《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

親友同士でライバルの2人は、ともすれば ウザい と あざとい と一刀両断されかねない2人。

あたしの! 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
幸田 もも子(こうだ ももこ)
あたしの!
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

ゼッタイに負けられない戦いなんだから!! まっすぐでお調子者のあこことちゃっかりしてる充希。幼馴染のふたりは全然タイプが違うけど、一緒にいて一番ラクだしなんだかんだ気も合う♪ ところが学校の超人気者・直己くんとあここが親しくなると!? オンナのバトルのゴングが…今、鳴り響く――!

簡潔完結感想文

  • 学校の有名人の男子の先輩が同学年に落ちてきた。そこから始まる猪突猛進 VS. 深謀遠慮。
  • 親友だけど凸凹コンビの2人は恋愛の手法が違う。でもボケがいるからツッコミが冴える。
  • 女2男1の珍しい三角関係は、当て馬のような軽薄なヒーロー像が結末を分からなくしている。

2男1の三角関係を経ても女同士の友情は成立するのか? の 1巻。

『ヒロイン失格』から次作を読まないまま実写映画化に合わせて本書を読了。私の考える長編漫画の定義から色々と外れている部分もあるんだけど、アクセス数が欲しいから定義を無視。実写映画公開を機に手に取ってみたけれど、完結している全4巻の この内容なら2時間弱の映画に収まるんじゃないかと期待が高まる(絶対に見ないけれども)。

作者は『ヒロイン失格』の連載中から本書の構想を温めていたようだが、それも納得。本書の主人公・あここ は『ヒロイン失格』の はとり と似た者同士である。作者の作品はヒロインが他の作家とは違って気持ちがいいほど本音を包み隠さない点が受けているのだろう。『ヒロイン失格』では中盤以降、息切れする部分もあったし、結局 彼女の望み通りの結末を迎えざるを得ないので周囲の人たちが迷惑を被っただけの結末になっていくという欠点もあるだろうけれど。
本書は『ヒロイン失格』で女性ライバルが自滅して退場していった部分を改良し、ヒロインと最後まで戦い抜く三角関係を描いているように思える。

ちなみに、あここ って今どきの名前だなぁと思っていたら、先日 歴史エッセイで織田信長が愛した女性の名前が あここ だというエピソードが出てきて驚いた。世の中の支配者 ≒ 少女漫画におけるヒーローに愛される名前として選ばれたのか、偶然なのか。

親友を出し抜き 出し抜かれて恋は進む。ボケがいるからツッコミが光る2人は良いコンビ。

書のような女2男1の三角関係を徹底させるのは少女漫画では珍しい。逆の女1男2の場合は両手に花が続いて、読者にとって望ましい構図となるから延々と続いても文句は出にくいが、女2男1の場合は常にストレスがかかっている状態だから全4巻ぐらいが連載期間の限界なのかなと思われる。段々と痛気持ちよい感じが癖になる。

この三角関係の主人公は関川 あここ(せきかわ あここ)。前述の通り本音を隠さないツッコミ気質。そしてライバルとなる女性が、親友でもある谷口 充希(たにぐち みつき)になる。彼女は ちょっと意味が違うがボケ気質。充希が天然だったり、無自覚だったり、意識的に とぼけたりすることで、あここ のツッコミが冴えるという構造になっている。読者目線で言えば充希は腹の立つ存在なのだが、彼女がボケボケであるからこそ、あここ のツッコミが正しいことのように思えるのだ。

何となく主人公は あここ だし、充希の あざといテクニックが炸裂するから読者は あここ に肩入れするが、例えば私と似ているのはどちらかといえば充希なのだ。それに充希は一般的な少女漫画ヒロインの集合体のような存在にも見える。平凡で目立たない自分が、学園の王子様と恋に落ちるの!? という少女漫画読者が大好きな設定そのまま ではないか。通常なら充希に肩入れする読者が充希を嫌う。その矛盾を作者は視点を変えることで浮かび上がらせている ような気もしなくもない。だから あここ のツッコミ自体が少女漫画へのツッコミでもあるように思える。さっさと好きって いいなよ、このヒロイン気取りが!というアンチ少女漫画のスタンスは『ヒロイン失格』と通じる点である。

視点を変えれば2人の女性キャラの どちらも好きになるし、嫌いになれる。実際、この2人は その性格に目をつけられて、それぞれ一時的に学校生活が苦しい時期がある。けれど それを互いが寄り添って乗り越えた過去があるから2人は性格が凸凹でも上手くやっていけていた。その基盤があって、今回 譲れない恋心を抱いた時に その関係が どうなるかという問題を、最後までブレずに描き切った点が良かった。

『1巻』は2人が同じ土俵に立つまでを描く。まだまだ第一ラウンド、いや試合の組み合わせが決定しただけである。厄介な相手に恋をして、厄介な相手がライバルになった この恋の結末は どうなるのか!?


性キャラ2人のスタンスも面白いが、私が興味を持ったのはヒーロー・御供 直己(みとも なおみ)。彼は作品にとって良い意味で胡散臭い。充希が少女漫画ヒロインの概念の集合体であるならば、直己は少女漫画における当て馬っぽさを集めた存在と言える。本命ヒーローの次に出てくる、チャラ男で遊び人なのだが、どういう訳かヒロインに夢中になってしまうような人。何を考えているか分からないし、彼の恋心が本気だとも思えない。通常なら、なんで この人を好きになるの?という少女漫画の ご都合主義に疑問を抱くところなのだが、本書においては そういう軽薄さや本心の見えづらさが良い方向に機能している。彼の曖昧模糊とした感じが最後まで物語が どう転ぶのかが分からない予感を継続させていた。

また もう1人の男性で、直己の友人である成田(なりた)くん も良かった。彼も良い意味で心が読みづらい。もし本書が全10巻の長編ならば、彼の立ち位置は お決まりの場所に収まったような気がするが、全4巻で終わる本書は それを回避している。成田が介入するのか しないのかという視点があるから最後まで目が離せない。

限られた数の登場人物だけで読者に色々な感情や感想を引き出させる本書は なかなか良書だと言えるのではないか。


学3年生で仲良くなってから、性格が違い過ぎて たまにイラッとすることもあるけれど高校2年生になるまで親友同士でいられた あここ と充希。
だが学校内の憧れの先輩であった、ミスタコン1位の有名人の直己が、留年によって2人と同学年の同じ地平に立ったことで親友同士の関係が変化し始める。

直己と同じクラスになった あここ はクラスの親睦会に違うクラスの充希を連れて行く。その会場となったお店で2人を性質(タチ)の悪いナンパから守ってくれたことで直己はヒーローの資格を得る。だが彼が どちらのヒーローなのかは まだ分からない。

あここ は直己と接して すぐに好きになるが、充希は慎重派。直己に対して あここ は積極的にアプローチするが、充希は その あここ の隣で謙虚さをアピールしているかのように見える。その結果 対比すると あここ が貪欲で がめついようにも思え、敗北感に苛まれる。

そんな心境だから、留年した直己の元同級生で仲の良い・成田から学校内の直己の誕生日パーティー誘われても、あここ は それを充希に教えずに参加する。だが会場には充希が既にいた。彼女もまた誘われたことを黙っていた。そこで あここ の我慢の限界が訪れる。直接的な あここ にとって充希の言動は全て卑怯に思える。自分のことは棚に上げて。

充希の やり方は退路を確保するような手法で、猪突猛進で後先考えない あここ は そんな人に負けたくないと思う。あここ は そんな自分の我の強さを直己の前で見せてしまうが、彼は ありのままの あここ を肯定してくれる。
そこで本当に恋に落ちた あここ だったが、充希は相変わらず直己への好意を認めないし、直己本人は年上にしか興味ないと あここ の好意を受け入れないことを間接的にアピールしてきた。友情の危機の前に そもそも直己に好きになってもらえるが前途多難なのである。

冷静に考えれば、少女漫画だから充希も絶対好きなはず、と読者は単純に思っているが、もしかしたら本当に あここ の独り相撲の可能性もある。恋愛脳が発動して何もかも過敏になっているから充希に偏見を持ってしまう。しかし その情緒不安定さで あここ は友情を失うのかもしれない。

猪突猛進しか出来ない脳筋気味の あここ は同じ土俵に立って白黒をハッキリさせたいが…。

も確かに充希は、ぜんぜん勉強してないと言いながら良い点を取るコソ勉タイプ。だから信用ならない。これは、恋愛において このタイプは「私 フラれたことないから」という実績を作りたいがために、絶対的勝利を確信するまでは自分から動かないのだろう。あここ は精神的にタフだから充希のことを卑怯者に思えてしまうのだろうが、充希のように心に外傷を負いたくない気持ちも分かる。

一方、直己も全然信用できないタイプに見える。自分の発言も忘れてたりするが、その欠点は恋をする あここ には既に関係ない。

彼と距離を縮めるために球技大会の練習を利用するが、いつものように なぜか充希も一緒に参加する。積極的にはならないが、消極的でもない充希。そんな彼女は あここ に直己の優先権を譲るつもりが、運動音痴すぎて直己に構われる。天然なのか小悪魔なのか。


こで あここ は充希には成田を押し付けて、友情と恋愛とグループ交際の全ての成立を企む。成田に対して充希の良さを猛アピールしているが、それは あここ と充希の友情の証で、間接的なラブレターのようである。

そんな あここ の姿勢に直己は感心し、充希も嬉しがる。その反応を知って あここ は嘘は言っていないが二心があるから罪悪感が芽生える。
だが充希は押し付けられた成田を利用して、直己の家に行くルートを確保していた。そこにまた充希に対する不信感が育つ。この どっちもどっちの2人だから仲良く喧嘩しな と笑っていられる。

そんな状態で球技大会に参加していた あここ は顔面にボールを受け鼻血を出し、その介抱で直己にお姫様抱っこをされる。そうしてスマホを見てみると、ちゃんと充希は直己の自宅に一緒に行こうと誘ってくれていた。人を出し抜こうとするから、人に出し抜かれているのではという猜疑心が育つのだ。けれど あここ にしてみれば正々堂々と勝負の舞台に立たないのは充希。だから一方的にストレスを感じてしまう。


日、直己の自宅に行く際は私服。そこで充希は男ウケ抜群のファッションをしてきて あここ は焦る。

しかし充希もまた あここ と一緒にいる直己の姿に感じるものがあるようだ。彼女は直己の口から出る あここ の話題に鋭敏になっている。
そんな充希の張りつめた空気を直己は察していた。そして充希の過剰な謙遜はフォローを待っているという姿勢を直己は指摘する。あここ に敵わない振りして、同時に あここ に負けたくないとも思っている。それが直己の分析。もしかしたら あここ よりも辛辣かもしれない。後に充希も直己に指摘しているが、直己の言動に2人は それぞれ本音や願望を引き出させられているような気がする。女性たちの魅力を引き出しているとも言えるが、一番 性質(タチ)が悪いのは直己ではないか。

辛辣だけど的確な人物評は直己が ただのチャラ男ではないことの証明。人を よく見ている。

一方、この日 あここ は成田から直己との恋愛は女性が苦しむことを教えられる。それは直己が恋愛に いい加減だからではなく、女性の方が直己を束縛しようとしてメンヘラ化するのだという。競争率が高いことが分かっているから、浮気や破局など様々な恐怖が絶えないのだろう。直己は ちゃんと一途に相手を好きになっているのに、相手の方から心が離れていく。その繰り返しに直己のメンタルが壊れかけている状態だと成田は考えていた。だから成田は あここ も直己を傷つける将来を見越して、彼女に引き返すことを勧めるのだろう。

だが その話を聞いても あここ は怯まない。自分は不安に負けないし離れて行かないと、直己のトラウマを払拭させるような言葉をかける。それに対し直己は自分が悪いと元カノたちを責めない。それは彼の育ちの良さからくる発言かもしれないが、あここ は自分が元カノをディスったと反省する。

だから帰り道で直己に謝罪し、そして元カノを悪く言いたかったのではなく、自分の態度を表明したことを告げる。それは告白にも等しい言葉だったので、あここ は妹ポジションでの発言だと急速に方向転換をする。その設定に直己も乗り、お兄ちゃんとして妹に抱きつく。その光景を目撃した充希は複雑な表情を見せる。直己からプラスの評価や行動を受けているのは あここ の方が圧倒的に多い。

それに成田が あここ に歴代彼女の話をするのは、彼からすると、あここ が直己の彼女になり得る存在に見えているからではないか。そこに希望を感じてしまう。


好調の あここ に対して充希は陰気。だから心配して声を掛けるが、彼女は頑なに直己のことは好きじゃないと言い張り、心配したはずが口喧嘩のようになってしまう。

そして充希と距離が出来る。それでも直己の助言により あここ は正面からぶつかり合う。直己が原因の問題だが、同時に直己は女性たちの道しるべになっているようにも見える。

そこで分かったのは充希は恋愛よりも友情を重視している。だから動かない。そして あここ は自分が充希のことを考えていなかったことに気づかされる。それを経て あここ も充希のことを考え、彼女の恋愛が成立しても自分は充希を嫌いにならないという結論に達する。その言葉を聞いて充希は ようやく直己への好意を認める。
本音でぶつかることで相手への理解が深まったようだ。

こうして充希は自分に辛辣な意見を述べてくれて目を覚まさせてくれた直己に感謝しようとするのだが、感謝というより嫌味のような発言になってしまう。これは充希の自分でも理解できない傾向だった。好きなのに可愛くなれない、ツンデレみたいな人なのだ。しかし直己は そんな充希を面白がる。彼の前には2人の違う魅力を持った女性がいる。