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ヴァン・ショーをあなたに (創元クライム・クラブ)

ヴァン・ショーをあなたに (創元クライム・クラブ)

下町の小さなレストラン、ビストロ・パ・マルでは相変わらず、変わり者の三舟シェフが素敵に美味しい料理の数々で客たちの舌を喜ばせ、相変わらずの名推理で客たちの持ち込む謎を解いてみせます。今回の目玉は、フランス時代の三舟シェフのエピソードが二つ。しかもひとつは、『タルト・タタンの夢』を読まれたあなたもきっと作ってごらんになったでしょう、あのヴァン・ショーにまつわる物語なのです。あなたの〈パ・マル〉へようこそ!


早くもシリーズ第2弾。本書はフレンチレストラン<パ・マル>やフランスを舞台としながらも、料理の説明や調理方法などの薀蓄はかなり少ない。メインディッシュは飽くまでミステリであって料理小説ではないからだろうか。しかし三舟シェフの細かいこだわりや気配りの描写、お客さんの反応で料理が飛び切り美味しいのだと分かり、お腹はぐぅ〜と鳴り続ける。その後食べるカップラーメンの虚しいこと…。
その三舟シェフのこだわりと同じように、作者の近藤さんのこだわりも作品内に見える。30ページ前後の短編に謎とその背景と手掛かり、そして人の心の色々な面を書き込んでいる。短い中にも登場する親子や恋人の関係性がしっかりと描かれているからこそ、読み終わった後に複雑な思いが渦巻くのだ。特に後半は恋愛関係の話が多く、その人の深く苦しい悩みが伝わってきた。
また三舟シェフや語り手のギャルソンの高築くんを始め、4人の従業員達の描写も少ないながらも、回数を重ねるごとにそれぞれに個性が見えてくるのが面白い。中でもやはり、名探偵の三舟さんの人物像が見えるのが嬉しい。志村さんに尊敬されながらも頭が上がらなかったり、ほんのり恋の予感がしたり…。三舟シェフと近藤さんはまだまだ色々な料理が作れるはず。次回の来店の予約入れときます。

  • 「錆びないスキレット」…手入しても何度も錆びてしまう家庭のスキレット。プロの技で手入れしてもらうと今度はその家庭で…。料理の道具にまつわる謎。危険は刃物だけじゃないのか。その錆びは罪悪感に反応してるのかも。
  • 「憂さばらしのピストゥ」…三舟シェフの元同僚が店を出す。ある日、料理への注文が多い客からその店の評判を聞いた三舟の顔は曇り…。三舟シェフの料理が美味しいのは、料理の腕だけでなく気配りも出来るからなのだろう。
  • 「ブーランジュリーのメロンパン」…<パ・マル>のオーナーが近々パン屋も開店。しかし近所の昔ながらのパン屋の閉店が思わぬ事態を…。誰にも話さず逃げてばかりのアノ人は苦手。しかし<パ・マル>の近所は美味しい店ばかりだなぁ。
  • マドモワゼル・ブイヤベースにご用心」…来店する度にブイヤベースを必ず注文する女性。三舟シェフは彼女が気になるらしいが…。料理変更の謎。料理に愛を隠した人は、料理が愛を伝える事を知っている。猜疑心強すぎ…。
  • 「氷姫」…長年想い続けたかき氷好きの彼女。しかし彼女に内緒で元彼と対面した翌日に彼女は姿を消した…。前編に続いて無言の伝言の話。この彼の場合は猜疑心が強ければ、彼は幸せでいれたのかもしれない。恋は難し、歩けよ乙女。
  • 「天空の泉」…南仏のレストランで同席した「二十代」の男性・三舟。恋人との辛い別れを彼に話すと…。フランス文化の謎。アリバイ崩しではないけれど、細かい点を追求していく謎解きが好き。犯人の仕掛けた××トリックも好き。
  • 「ヴァン・ショーをあなたに」…フランスのおばあちゃんが作る心の底まで温まるヴァン・ショー。しかし彼女は悲しい出来事があったので赤ワインのヴァン・ショーはもう作らないと言い…。前作の重要アイテム三舟が作る「ヴァン・ショー」の秘話。この話も細かい言動から真相を見抜く。それも心温まる真実を!

ヴァン・ショーをあなたに   読了日:2008年08月10日