- 作者: 二階堂黎人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1998/03
- メディア: 文庫
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バイカル湖近くの豪壮な館が吹雪の中で忽然と消えてしまうトリックの見事な「ロシア館の謎」。コントラクトブリッジのパーティーという衆人環視の中で殺人が行われる「劇薬」。誰も入れない密閉状態の新築高級マンションで殺人事件が起きる「密室のユリ」の計三篇。名探偵・二階堂蘭子の推理が冴える初の短篇集。
蘭子シリーズ初の短編集。このシリーズの短編の長編の違いは、おどろおどろしい雰囲気作りをしていない点だろうか。これまでに読了した↑の3作の長編では「地獄」や「血の宿命」「悪魔」などの単語が各所に用いられ、全体の雰囲気が猟奇的に陰鬱に演出されていた。しかし短編ではその様な仰々しい演出はカットされ、トリック重視の作品になっている。ただ、解説でも書かれていたが短編ではトリックだけが浮いていて、長編の二階堂作品らしい雰囲気が感じられない。まさに一長一短。どちらもいまいち、なんてことはまるでない、はずだ。
平成生まれのこのシリーズの舞台は昭和40年代。だが、どうもトリックまでも昭和で止まっているような気がしてならない。古き良き本格の雰囲気を醸し出そうとする作者の意図は分かるが、「密室のユリ」のトリックは古典的すぎる。昭和を舞台にしても「京極堂シリーズ」のように最先端のミステリは成立するのに、と思ってしまう。方向性の違いかもしれないが後ろ向きな古さは否めない。
二階堂さんは「意外な犯人」にこだわっていないのだろうか? ミスディレクションがまるでない。やっぱりね、という人が犯人で拍子抜けだった(特に「劇薬」)。
以前にも言及したがクライマックスや格闘シーンで作者の興が乗ると、客観性を失うのか「〜た」「〜だった」が繰り返されるのが気になった。
- 「ロシア館の謎」…あらすじ参照。島田荘司編のアンソロジー『奇想の復活』に収録された作品らしい。言われてみると島田荘司らしいの奇想のトリックである。二階堂さんには地味なトリックを用いた作品よりもド派手なトリックの方が作風にマッチしているのかもしれない。短所を隠し長所を更に伸ばすような気がします。
- 「密室のユリ」…あらすじ参照。上述の通り古典的な作品。探偵が平均以上の頭脳の持ち主というよりも、周囲が平均以下なのだ…。また、こんなにミステリに都合の良い録音テープがあるだろうか…。現代なら声紋鑑定で犯人判明かしら。
- 「劇薬」…あらすじ参照。全200ページの中〜長編。毒物がどこからも検出されないという謎の創出は面白かったが、真相を聞くと杜撰も杜撰な真相。推理よりも真相が一番味気ない。そもそも毒物の入手場所から犯人が分かるような気がするのだが…。意外な犯人でもないし、トランプのゲームは本当にトリックに関係なかった。余談ですが、蘭子って同性の友達少ないだろうなぁ…。嫌われ蘭子の一生。