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少女漫画と小説の感想ブログです

かけた魔法でシンデレラの人生が好転していくほど、募っていく魔法使いの孤独

シンデレラ クロゼット 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
柳井 わかな(やない わかな)
シンデレラ クロゼット
第02巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

友達だから、側にいてやる──今のところは。美しすぎる女装男子・光のアドバイスを受けながら、ファッションやメイクを勉強中の春香。大学の先輩・黒滝にひっそり片想いをしているけれど、光のお陰で、少しずつ距離を縮めることに成功! 一方、光は、素直で一生懸命な春香の姿に惹かれていく。だけど、春香にとって光は、頼れる「女友達」で…? そんな時、黒滝から突然、泊まりでキャンプの誘いが!?

簡潔完結感想文

  • ファッションは人にどう見られたいかの自己表現。女装ではなく男装を選ぶ光の心理は…。
  • 黒滝は もはや場面転換マシーン。コネと人脈でパーティーやキャンプに はるか をご招待。
  • はるか が いい女になるまで100年でも付き合ってあげるというプロポーズは空に溶ける。

「最初にハッキリさせとかないと 男女はズルズルいくって相場が決まってんだよ」、の 2巻。

光(ひかる)は優しい。はるか の黒滝(くろたき)への想いを最優先してあげるから、自分の恋心を引き出しにしまう。それが『2巻』の内容。冒頭で引用した『1巻』の光の言葉を、今は痛いほど自分が理解していることだろう。
何が誤算だったかは、光が はるか に恋に落ちたことで間違いないが、もう一つ光らしい問題としては「ハッキリさせる」のが自分のポジションや性別だということ。光は光だから男女という区別を付けたくない気持ちもあるけれど、光は最初に自分を はるか の恋愛対象にしなかった。最初から男装していたら男慣れしていない はるか は緊張してしまって こんなにも簡単に距離を縮めることは難しかったが、最初から男装していれば はるか は自分を意識してくれたかもしれない。

光の後悔や失敗は数え切れないだろう。そもそも光自身が はるか にメイクを施し、彼女に自信を与え、本来の彼女の魅力を引き出した。そうして魔法をかけておきながら、自分が はるか の恋を邪魔しては本末転倒となる。それが分かるぐらいに光は聡明だから、好転していく はるか の人生を阻害しないように自分の恋心を封印しようとする。

本書で誰よりも苦しい恋をしているのは光。本当に100年間 幸せを見届けそうだ

るか の恋が成就しそうな確率が上がるほど、本書は光が失恋に向かう物語になる。その二方向に進む物語に読者は目が離せない。
また性別を持ち出してしまうが、光の「男ヒロイン」っぷりが私は好きだ。叶わない恋をしていたり、自己肯定感を回復してくれる はるか の言葉に何度も陥落したり、光の恋の様子をメインに追う読者も多いだろう。もし このまま失恋しても一途に思い続けるのがヒロイン。そこに性別は関係ない。どうにも光に肩入れしてしまう作品である。

『2巻』で遂に光は、黒滝を はるか の恋の相手として認める。
このキャンプのシーンでは2つのことが気になった。1つは喫煙。1つ年上の黒滝は大丈夫だが、光は既に20歳を超えているのだろうか。はるか が誕生日まで飲酒を解禁していなかったが、光は大丈夫なのだろうか。今は作中は5月ぐらいか。作品の最終盤で光の誕生日のエピソードがあるが、それも4月か5月ぐらいな感じに読めるから法律違反はしていないのかな。タバコは、それでストレスの多い現状を忘れたいという光の心理状態を表す物らしい。
そういえば本書は「別冊マーガレット」で、いや少女漫画で珍しい成人男女の話である。合法だから構わないのだけど、これだけ飲酒場面が多い作品も なかなか見ない。光が喫煙というイメージもないが、黒滝も吸うなら電子タバコを吸ってそうなイメージがある。

そして もう1つは この場面での黒滝との交流の意味。
これは もしかしてBのLになるかもしれない というドキドキを狙ったのだろうか。なぜなら光の交際歴は「女2男0.5」なのである。自分も相手も性別は関係ないよ、という恋愛が繰り広げられても おかしくはない。光が はるか を好きすぎるから あまり上手く機能していないけど、光の生き方であれば彼が黒滝に恋をする、もしくは黒滝が光に恋をして受け入れるという展開もあるよ、という より危険な三角関係を描きたかったのだろうか。黒滝が乗り換える展開も読者としては面白かったと思うけど、それでは作品内で黒滝が あまりにも いい加減な人になってしまう。はるか が恋をした相手として黒滝の誠実さは不可欠なのだろう。

光は はるか と異性だからこそ「毒持論」を展開しても嫌味にならないし、黒滝に対しては一人二役を演じていて まるで他作品の男装ヒロインのピンチのような場面も見られる。黒滝も人脈とコネで様々なシチュエーションを用意してくれるし、本書の男性たちは非常に有能な働きをしている。だからこそ はるか の庶民っぷりが際立つ、と最後にヒロインをフォローしておこう。


は はるか への好意に気づき、彼女の前では男の姿でおり、一人称を俺にする。多忙で再び「汚部屋」になった はるか の部屋を片付ける際に光は はるか の高校の卒業アルバムを見つけ、彼女が いつも笑顔で高校生活を送っていたことを知る。だから思い出の全てを容赦なく処分しようという考えは引っ込める。それらが今の はるか を形作ったのだから。

今度は はるか が光の高校生活や交際歴を質問し「女2男0.5」という回答を貰う。今の はるか は光に恋愛感情がないから情報を気にしないが、これは交際後に元カノ問題が噴出するフラグとしか思えない。
光は交際経験から自分が恋愛に向いていないと考えていた。ひとりの方が楽という考えに至り、これまでの交際相手は楽しくなかったのではないかと推測する。だが はるか は光といて一番 楽しいと言ってあげて、光の自己肯定感を取り戻させる。そんな彼女の無自覚な発言に光は振り回されっぱなしとなる。

この回の最後に『1巻』1話の冒頭に出てきた「大学生になったらやりたいこと」のリストが出てくる。これまでは ぼっち だったために出来なかった はるか だが、光という友人が出来て このリストの全制覇を はるか は目論む。その中に彼氏を作るという項目があるのだが、それも全部 光と達成するつもりなのかと問い詰める…。

はるか の言葉で光は救われ、喜び、そして傷つく。誰よりも好きな人の言葉にナーバス

の空気を壊すのが黒滝からの連絡。今度は彼からグループ旅行に誘われ、はるか は光の同行を望む。黒滝から誘われたのはキャンプ。もはや黒滝は彼の人脈で はるか が連れ出される物語の導入部のような存在である。それは巻末でも見られる。

光は、前回 会った黒滝に自分の男性の部分(というか はるか への好意)を滲ませてしまったから黒滝に会うことを警戒していたが、良くも悪くも鷹揚な黒滝は彼のペースで光に接する。
そして光は いつものように黒滝への接触を躊躇する はるか の相談役としてのポジションで彼女と関わろうとするが、はるか の成長は目覚ましく、自力で問題に対処するようになっていた。これはパリピ集団の中で気疲れしているであろう光を気遣う意味もあるのだが。

キャンプに対して重装備で備えていた はるか だが黒滝は着飾っていない はるか のことも ちゃんと褒めてくれる。これは黒滝が本気でキャンプが好きという背景が影響していた。真剣に焚火(たきび)を育てることで一緒の時間を過ごす2人。そこで はるか は黒滝に彼の中の自分の現在位置を確認する。
黒滝は確かに はるか を意識していた。それは黒滝が はるか の誕生日を忘れていた日、はるか が綺麗になって自分の前に現れたことで始まった。自分への好意が嬉しい。そう素直に思えるのが黒滝の良いところ。ただ交際への道筋は今は描けない。それは黒滝側の恋愛感情の問題ではなく、はるか の中で黒滝が「王子様ポジション」にいることが気にかかるから。黒滝は女性から過剰な幻想を抱かれ、その勝手な幻想で自分が傷つくという恋愛をした経験があった。だから黒滝も等身大の自分を知ってもらい、長所も短所も含めた上で自分を見てもらいたいと願っていた。そんな彼の本心を知り はるか は素直に喜びを伝え、今後の奮闘を誓う。そんな自然体の会話が2人の距離を更に縮める。


帳の外の光は飲んだくれてしまい、今度は彼が前後不覚になる。はるか が光をバンガローに運び、寝ようとする光の化粧を落とすのを手助けする。光にとって化粧を落とすことは女から男へのメタモルフォーゼすることだろう。だから光は男として はるか に接するが、はるか は全く自分を男として意識しない。その恋愛圏外の虚しさに光は部屋を出ていく。

屋外でタバコを吸って自分の行動を反省している光に黒滝が接近する。男バージョンの光と黒滝の接近で危機一髪という展開である。ここで黒滝が初対面の謎の男である光と会話する きっかけとして喫煙が必要で、光の素性を黒滝が追求しないためにキャンプ場という舞台や その他大勢のバス1台分の参加者が必要だったのだろう。性転換する一人二役が同一人物だとバレないための大掛かりなセットと言える。

光は まだ少し酔いが残っているのか、黒滝への嫉妬を増幅して彼に接する。圏外の自分とは違い はるか の意中の人である黒滝を能天気と八つ当たりをするが、すぐに冷静さを取り戻す。この時の会話で光は、この日の はるか と黒滝の会話と現在の状況を把握する。煮え切らない黒滝の態度に再び怒りが込み上げてくる光だったが、黒滝が真剣に はるか のことを考え、自分の欠点も自覚していることを光は知る。

その黒滝の欠点に光は毒づきながら、それを黒滝が不必要に抱え込む必要はないと彼の心を軽くする。その様子を見て黒滝は光を優しいと評する。はるか と黒滝は似た者同士なのかもしれない。
光は黒滝に光一(こういち)という架空の人物像を設定し、いよいよ本当に一人二役を演じることになる。まるで少女漫画の男装ヒロインがドツボにはまっていくような感じである。光が女性ヒロインだったら ここから面倒くさい恋模様が始まるのだろう。


なりに黒滝の人となりを見極めて、彼の保留という決断が決して卑怯でも後ろ向きでもないことを知った。だから光は はるか が彼に向かって進むことにゴーサインを出す。そして はるか が早くも魔法使いの弟子を卒業して独り立ちすると宣言したことで彼女との接点も失いつつある。それでも はるか が困ったら助けたいと思うのが光の愛なのである。だから光は ずっと友達として接することを決める。

はるか の困りごとは早々に到来する。デパートで美容部員に捕まり、押しに負け高額商品を買いそうになったところに光と遭遇し、はるか は光を利用し その場から脱出する(お互いの行動圏内なのは分かるけど本書は偶然の遭遇が多すぎる)。
デパートに単独で来たのも独り立ちと成長のため。よりかかるばかりじゃ対等な友達にはなれないから。そんな はるか の考えを垣間見て、光は彼女に いい女になるまでの100年間 付き合ってあげると友情を越えた愛情をも越えたプロポーズのような言葉を伝える。

黒滝に会うための光に化粧品を選んでもらい、そこで光から成長していると お墨付きを貰う。お揃いの化粧品を持って喜ぶ男女という関係性を描けるのも本書ならではだろう。『1巻』でも黒滝とのデートの前に、男の姿となった光とバスケデートをしていたけど、今回も黒滝に見せるための口紅を最初に見せるのは光となっている。この口紅は光の分身。だけど光にとって その口紅は友情以上の気持ちを想起させるもの。だから光は その口紅を、恋心を引き出しにしまう。