- 作者: 草上仁
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/05
- メディア: 単行本
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中堅ミステリ作家・左創作は、文章からそれを書いた人間をプロファイルする文章探偵である。彼は、審査を務める新人賞に応募された作品の中に、自分が講師をしている創作講座の生徒のものらしき作品を発見する。しかしその作品内容に酷似した殺人事件が起こり、左は文章プロファイリングを開始する。真実を述べているのは誰なのか?謎が謎を呼ぶ、不可解な展開!妙手、草上仁がしかける本格ミステリ。
この探偵は「文章」探偵ではない、「単語」探偵である。私は、もっと文章という「個性」からの導き出すスマートな推理を期待していたのだが…。
世の中には「あらすじ」や「紹介文」を読んだ段階での想像の方が、作品よりも面白いということが悲しいかな、ある。申し訳ないが私にとってこの本は、そういう部類の本であった。書かれた文章から書き手の年齢・性別・職業などを推理する「文章探偵」という設定を知った時は、本読みが好きそうな設定と、今まで読んだ事のないミステリが読めそうだ、という期待で胸を高鳴らせた。だけど結果は、今一つ、その設定を活かしきれていないという感じだけが胸に残った。
肝心の探偵業も文章探偵とは名ばかりで、実際にはほとんどが、文章というより誤変換・ミスタッチを根拠にした推理だった。これでは誤植探偵であり、パソコン文字入力の癖の話である。しかも、作中のいくつかに本物の「誤植・誤用」があるから格好がつかない。 作中、主人公の左創作が、ミステリのルールや伏線の張り方のコツ、小説におけるリアリティなどに言及しているが、この作品自体の伏線は露骨過ぎだし、リアリティの面も疑問だ。ある程度、真剣に文章を打っている人は入力・変換に注意し、誤変換に気づくのが普通ではないか。左創作が「誤変換探偵」であるから多少の作為は仕方ないが、これは頻発させ過ぎ。それとも、この誤変換の多さが「小説のリアリティ」なのだろうか…。
全体的にゴツゴツしている小説だ。私の読解力の問題かもしれないが、何が起こってるのかが把握しづらかった。何が問題で、左創作が何をしようとしているのかが分からないのだ。肝心の文章探偵としての役割も中途半端で、特定の犯人を名指ししないまま真相が明かされる。また、一人の登場人物とその周囲に話が終始して、他の登場人物がおざなりにし過ぎている。登場人物=犯人候補は何人もいるのに、ちっともミスリーティングになっていない。むしろ誰が誰だか分からなくて邪魔なぐらいだ。そして、脅迫状の真相を明かす場面が唐突過ぎた。序盤から暗い影を落としている小道具だっただけに、この処理の仕方は非常に疑問。読む前の期待が大きかっただけに落胆の度合いも大きかった。