成り行きで合流した丸井。
そして丸井は美桜の手を取り、自分の気持ちを伝えるのであった…。

f:id:best_lilium222:20200528010931p:plain
360°マテリアル きっての名シーン
丸井が美桜に「好きだ」と伝える一コマ、奥行きがあって幻想的で良いですね。
自己評価が低いのか、容量限界を超えたのか、信じられない美桜に丸井は何度も自分の気持ちを伝えていく。

あぁ丸井、美桜の性格まで熟知して、照れも衒いもなく相手に想いを伝えていく丸井、君の勝ちだよ…。
しかし、丸井は噂の成立条件の一つをクリアしていない。
カップルで」の部分だ。
問題は、この条件が未来のカップルにも適用するのか、ということ。
丸井の気持ちを美桜が受け入れた瞬間、滝くんに未来はなくなる⁉


そんな滝くん、相変わらず携帯電話を持ってる意味がない。
あの時、メールを読んで美桜と並べば噂の成立条件を全てクリア出来たのに。
それだけで、丸井の告白も(少なくともこんな劇的な形では)なかったのだ。

読者はこの後、滝くんと丸井の間で揺れる美桜にもどかしさと緊張と共感を覚える訳ですが、こう考えるとそもそもの原因は自業自得で滝くんにある気もする。
丸井の告白をもって、連載当初では考えられなかったようなやけにリアルな一つの恋愛の終りと始まりを見せる(かも)という、記憶に残るような展開に突入する。


そして美桜は容量オーバーからのパニック行動に出る。
丸井を遠ざけるだけでなく、丸井の前で滝くんとの距離まで遠ざける。
…えっと、なんでかな?
これまでも自縄自縛、自家中毒に陥ってばかりの美桜だったけど、今回も謎の行動原理。
しかし、これまでと違うのは、滝くんと二人だけの力学ではないという事。
丸井というベクトルが、物語を三次元的に拡張していく。

そして気付くのは、滝くんとはなんとなく付き合い始めた美桜にとって、直接的な言葉によって気持ちを伝えられるという丸井の行為は通らなかった道であるということ。
そしてだからこそ、彼の告白は鮮烈で劇的なのだ。
しかし気になるのは水族館の告白シーンも、階段や下駄箱での恋バナも、周囲に誰かいないかという事だ。


この6巻で主役の交代をはっきりと奪われた感のある滝くんだが、彼の名場面だってなくはない。
今後の展開のキーとなる「クジラのチャーム」を美桜にプレゼントしているのだ。
お店で商品を手に取って「かわいーっ」と言えば、後でプレゼントしてくれる滝くん。
その手法2回目だけど、うん、彼なりに頑張ったよね。
この「クジラのチャーム」が二人を繋ぐ鎖、という象徴になっていくのだが、早速次巻には…。

f:id:best_lilium222:20200528011115p:plain
言葉で勝負の丸井に対し 財力で勝負の滝くん(笑)
物語も終盤の6巻で友人・由仁ちゃんがバイト三昧の理由が何となく明らかに。
6人弟妹の長女として、家計に負担をかけないようバイト三昧なのだろう。しっかり者だ。
しかし、そんな由仁ちゃんなんだけど、君が大事な幼なじみの「しーちゃん」への好意を察して、しーちゃんとクラスメイトを物理的に近づけないようにするくだり、反復が多い割には結末が尻すぼみ。

その一方で「しーちゃん」は丸井と美桜にとって、告白の事実を知る重要な人物に格上げされる。
それでも付け焼刃の友情しか感じないけど、ありがとうしーちゃん。