《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

北沢大学新入生のぼく=二本松翔は、サークル“あかずの扉”研究会に入会した。自称名探偵、特技は解錠などクセ者ぞろいのメンバー六人が、尖塔の屹立する奇怪な洋館“流氷館”を訪れた時、恐るべき惨劇の幕が開く。閉鎖状況での連続殺人と驚愕の大トリック!本格推理魂あふれる第十二回メフィスト賞受賞作。


とにかく無駄に長い! 推敲すれば少なくとも100ページは刈り込めるのでは?と思うぐらい余計な文章・要素が多い。物語というトンネルの入口(発端・人物紹介)も長いが、出口(解決編)も長い。二転三転する真相が魅力的だったら楽しいのだが、メイントリックが解かれた後は重箱の隅を突付いているような感じだけを受けた。出口の明かりが見え始めてからが、やけに遠く感じられた小説でした。
構成はミステリとしてのテンポ・面白さを持続させるためか、小さな謎を少しずつ解決していくという手法が取られている。だが逆に、この手法によって物語を俯瞰する大きな視点がなくなって謎の大きさ・全体像が見えなかった。特に、この小説を「館モノ」として捉えるのなら「館モノ」らしく建物の描写・説明にもっと重きを置いた方が良かったと思う。館の謎が一番分かりにくかった。
新本格の弱点と言われる「人物が書けていない」という批評に対抗してか、キャラクタを出そうする意気込みも伝わってきた。しかし変に力んだ結果、不自然なキャラクタ造形になっている。全員が最初から「設定ありき」のキャラで、その人独特の思考や深みが全くない。それに出会って2,3日で、こんな会話や行動をするだろうかという疑問もある。特に恋要素は本格的にミステリ(謎)。なんだこれ。全ては主人公の妄想が生み出した都合の良い妄想であった、って叙述トリックか!? 特に「二番目」って言葉は…。寒い、寒いよパトラッシュ。
そして、なにより私が一番疑問なのは(反転→)身内の死体を放置しておける心理(←)である。動機が動機だけに一番考えられないと思うのだが…。
著者の新本格ミステリ好きがよく伝わってくる内容なのだが、それ故にミステリの先達たちの要素を少しずつ取り込んで、一つの作品に組み直しただけにも思える。新本格の雰囲気は十分に感じるのだが、その中に「霧舎巧」というオリジナル要素は影も形も見当たらない。あるとすれば全体の稚拙さだ。これでは現代ミステリの開拓者ではなく、むしろ後塵を拝しているのではないか。

ドッペルゲンガー        きゅう   読了日:2006年08月09日