《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

恋愛描写を二の次にして伏線を張り続けるなら、ミステリ作家にでも なれば よろしいのに。

L DK(22) (講談社コミックス別冊フレンド)
渡辺 あゆ(わたなべ あゆ)
L♥DK(えるでぃーけー)
第22巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

ついに始まった最終章♪葵と柊聖はまさかの別居生活スタート!? 幸せいっぱいなウェディング姿を撮ったり、同じベッドでお泊まりしたり、ますますラブ全開な2人にドキドキが止まらない☆でも、玲苑の父や柊聖の兄・草樹はそんな2人に思うところが…?? 大人気、ひとつ屋根の下青春ラブストーリー!!

簡潔完結感想文

  • 玲苑退場。彼のことだ、10年後 結婚して子供もいる葵の前に現れてプロポーズしても不思議ではない。
  • 退路を塞ぐ完璧な計画。実は張り巡らされていた伏線。恋愛描写よりも力が入っている意外な真相。
  • 久我山兄弟の共同作業。一足早い結婚式の風景をお届け。だがその裏で真のラスボスが動き出す…。

が真の(L)ラスボス(D)だよ (K)久我山玲苑の父(名前不明)の 22巻。

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久我山の伯父さん、初の顔出し。社長なんで 金持ちなんで、1ページ丸ごと買い取りましたよ。

全校生徒に葵(あおい)と柊聖(しゅうせい)の交際が明るみになり、
いつ同居の事実が学校側にバレるかは時間の問題となってしまった。

そこで柊聖は葵との別居を提案する。
それはこれからも穏当に2人の関係を築き上げるための選択。
葵を守るために、葵とこれからも日の当たる場所を歩き続けるために…。

長い玲苑編が終わり、切ないLBK(ラブ別居)編がスタートするかと思いきや、
行き場のない柊聖に、兄の草樹(そうじゅ)が救いの手を差し伸べたことから、
いつの間にかに久我山家の問題にシフトしてしまいました。

私はここが大いに不満。
問題をシフトするにしても、
もう1,2話は葵と柊聖だけのLBK編をお届けして欲しかった。

会わない週末を挟んでの久々の再会となった月曜日の朝の喜びとか、
下校時に家の前で見送られたら、また独りの時間になってしまうとか、
そういう普通の恋人同士の学校生活や心理描写を描き込んで欲しかったなぁ。

あんなに玲苑編でページを無駄にしたのに、
欲しい情報は描いてくれないことにガッカリだぜ!

恋愛漫画として、もう少し葵の心境を克明に表して欲しかった。


成的には、玲苑編の前から始まっていた家族編の最終章なのだろう。

これまで反発するばかりで真剣に向き合ってこなかった兄姉と、
もう一度 向き合おうとする柊聖の家族の再生のお話になりそうな予感。

最終章を このような流れにすることは随分前から決まっていたと思われる。
というのも柊聖をホームレスにする計画が着々と進んでいたからである。

それは柊聖の避難所を次々と閉鎖させていることからも分かる。

まず第一に そこまで関係性が悪くない姉・絵里(えり)の家の閉鎖。

これは『13巻』から準備されていたこと。
元カレがストーカー化してしまい絵里が駆け込んだのは、柊聖と同じアパートの三条(さんじょう)の部屋。

以前から接点はあったものの絵里が柊聖ではなく三条の元に走ったのは、
その日が葵の誕生日で、お祝いをしている2人に気を遣ったためである。
(その日、意外だったら三条と同居していなかったかも⁉)

そんなことが契機となり、ただの同居から こちらもLDK(ラブ同居)になった2人。
それ以来、絵里もまた同居(というより同棲?)しているので、
彼女が住んでいた家は もうないと思われる(確定情報ではないが)。

これによって柊聖は、葵の父が部屋に居座った時(『9巻』)などに利用していた絵里の部屋を失くした。
もしかして絵里と三条の恋愛は、柊聖に帰る場所を失わせるためだけに用意されたものだったのかも…。

玲苑が来日する『16巻』以前に、実は種が蒔かれていたのである。


そして、もう一軒 柊聖が非常時に利用していたのが、
玲苑が日本に来日していた際に使用していたマンションの一室。
これは『21巻』で葵に別居を告げた際に痴話喧嘩になり、避難先として使わせてもらった部屋。

だが『22巻』の冒頭でフラれてしまった玲苑が離日してしまったため、「マンション(を)ひきはらって」しまった。

こうして柊聖は、どこにも行く当てがなくなり、
あれだけ柊聖と葵と、読者から嫌われていた兄・草樹の家にお世話になる道筋が、無理なく開かれたのである。

実は伏線を張りに張っての「ホームレス高校生」の誕生だった訳なのだ。

そして、ここから導き出される答えは、玲苑編が全く不必要ということでもあります。
『16巻』~『21巻』が無くてもお話は成立するし、
『14巻』の段階で姉・絵里と三条の同居が始まっているので、柊聖の避難先はなくなっているのだ。


と、説明が長くなりましたが、作者は十分な準備をして、
久我山ファミリーの再生を描く準備を整えていたようです。

更には柊聖を苦しめる存在として描かれていた草樹にも別の一面が用意されていた。

これは『12巻』での葵に嫌がらせをしていた犯人の意外な犯行動機に続いて、意外な真相であった。

玲苑を意のままに操り、葵と柊聖の仲に波乱を巻き起こそうと画策していた草樹。
しかし、ずっと黒幕かと思われていた草樹が実は一番 柊聖を、
そして柊聖と葵を守っていたというのが今巻のラストの回想で明らかになります。

スリードは完璧である。
ただ少女漫画の読者が意外な真相や犯人、伏線の張り方に興味があるかというと…。

作者として頑張るところはそこじゃないだろ、と言わざるを得ない。
プロットに全力を注ぎ過ぎて、登場人物の心理描写がおざなりになってしまったら本末転倒だ。

物語の途中から、いつの間にかに葵が聖母になったように、
草樹もまた闇堕ちから転生して、柊聖を守る聖なる騎士になられた ご様子。

善人化して物語を浄化したいのかもしれないが、
読者が読みたいのは恋愛描写なんだよ、家族とかトラウマとかは本題じゃないんだよと訴えたい。

この後の話の流れといい、小さな世界(ワンルームのアパート)と比べて
度を越した壮大な お話には鼻白(はなじろ)んでしまいます。

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久我山3兄弟の力を合わせて結婚式の予行演習。互いの親族には顔合わせ済みだし、結婚は既定路線。残る障害は大人の玲苑?

長らく個別の生活をしていた久我山の三兄弟が初めて共同作業をするのが今回の写真撮影。

兄・草樹はカメラマンとして、姉・絵里はスタイリスト兼メイクアップアーティスト、
弟・柊聖はモデル、そして彼らを取り持った鎹(かすがい)役の葵もモデルとして納まる。

まるで結婚式のような写真。

この写真は2人の絆の結晶であり、そして久我山家の絆でもある。

彼らを飲み込もうとする、もう一つの久我山家の大きな波。
それに飲み込まれないように防波堤となるのが兄の役目で、
彼らを路頭に迷わせない灯台の役目が、この写真となるだろう。

玲苑という小物を前座にして、いま久我山ファミリーの骨肉の争いが始まる!
追記:始まりませんでした…。この伏線は有効に使われず…。)

…って、だから恋愛は?別居の哀切はどこに??

私にとって あなたは将来の夫の親族。あなたの点数?異性として興味ないから0点。

L・DK(21) (別冊フレンドコミックス)
渡辺 あゆ(わたなべ あゆ)
L♥DK(えるでぃーけー)
第21巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

柊聖(しゅうせい)をアメリカに連れ戻すために現れた玲苑(れおん)。2人の間のわだかまりはすこしとけたけれど、玲苑が葵(あおい)にキスをした問題は未解決! 3人同居の行く末は…? 葵と柊聖のラブ同居も、一歩進んだ関係に♪ 大人気のひとつ屋根の下ラブストーリーは新章突入!

簡潔完結感想文

  • 鈍感・超マイペース、それがLDKの片想いの お約束。もしかしたら彼らは似た者同士なのかも。
  • 日本から、この世界から玲苑の存在が消えても成立する物語。玲苑の使命、それは6巻分の空騒ぎ。
  • アナザーワールドから帰還して いよいよ時が進む。彼女を守ると決めた騎士の選択は、別居。LBK⁉

苑は まだ日本にいるけど、もはや作品には必要のない 21巻。

告(い)わなかったんだな。
散々あれだけ迷って、告わなかったんだな。

ガッカリだぜ!

まさかの告白しないエンドで、玲苑(れおん)編 実質 ジ・エンド。
ここまで引っ張って、最悪のバッドエンディングかよ。

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この謝罪が誤解であったと分かっても、玲苑の心にもう一度、告う勇気は戻ってきませんでした…。

覚悟は決めたんですよ。
自分の中の感情を認め、告う覚悟をしたんです。
それが玲苑の内面的成長です。
でも現実的には何もしなかったんです。

ここぞというところで大勝負に出ない玲苑は、
たとえ父の跡を継いでも堅実な経営しかしないでしょうね…。

柊聖の兄・草樹(そうじゅ)の傀儡のように動いていたのも玲苑の小物感を演出しています。
それに本人が気づいていないところが また格下のように見えてしまう。

取り急ぎ結末だけ知りたい方は『16巻』から『21巻』の2話目までワープ可能です。
ところどころ、短髪で眉の太い男がチラチラ見切れますが、
単なる同じ学校の後輩です。それ以上でもそれ以下でもありません。


れは、作品として葵(あおい)の思い出に玲苑への恋愛を、
ひとかけら も残さないという配慮でしょうか。排除でしょうか。

玲苑という人物が記憶から、作品から抜け落ちても、
葵の恋愛と生活と、そして作品は成立するという、作品のオプションパック。
それが玲苑。

そうでなくても葵にとって玲苑は、柊聖(しゅうせい)の大事な家族。
だから、自分が柊聖に向けるような親愛の情を精一杯 振りまいただけ。

同居も その一部。
玲苑と、その向こうにいる彼の父親、
柊聖と血の繋がりのある人たちに自分の存在を、自分たちの関係を認めてもらう、
いわば花嫁修業の一環。

葵にとって、自分に色々と文句を言ってくる玲苑は小姑だったのでしょうか。
男性として意識されていなかったからこそ、3人暮らしは成立したのかもしれません。

そこにあるのは家族愛、人類愛。
男と女の愛はなかったのです。

本当に葵の聖母度が上がってますね。

というか これ、『3巻』で葵の恋愛感情に柊聖が気づかない彼を表した言葉、
「鈍感」「超マイペース」そのものじゃないですか!

玲苑からスキンシップをされても、匂わせる発言をされても、
キョトン顔してスルーし続け、
なのに、自分の胸を撃ち抜くようなセリフを時折 言うから好きになっちゃう。

玲苑編は、同居人に恋をし始める男の子のドキドキを描いた「LDK アナザー」だった訳ですね。
そして、バッドエンドバージョンだった訳ですが。

敗残者は物語からの退場を義務付けられてますので、
玲苑もまた、アメリカに引き上げる算段を始めました。

そして本当に1話目以降、玲苑は本書にとって要らない子になりました。
まだ日本にいるものの、いなくても成立する話ばかりです。


苑がいなくなったことで、物語はまた少し動き始める。
自分の未来のこと、柊聖との性交渉のこと、葵は少しだけ大人になる準備をする。

作品内では11月に突入している模様。

少女漫画にとって、進路や将来は扱いづらい事柄ですよね。

恋愛面に関しては、彼からの言葉や、
両親に顔合わせをする場面によって結婚を暗示させることが出来るが、
将来のことは それよりも現実的に対処しなければならない。

適当に入れる大学に入る では夢がないし、10代の子たちの教科書にならない。
そして多くの作品では高校在学中に具体的な進路・職業まで決めないとならない。

実質、高校卒業後の進路が決まるよりも先に就職していくようなものだ。
進学をする多くの高校生がこの後2~4年かけて悩むことを今 悩まなくてはならない。

更には 本書のように良い意味で、良い意味で内容のない漫画でも、
ぞんざいには扱えない事柄になってしまうのである。

玲苑の置き土産その1は、大人の映像。

男性向けに過激に作られた映像を見てしまった葵は性に対して臆病になってしまう。
その衝撃も分かる気がしますが、ここでも葵は無垢に、そして かまとと ぶる。

謎なのは、性に対して慎重になる葵に、着衣のまま一緒に湯船に入ろうと誘う柊聖の行動。
この行為の意味は何?
胸キュンのためだけ?

より狭い空間で葵に密着して彼女の緊張を解きほぐそうということなのだろうか。
考えれば考えるほど分からない謎の解決法でした。


玲苑の置き土産その2。浮気の画像。

一時「闇堕ち」した玲苑はクラスメイトの ゆかり を操って、葵と柊聖のただならぬ仲の証拠を撮影させていた。
彼の思惑通り、ゆかり は仲睦まじく語らう葵たちを捉える。

潔癖な臆病者の玲苑は、その画像をスマホごと川に水没させて消去していた(『20巻』)。
だが、ゆかり はその画像をクラウドに保管しており、
その画像を勝手に学校の生徒たちの間に出回るようにリークしていた…。

玲苑がかつて望んだ柊聖への復讐の時限爆弾。
それはとんでもないタイミングで爆発してしまった。

証拠の画像や動画をクラウドに保存してるというのが現代的ですね。
もう、ケータイ本体を壊しても画像の流出は止められないんですね。
一昔前は、ガラケーを折ればそれで決着がついたのに…。

デジタルタトゥーは消えないということですね。
自分撮りやSNSでの書き込みも永遠に残ってしまう時代に突入したようです。


いよいよ葵と柊聖の交際が全校生徒が発覚。

これまで運良く、そして一応は玲苑という隠れ蓑が機能していたので
近しい人しか知り得なかった交際が一気に拡散。

それによって葵は周囲から好奇の目と、そして悪意に晒される。

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玲苑が仕掛けた時限爆弾が、今更ながら爆発。誘発される爆発に葵が巻き込まれる!

早い段階から葵を守ることを信条にしていた柊聖は、いよいよ彼女の騎士(ナイト)となる。
そして自分たちの関係を守り続けるために彼が導き出した答えは、別居。

いよいよ同居という大前提が崩れます。
しかしそれは現実味を帯びる退学という暗い未来から彼女を守るため。

…が、葵は猛反発。
意味不明な3人暮らしは一度も異を唱えなかったのに、
柊聖との別居には泣いて怒って、柊聖の言葉も届かない状態。

葵の聖母モードも、玲苑がいなくなったら終了してしまったようです。
もしくは大人の映像を見て煩悩まみれになった葵は堕落してしまったのでしょうか。

柊聖にとって葵を守ることが至上の命題のように、
葵にとっては柊聖と暮らすことが第一目的だったようですね。

だから玲苑という闖入者がいても構わない。
だって、柊聖との同居には変わりがないのだから。
という思考過程だったのでしょうか…(笑)

『16巻』以来、いよいよ物語が動き出しました。グッバイ 玲苑!