春木 さき（はるき さき）
ちっちゃいときから好きだけど（ちっちゃいときからすきだけど）
第05巻評価：★★（4点）
総合評価：★★（4点）
「つばさは オレのだから――」海での事故キスのあとも、つばさに猛アプローチしてくる兼城（かねしろ）くんに翔（しょう）はマジギレ…！ そんななか、もうすぐつばさの17歳の誕生日で…翔と一緒にいられるだけで十分だけど、誕生日がこんなに待ちどおしいなんて…翔とラブラブ…だけど兼城くんに振り回されちゃってどうしよう～!? ハラハラ☆キュートな幼なじみラブ!!
簡潔完結感想文
- 当て馬に振り回されるヒロインが最後に彼氏と話し合い仲直り（2巻連続2回目）。
- 「別冊フレンド」は似たような惨状が多いので問題は作家じゃなくて編集部側？
- 当て馬は作品にとって生命線。彼を拒絶できないのはヒロインじゃなくて作品。
当て馬が諦めるまで試合は終了しませんよ、の 5巻。
1つ前の巻と同じ内容を平気で繰り返す作品である。まず『2巻』と『3巻』の内容の重複に辟易したが、『4巻』と『5巻』の内容も ほぼ同じで幻滅した。
当て馬が中盤を支えるのは少女漫画では散見される状況だが、本書は特に当て馬の依存度が高い。これはヒロインの両手に花という状況だけでなくて、芸術家肌で恋愛に積極的でないように見える翔（しょう）と違って、当て馬の兼城（かねしろ）の存在が物語を動かしてくれるというメリットがあるからだろう。兼城の登場によってマンネリを打破したはずなのだが、彼の登場2巻で既に内容の重複が見られるのだから、もう この漫画はダメだと思う。
作者への文句はたくさんあるが、結局 掲載誌の「別冊フレンド」側の問題なのではないかとも思う。この当て馬の幅の利かせ方、その逆のヒーローの存在感の無さは既視感を覚えるばかり。例えば同じ時期に連載していた三次マキさん『PとJK』、既読の作品では清野静流さん『純愛特攻隊長！』である。
特に前者は当て馬の外見が似ているような気がする。そして3作品に共通するのはヒーローが物語に不必要になってリストラ状態になってしまっている点である。本書の場合、ヒロイン・つばさ と兼城が翔に無断で一緒の行動をして、それを後日 翔に懺悔するというのがパターンで、翔は つばさ の謝罪の時しか登場しなくていい。
そしてヒロインが自分より利口なイケメン当て馬に行動を支配される点は後者に似ている。また当て馬がヒロインのどこに惹かれたかが全く分からないのが後者との共通項である。私は「別冊フレンド」をシチュエーションを最重要視している雑誌だと思っているが、「別フレ」にとってヒロインの魅力が重要なのではなく、ヒロインの周囲にイケメンが配置されるのが重要なのだな、と思わざるを得ない設定重視を感じる。ヒロインから知性を奪うのも編集側の要望なのかと邪推したくなるほど、頭が空っぽな人が多い。
1コマが大きい上に内容の重複が見られ、1巻における満足度が大変低い。面白かった作品もあるが、私が「別冊フレンド」で忘れられないほど大好きになる作品が出てくる可能性は限りなく低い気がする。
そして相変わらず つばさ はイベントが交際の全てだと思っているみたいで、誕生回・クリスマス回など似たような内容で どうにか1年を乗り切ろうとしている。この巻は こんな内容だったとか、交際を描く新しい着眼点を感じられたら良いのだが、本書は2人の関係に進化も深化も感じられない。
近づく つばさ の誕生回には翔は特別に つばさ の行きたい場所に連れていくという。つばさ は翔と一緒ならどこでもいい、と言いながら、行きたい場所が出来たら そこに行く妄想が止まらない。
しかし翔の作品制作が滞っていることを知り、つばさ は彼の絵の完成を優先させてあげる。誕生日当日も翔からは連絡がこないまま1人の時が過ぎる。だが夜8時を過ぎてから翔から絵の完成の連絡が入り、つばさ は学校に向かう。そこで翔はケーキを用意して待っていた（この日のスケジュールで どうやって用意できたのか全く分からないが…）。
翔は出掛けられないことを謝罪し、そして出展後、この絵を つばさ へのプレゼントにすると告げる、というハッピーエンドになる。
夏休みの残りは翔が美術予備校に通い出したため、会えない日々が続き、2学期が始まってしまう。
新学期、兼城が怪我をしたため教師に頼まれ隣の席の つばさ がプリントを届けることになる。兼城はバイクでの事故で怪我をしたらしく、それを とても心配する つばさ。すると兼城は傷や痛みを強調して、つばさ に家のことを手伝ってもらうことにする。そこで兼城は改めて つばさ に本気であることを伝え、ケータイの女性の連絡先を消去する。こうして油断して家の中に入った つばさ は また翔に言えないような秘密を抱えてしまう。一体、兼城が つばさ のどこに魅力を感じたのかが謎で物語に没入できない。翔もそうだが、男性側が つばさ を好きになる描写が弱すぎる。
つばさ が兼城との秘密を翔に言えないまま、教師からのお礼の言葉で兼城の家に行ったことを間接的に翔に伝わってしまう。そして首筋に残るキスマークで兼城が つばさ に手を出したことが判明してしまい、自分でも痛感していた危機感の無さを翔に指摘されてしまう。翔は兼城に鉄拳制裁をしようとするが、兼城の怪我を考え つばさ は止める。それが翔のご機嫌を損ねたらしく、2人に距離が出来る。
家に帰って どう対処するのが正解だったか悩む つばさ は更に翔から贈られた愛の象徴であるネックレスを破損してしまう（安物？）。そして翔は夏休み以降も継続して美術予備校に通うため2人の すれ違いは続く。
そこへ割って入るのは当て馬・兼城。彼は つばさ が持ち歩いていた例のネックレスを奪い、その返却を条件に つばさ とデートの約束を取り付けてしまう。
こうしてネックレス奪還のためにデートをする つばさ。翔とは出掛けられないけど兼城とは ホイホイと出掛ける。兼城に振り回されているフリをしながら、翔とは出来ないことに心が満たされてはいまいか。
帰り際、兼城は約束通り つばさ にネックレスを返却する。よく見るとネックレスの破損が修復されている。兼城が お店で直してくれたという。兼城が つばさ に改めて本気宣言をしたところで、翔が女性と歩いてきて2組4人の男女はバッティングする。その女性は一緒の予備校に通う人らしく、翔は ちゃんと つばさ を彼女として紹介してくれた。どちらが不利といえば つばさ の方である。
兼城が意地悪く今日がデートであることを強調して立ち去り、残された つばさ は全てを報告する。これ『4巻』の海回でも同じ展開・場面 見たよね…。翔が兼城の接近で つばさ に愛情表現をちゃんとする流れも同じ。
今度は翔が来月 誕生日だということで つばさ は周囲に影響され値段の張る物をプレゼントしようかと考える。最近の自分の失態を返上するためにも つばさ は計画を練る（『2巻』のクリスマス回と ほぼ同じ考えのような気がするが…）
だが資金が足りないのでバイトをすることにする。兼城は その仲介をしようとするが、さすがに つばさ も警戒して他のバイトに挑戦するのだが、失敗続きで断られたり、タイミングが合わなくてバイト先が見つからない。そして最後に連絡した店が、兼城のバイト先だったという誰もが驚く展開になっている。つばさ は最後のチャンスと意気込んで店長に頭を下げて無理を言ったので、兼城がバイト仲間だと知っても辞めるに辞められないという状況になる。
どうして―、といいながらも作品は兼城なしでは もう作品は成立できないところまで到達している。兼城のお陰で連載は継続できるが翔の魅力を全く出せないようになってしまっている。
