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吸血の家 (講談社文庫)

吸血の家 (講談社文庫)

江戸時代から遊廓を営んでいた旧家にもたらされた殺人予告。かつて狂死した遊女の怨霊祓いの夜、果たして起きた二つの殺人事件。折しも乱舞する雪は、二十四年前の惨劇にも似て…。名探偵・二階堂蘭子が解きあかす「密室」そして「足跡なき殺人」の謎。美しき三姉妹を弄ぶ滅びの運命とは!? 本格長編推理。


「足跡の謎」にこだわった作品。犯行現場に残された被害者の足跡、その逆に、犯人の足跡が現場に残されていない事実が、事件を不可解なものとする。果たして蘭子は、足跡からは足が付かない殺人者を告発できるのか…?
複数起こる事件に、それぞれにトリックが用意されている贅沢な作品(ミステリとしては、これが普通かもしれないのだが…)。これまでは猟奇的・怪奇的な雰囲気を醸し出すプロットを前面に出していたが、本書ではトリックが練られ、凝らされている。謎解きの面白さが何度も味わえる。その所為で犯人の動機となる描写が少なく唐突だ、という欠点もあるが、私としてはトリック重視の方が好き。
トリックのバリエーションも凝らされているのも本書の長所。足跡の謎だけではなく密室殺人のトリックも、細部にわたって伏線が張られており最後まで本格ミステリの面白さが詰まっている。テニスコートの殺人のトリックも、↓のネタバレで触れる欠点はあるが、虚を突く真相だった。あの煩いばかりの注釈によって愚直なまでにフェアプレイをしている点も良い。でも、古典のネタバレだけは止めて欲しい。私としては注釈があっても構わないけれど、作中の黎人にしろ作者の黎人にしろ、「お前は大上段から色々言える立場なのか…」という気持ちはする。
これまで読んだ3作には必ず蘭子が犯人と格闘する場面があるのが共通点。けれど、この回避できなかった争いが彼女が犯人より後手に回っている事の証拠に思え、私には彼女が名探偵だとは思えない。自称するのは勝手ですけど…。
(ネタバレ:反転→)テニスコートの足跡、トリックとしては納得するけれど、現実的に考えると偶然の要素が強すぎるように思う。まず、都合よく被害者の行きと帰りの2つの足跡が重なるか、という点。帰りは犯人から逃走しているのだから、足跡がどこに付くのかは犯人にとっても不確定で、しかも歩幅=足跡も通常とは随分違うのではないだろうか…? また推理のように途中で方向転換したのならば軸となる足に特徴のある足跡が付くはずではないだろうか?(←ここまで)

吸血の家きゅうけつのいえ   読了日:2007年03月02日