《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

本作は前作『360°マテリアル』と学校が一緒。だから終盤の展開も一緒だよ☆

ReReハロ 10 (マーガレットコミックスDIGITAL)
南 塔子(みなみ とうこ)
ReReハロ(りりはろ)
第10巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★★(6点)
 

大切なキミを守りたい。 齊旺学園中等部に編入してきた女の子・葵。家の事情で、たまたま湊とお見合いをさせられることになった葵は、湊のさりげない優しさにどんどん惹かれていき彼女がいると知りながらも恋をしてしまう…。ひそかに進む三角関係の行方は!? 【同時収録】番外編~小泉妹の話~

簡潔完結感想文

  • お見合い。湊はリリコに一言も葵のことを話していない。意思疎通のとれない ゆるふわ恋愛ふたたび?
  • 落とし物。愛の象徴を失くしたヒーローは業者に捜させ、新品を発注しようとする。この愛、大丈夫??
  • 三角関係。作者は再度 三角関係で劇的クライマックスを狙ったのだろうが、まだ交際1か月強なので…。

角関係、失くした小物、主役の交代、そしてグダグダな展開と前作と同じ末路を辿る 10巻。

私は1年前に、作者の初長編『360°マテリアル』を読んだ時に、
「著者初長編のためか、良くも悪くも雲のように流れ流される展開」と感想文に書いた。

『360~』では、長編 初挑戦で不慣れが故の構成の不安定さが
読者にも(おそらく作者にも)予測の出来ない展開を生み出し、
最後まで緊張感を保つ要因ともなった。

その点を評価する一方で私は、作者の作家としての能力に疑義を抱いた。
全てをコントロールする力が不足しているのではないか、と。

そして2作目の本作である。
どうやら私の疑念は肯定されてしまったようだ…。


おそらく連載の最長期化でアイデアの枯渇を感じた作者。
そこで採った手法は、捨てたはずのヒエラルキーの復活と、前作の自己模倣であった。

絵としては一層 洗練されたと思うが、
内容としては進化を感じられるところはなかったかな…。


エラルキーの復活は、『9巻』の感想でも書いた通り。

便利屋の娘で、アパート暮らしの主人公のリリコが出会ったのは、
高校1年生にして高級マンションに1人暮らしの湊(みなと)。

2人に明確な格差がありながら、それを感じさせなかった本書。
湊側の設定は記号としての、無意味な お金持ちだった。

…のだが『9巻』から急に路線を変更して、
湊の上流階級の住人の一面を前面に出してきた。

その理由としては、湊が実家の周防(すおう)家の中で懐いている
祖父の海外から帰国が挙げられよう。

f:id:best_lilium222:20210215151008p:plainf:id:best_lilium222:20210215151003p:plain
嫌々な政略結婚のはずが精力的に成立させたい結婚に。お爺様の孫で嬉しいと思ったの初めて☆

祖父が湊を社交界に連れ出すことで、
没落した華族万里小路(までのこうじ)の家との繋がりを密にする。
その過程で出会うのが孫娘・葵(あおい)である。

これまでは お金持ちだけど性根の優しい お坊っちゃんの湊と、
様々な格差を考えなくていい爽やかな恋愛を描いてきたのに、
ここで急に、セレブリティな社交界の様子を描き出したことに強い違和感が生じる。

ただし、作者も最低限のマナーとして、リリコに格差を感じさせる場面を作らず、
劣等感を抱かせたりはしていない(この時点では)。

とはいっても、今回、夏休みに皆で行った海辺のリゾートが超高級ホテルなのだが…。
これまでのバイト代どころか、全財産を1泊で失いかねない
彼らの豪奢な遊びをリリコはどう思っているのだろうか。

こういうところで経済観念を無視するなら、湊の上流階級暮らしも不必要だったのでは?

てっきり描かないと決めていたものだと思っていた、
湊の背負う物(家柄や社交)を終盤で持ち出してきたことは大変 遺憾である。

リリコと湊の恋愛を明確なルールをもって描いているのかと思っていた。
それは私の過大評価であって、作者は何も考えていないのかもしれない…。


して もう一つ私を落胆させたのが自己模倣。

湊の1歳年下の中等部の3年生の葵が、学校生活やお見合いを通して湊と急接近。

湊は、葵の家が没落を祖父から聞かされ、
上流階級の集まる学校生活での彼女のストレスを想像する。

人に優しく出来るのが湊の長所だと思うが、
過剰な優しさは異性に勘違いを生む原因でもあった。

湊をどんどんと好きになっていく葵は、
床に落ちていた、彼がリリコと買った猫のストラップを、思わず懐に入れてしまう…。

f:id:best_lilium222:20210215151027p:plainf:id:best_lilium222:20210215151024p:plain
これにて湊の通う齊旺(せいおう)高校の女子生徒、全員 性格悪い説が成立いたしました!

うーーーん、前作でも見ましたよ、思い出の小物を失くすシーン。
そして三角関係に突入するという展開も。


確かにアクセサリや小物を失くすことが、
カップルの恋愛の最大の危機の象徴になる、というのは少女漫画の王道展開だ。

私が直近で読了した2作品でも最終回間際はそんな展開でした(ちなみに『この作品』『この作品』)。
似たような話があるのは仕方がない。

だが、同じ作者が同じことを2回繰り返すのは どうかと思う。
私は葵の行動よりも、同じことを繰り返す作者に落胆しました。


そして あわや主役の交代⁉というのも踏襲されているパターン。

前作では最強の当て馬・丸井(まるい)が予想以上に大活躍して、
本来のヒーローを食う勢いになってましたが、
本書でも『10巻』は葵のための巻としか思えないぐらい葵が大活躍している。

しかし葵は丸井になれない最大の理由があって…。


かし今回は、三角関係が成立すると本人たちが認識するところにすら
話を持っていけないのも歯痒いところ。

前作では、ゆるふわカップルに亀裂が入り、
そこに最強の当て馬・丸井が入り込む余地が見えたことで、
物語は一層 予測がつかないものとなった。

だが今回はリリコと湊は、期末試験や便利屋の事情にリリコが忙殺され、
湊との連絡が疎かになるくだりはあるが、
具体的にはストラップを落とした・失くしたぐらいで、特に亀裂が生じている様子を描けていない。

それもそのはずで、前作のカップルは交際から1年以上の時間経過があった反面、
本書の場合、交際開始からまだ1か月強しか経っていないのだ。

そんな時期に別れる間際まで話を持っていける訳もなく、
本人たちは至って平和な交際の日々を送っていくしかない。

そこに横恋慕しても入り込む余地はない。
作者は三角関係にしたかっただろうが、したくても出来ない理由があった。

終盤なのに色々と不発に終わった試み、としか言いようがない。


反面、作者にリリコを不幸にさせない、という意図が明確に見えたのが良かった。

リリコは葵とは、湊と無関係な場所(安売りスーパー)で初めて会っている。
素性を良く知らないけど、友人になれそうな関係なのだ。
だからこその彼女たちの無自覚な三角関係という構図は面白い。

リリコは葵と湊の急接近を知らないし、
葵の好きな人が湊ということも知らない。

湊が自分以外の異性に優しくしている場面を目撃しないし、
ストラップを湊が失くしたことも知らないので、心変わりを疑ったりはしない。

実はこの時 2人の関係に危機が訪れていた、と言えなくもないが、
リリコ側からすれば自覚症状のない平穏な日々である。

リリコが無駄に傷ついたりしない点は本当に評価 出来る。
彼女に独占欲や嫉妬は似合わないから。

だからこそ三角関係にすら ならないのだが…。

まぁ、意地悪な見方をすれば、リリコから あらゆる負の感情を遠ざける
過保護な お嬢さま漫画と捉えることも出来るけど。


そして強制的とはいえ湊が お見合いをしたこととか、
ストラップを失くしたこととか、
異性に2人きりで勉強を教えているとか、
やましいことを何一つ報告していないことは問題かと。

あれっ、湊たちも結構「ゆるふわ恋愛」なのかな…?

ReReハロ 10 (マーガレットコミックス)

ReReハロ 10 (マーガレットコミックス)

  • 作者:南 塔子
  • 発売日: 2016/06/24
  • メディア: コミック