南波 あつこ(なんば あつこ)
カモナ マイハウス!
第02巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
『隣のあたし』『青夏』の大人気作家・南波あつこが描く初のオトナ男子! 大反響のJK×ゲームクリエイターの年の差ラブ、第2巻!!放課後、昔住んでいた空き家に通う陽向は、新しい住人でゲームクリエイターの樹と出会う。女子高生と大人。誘拐犯だと思われたくない樹は、「もう来るな」と陽向を突き放すけど、その家が、家族との思い出が残る大切な場所だと知り、ウッドデッキまでは入っていいと伝える。その後、樹が開発に携わったゲームを通して、2人の仲は次第に深まってゆく。はじめは樹に亡き父の面影を重ねていた陽向。けれど樹から「俺は、お前の父親じゃない」と言われたことで、恋している自分に気づく。どんな顔をして会えばいいか分からず、悩む陽向。その間も樹への想いは、ますます募ってゆく。一方、陽向に会えない樹も、どこか寂しそうで…。
簡潔完結感想文
- 姫を守るために必要なのは攻撃力の装備ではなく、「敵」に立ち向かう勇気。
- 察しの良いオトナ男子は同級生との恋愛をアシストし、自分への告白を封じる。
- オトナ男子がJKの想いを聞き入れないのは、歯止めの利かない未来予想ゆえ。
強硬な拒絶は、強烈な興味の裏返し、の 2巻。
少女漫画ヒロインの態度は受け身か攻めかの2種類に大別される。本書のヒロイン・陽向(ひなた)は受け身っぽい無自覚ヒロインの要素を含みつつ、どちらかというと攻めるタイプ。オトナ男子の神山(かみやま)への自分の気持ちに気づいて、一度は混乱するものの、その後は神山と一緒に過ごす時間を最優先し、そのためには自分の気持ちすら封印する覚悟を見せる。
『2巻』は そんな陽向が自分と向き合い、時に悲しみや苦しみを味わいながら、それでも神山に素直な想いをぶつけていく へこたれない姿が描かれる。
どちらかというと攻めの陽向を描いているが、攻めているからこそ失敗も多く味わう。陽向視点で見れば神山は彼女を拒絶し続けている。賢く察しの良い神山は、陽向が気持ちを打ち明ける前の早い段階から彼女の気持ちに気づき、そして遠回しに陽向を受け入れられないことを訴え続けてきた。
しかも陽向の幼なじみである男子高校生・大橋(おおはし)を陽向に あてがおうとするような動きも見せ、彼女の好意が迷惑だと言わんばかりの言動を見せている。だから『2巻』は陽向にとって苦しいばかりの展開で、これぞ南波作品と言いたくなるような望みのない恋愛描写が続く。
ただし再読すると『2巻』は明らかに神山が陽向への気持ちを否定しきれないことを描いている。これは陽向が神山への気持ちに気づくまでを描いた『1巻』と鏡合わせといって いいだろう。
どう見ても神山は、陽向のことが好みである。それは陽向の性格的なものもあるし、無自覚に神山の過去の記憶を引き出す運命的な行動もある。それを年齢や立場的な社会的体裁で封じ込めようとしているのが今の神山で、そして彼のモラトリアム人間としての一面が出ている。
この後に明かされる彼の過去や真意などを除外しても、今の神山にとって陽向との日常は心地良く、彼女を恋愛対象と見ずにいれば、その日々が永遠に続くと思っている節がある。だから陽向を拒絶することが、陽向と少しでも長く一緒にいたい、という逆説的な彼の願いになっている。
一見、陽向を傷つけてばかりの神山と現実に思えるが、その裏で陽向の恋は成就寸前である状況が面白い。読者は陽向の心境ばかり見るから困難な恋愛に彼女を応援したくなる気持ちが湧くが、絶望的な拒絶ではない。そして作中の そこかしこに攻略のヒントは隠されており、陽向が それを発見し、神山の心を解きほぐすことに上手に使えるかどうかである。神山が作ったゲームをプレイすることで、彼の思考の癖を学んでいる最中の陽向。これもまた大きなヒントだろう。間もなく陽向は神山を攻略可能なレベルに達するのではないか。
『1巻』の感想文でも書いたけれど、陽向が絶望的な状況でも悲嘆に暮れず、割とすぐに立ち直る素振りを見せるのが良い。これまでの南波作品なら世界で一番 自分が不幸だとばかりに憐憫に浸っているような状況でも、あの家で神山に会うことを継続させる意思を見せるのが良い。そこが陽向の強さであり、そして その攻めの姿勢が作品の長所になっていると思う。
陽向は神山への気持ちに気づき、顔が会わせづらい。それを神山は自分が彼女に対して、父親と混同して依存するなと間接的に伝えたことが原因だと思っている。本来、神山は陽向が この家に来ることを許可していなかったが、すっかり彼女がいる日常が当たり前になっており、神山は自分の心に空白が生まれていることに気づく。
1週間 神山を避け続けた陽向だが、自分の思考が神山に支配されていることを思い知り、再び あの家に向かう。この間、神山は自分の仕事がSNSのトレンドに入ったことを ずっと陽向に報告したかったらしい。その快挙を満面の笑顔で祝福する陽向に神山は何を思うのか。少なくとも彼の方は陽向を待っており、彼女のために話題も食材も用意していた。
少し前に あの家で、陽向と神山のことを見ていたのは、陽向の幼なじみの大橋という同級生。彼は不器用で、小学生の頃、陽向が父と死別した際、励ますつもりで声を掛けたのだが、周囲に注目された緊張からデリカシーのない発言をしてしまい、陽向の心をかえって傷つけてしまった。
それから会話らしい会話の無かった2人だが、大橋は陽向が「パパ活」をしているのではないかと疑惑を向ける。だが その心配も陽向にとっては、自分の世界を傷つける刃に思える。
それでも大橋は陽向を見守り続け、彼女が再び神山と接触している際に、間に割って入り、今度は自分が陽向の騎士になろうとする。この時、大橋は神山に対抗して自分でも剣を用意していた。しかし同じアイテムであっても神山が精巧な模造刀なのに対し、大橋は廉価版の おもちゃ。そこが大橋には2人の財力や立場、器の差に思えただろう。
そういえば初対面の陽向と神山は、互いを「我が家」への侵入者だという認識だったが、神山と大橋の関係も、共に陽向を傷つける人という認識から始まっているのか。その誤解もゲームが解消してくれる。ゲームは人間関係の万能アイテムなのか。
しかも今回の行動は大橋の早とちりで、陽向が神山に想いを伝える切実な表情を しんどそうな顔と認識した。
やがて神山が2人に追いつき、彼の剣を奪う。しかし武器が無くても大橋は陽向を守ろうとする。それぐらい彼の心には真剣という剣がある。大橋が陽向の敵ではないことを理解して自己紹介をした神山が、自分もやってるゲームのクリエイターだと知り大橋は警戒を緩める。けれど それ以上に大橋が自分のゲームのユーザーであることを知り神山は大橋を温かく歓迎する。やはりオトナ男子はチョロい。
大橋を含めて改めて食事会が始まろうとする中、神山は彼に飲み物を買いに行かせる。そこで神山は陽向と大橋の関係性を聞く。陽向主観の経緯を聞いても、神山は大橋の真意をちゃんと汲み取る。大橋の言動は全て陽向に「元気 出せ」と言っていることを神山は陽向に伝える。
その時の彼がどれだけ勇気を振り絞ったか、更に今の彼が得体の知れないパパ活相手(神山)から陽向を守ろうとした行動の裏には、大橋の陽向を大事にする気持ちがあるのでは、と陽向に彼の評価の再考を促している。
だから翌日、陽向は教室で大橋に自分の彼への偏見を謝罪する。陽向から話し掛けられる奇跡を前にして大橋も過去の自分の言葉を誠心誠意 謝罪する。それは ちゃんと彼女に伝わり、大橋は自分の目の前で笑っている陽向を見ることが出来た。
神山のナイスアシストである。ただ これは神山自身の立場のためであったような気がする。察しの良い神山は、大橋登場前の陽向が何を言おうとしていたか分かっている。だから彼女が同級生との普通の恋愛をすることで、自分への好意が消滅しないかと意図したのではないか。
実際に この後も陽向と大橋の進展を望むような発言をしているが、陽向は その誤解を解こうと再び告白態勢に入る。だが それを神山は許さない。その感情を持ち込んでは2人の関係は、この家での時間は失われてしまうと思っているのだろうか。だから近所のゲーム好きのお兄さんでいようとする。
神山の態度に悩む陽向は、彼の行動の裏にある背景を考える。その1つが彼女の存在。そして2つ目が年齢差による問題。
しかし そんな状況でも陽向は あの家に向かう。神山との接点を失うぐらいなら自分の気持ちを封じる。これは陽向の神経の太さであり強さ。そして陽向が神山を避けるターンは直前にやっているからだろう。こういう作者の冷静な筆の運び方が好き。
それでも以前と同じようには いられない。『1巻』で神山が火傷した時は陽向は遠慮なく彼の手を握り処置できたが、今はもう彼に触れることで好きが溢れてしまう。そして実際に我慢するはずの感情が口に出てしまう。
急いで撤回し、神山も その設定を了承するが、陽向は自分のどこが至らないかを知りたい。年齢が問題ならば卒業まで現状維持することで希望が持てるのだが、神山は言葉を濁す。
彼の表情に拒絶を感じた陽向は それ以上 聞けず落ち込む。そんな陽向の様子を大橋が心配し、彼との会話で神山と次に顔を合わせる口実を思いつく。それが神山が手掛けるゲームのユーザーの集会。近所の子たちを集めて神山の自尊心を満たす企画を計画した。
そして自然に告白の日のことを切り出し、困らせたことを謝罪する。それは陽向が神山の自分への気持ちを保留にするということでもあった。こうしてモラトリアムを用意して、自分の居場所を確保したい気持ちだったのだろう。
季節は移ろい、夏が到来しようとしている。
神山はユーザーの子供たちを前に はしゃぎすぎたからか扁桃腺をやられ体調不良になる。だが自分の身体状態を過信する癖のある神山は余裕を見せた直後に倒れる。
体調不良は精神の不安定さを招き、神山は いつもは思い出さないような過去を回想する。それは過去の自分が体調を崩した際の姉との思い出。そして この姉は神山のスマホに保存された写真で赤ちゃんを抱いて写っている人と同一人物であることが分かる。
悪夢に うなされた神山が目を覚ました時、陽向が目の前にいた。彼女は再び この家の中に入り、そして夢の中で姉が作ってくれたのと よく似たキノコ入り雑炊を作ってくれていた。それは神山の心を大いに刺激する行動で、彼は自分の胸に生じる気持ちを抑えるかのように胸に手を当てている。
強がろうとする神山に陽向は愛情を注ぎ、彼の強張った心を ほどいていく。それでも陽向を帰らせようとする神山だったが、いつの間にかに豪雨となったために陽向は帰れなくなり、雨が止むまで この家にいることを許可する。
次に神山が目を覚ますと夜になっており、彼は一人になってしまった家の静かさを感じる。だが陽向はウッドデッキにいた。神山が目を覚ますまで その場を離れ難かったらしい。そうして自分の心を刺激し続ける陽向が抱擁を望むのなら、神山の中には それに応える。そのぐらい彼女への気持ちが芽生えつつあるようだ。