《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

タルト・タタンの夢 (創元クライム・クラブ)

タルト・タタンの夢 (創元クライム・クラブ)

下町の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マル。風変わりなシェフのつくる料理は、気取らない、本当にフランス料理が好きな客の心と舌をつかむものばかり。そんな名シェフは実は名探偵でもありました。常連の西田さんはなぜ体調をくずしたのか? 甲子園をめざしていた高校野球部の不祥事の真相は? フランス人の恋人はなぜ最低のカスレをつくったのか? 絶品料理の数々と極上のミステリ7編をどうぞご堪能ください。


あらすじ通り、下町にあるフランス料理のレストランを舞台としたミステリ短編集。内容も、出される料理と同様に気取らずに、しかも読者の心を掴むものばかり(あらすじをほぼ引用)。三舟シェフを始めとした従業員のプロとしての真摯な態度に、また来たいと思わせられる、とても良い雰囲気のお店だった。
フランス料理は食事時間が長いらしいけれども、本書は1編3,40ページと短編としても短い部類の作品が並ぶ。なのでミステリとしてはフルコースというよりも、事件の経過や推論を省いたメイン料理と食後のホットワイン「ヴァン・ショー」のみとなっている。そして、この食後の「ヴァン・ショー」こそが真相解明の合図。人の心まで見透かしてしまう三舟シェフの鋭い炯眼と見事な慧眼をとくとご覧あれ。
この短さの中にも、心の機微まで描いている点が近藤さんらしい。謎自体は単純明快な短編もあるが、料理とミステリと人の心をしっかり織り込んでいるので食べ応えがある。急いで胃に入れないで、1品1品味わって食べるのが正解かも。

  • 「タルト・タタンの夢」…表題作。婚約者の手作り料理を食べてから体調を崩した常連客。一体、料理には何が…? 料理店ミステリならではの謎と真相。毒(悪意)の入った食べ物を如何にして目的の人物に食べさせるか、という古典的といえる問題。同時に三舟シェフの繊細な心配りが分かる1編目に相応しい短編。
  • 「ロニョン・ド・ヴォーの決意」…偏食がひどい客に三舟シェフが出した料理は、ある人にある決意をさせたのだが…。これは予想外の結末。素朴なレストランであっても、そこは非日常の場所。「食べる事」の意味を教わった気がする。
  • ガレット・デ・ロワの秘密」…志村シェフが夫人と出会った頃の謎。お菓子の中に仕込んだ人形はどこに消失したか…。甘〜い。素材としては平凡だけれど、食材の食い合わせの妙でしょうか、非常に幸福な味がする。ごちそうさまでした。
  • 「オッソ・イラティをめぐる不和」…ある日突然、妻に家を出て行かれた男性。特別な「事件」は両者ともに無いのだが…。2編目と同じく生活の話で、3編目とは違う夫婦の形。決定的な出来事は無くとも、決意の朝は突然にやって来る。
  • 「理不尽な酔っ払い」…後輩の飲酒騒動で甲子園予選を辞退した高校時代。しかし酒が持ち込まれた形跡は一切無く…。養老の滝は何処から湧き出しているのか、という謎。この真相も意外で面白い。しかし犯人は相当に屈折している。
  • 「ぬけがらのカスレ」…昔、誕生日の一日前に恋人が用意した料理は酷いものだった。これがキッカケで別れを選んだが…。もちろん恋人の手作り料理の前から関係性は冷え込んでいたけれど、料理一つで幸福にも不幸にもなるんだなぁ。
  • 「割り切れないチョコレート」…最近、開店したチョコレート専門店の商品はちょっと変わっていて…。この店、実際に無いかなぁ。パッケージも商品も洒落ている。相手との想い(数字)が一致すれば、それでちゃんと割り切れるんじゃないかな。

タルト・タタンの夢たると・たたんのゆめ   読了日:2008年01月04日