《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

またも気になる年上女性のデートを尾行する橙次郎。まずは「弟」キャラの脱却から。

神木兄弟おことわり リトル・ブラザー(1) (別冊フレンドコミックス)
恩田 ゆじ(おんだ ゆじ)
神木兄弟おことわり リトル・ブラザー(かみききょうだいおことわり リトル・ブラザー)
第01巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

「私の世界にはカワイイものしかいらない」。カワイイを研究して、カワイイを磨き続けているセリナ。恋愛はちょっぴり苦手だけど、親友の義理の弟である橙次郎とは気が合って!? 神木兄弟の弟・橙次郎が大活躍☆ 色葉&蒼一郎カップルも登場!ドキドキ・キュートな兄弟ラブコメ、待望のスピンオフ!!

簡潔完結感想文

  • 人気作品のスピンオフ。本編と同じく身動きの取れない関係の恋心を描く。
  • 本編では「弟」にしか見られず、恋心も伝わらなかった橙次郎のリベンジ。
  • 本編ありきの関係性で、今風ヒロイン像も散らかって楽しみ方が分からない。

える作者は「神サマ」に すがる!? の 1巻。

『神木兄弟おことわり』のスピンオフ作品。この作品では神木(かみき)兄弟の弟・橙次郎(とうじろう)と、本編のヒロイン・色葉(いろは)の親友のセリナの2人の恋を描く。
本編は親同士の再婚で義理の兄妹になったことで恋が始まるのだが、それ故に身動きが取れなくなっていたが、このスピンオフの場合は最初に性別関係なく気が合ったBFF(ベストフレンドフォーエバー)な関係だったのに そこに恋愛感情が生まれ、その戸惑いや葛藤を描いた作品と言えよう。

最初から見た目が良いから自分の世界の中に入れてもいい というセリナのルッキズムが爆発。

ただし、本編の色葉の蒼一郎(そういちろう)に対する感情よりも全然 難攻不落な感じがなく、最初から ちょっと背中を押せば あっという間に両想いになりそうな雰囲気があって、物語としての起伏に乏しい。彼らの恋愛を見届けたい という気持ちになれない。

ヒロインとなったセリナのキャラも色々 現代風の設定(SNSでの承認欲求など)を取り入れているが、こじらせている面が多すぎて共感しにくく、キャラも掴めなくなってしまっている。最初から最後までフワフワとした覚束なさがあって、2人から切実感が見えなかった。

これなら橙次郎視点で、彼の2度目の年上女性への恋の挑戦と成功を描いた方が良かったのではないか。セリナを完全に鈍感な女性にして、どうにか橙次郎が友情を恋愛感情に変えていくストーリーなら素直に物語に入り込めたかも。セリナ視点で物語が進むと、「カワイイ」橙次郎を失わないように、恋愛関係にならずに現状をキープすることに必死な人に見えてしまう。

元々、本編を連載中(スピンオフの予定がない時)から橙次郎とセリナは作者の お気に入りだった。そして本編終了後の次の連載がパッとしなかったからか、スピンオフで人気の回復を図ったのだろう。作者の思い入れと、起死回生を図ろうという必死さが空回りしてしまっているようにも思えた。特に本書では、本編と違って分かりやすい、デフォルトの胸キュン展開が使われていないため、この1回分の話は何を描きたかったのだろう、と気持ちが迷子になってしまった。どうも本編の後半から作者の話の作り方や、キャラの感情の運び方に共感できなくなってきている。2023年現在、このスピンオフ以降、単行本が出ていないみたいだけれど どうしたのだろうか。レベルアップして再復活を期待したい。


編最終回後の お話で、色葉と蒼一郎は交際中。セリナは、2人の交際や義兄妹という関係を知らない内から橙次郎と出会い、趣味が合うので友達として交流している。それは親友の色葉が蒼一郎との交際で優先順位が変わったからでもあった。その前から色葉は蒼一郎家族との再婚話を話さなかったし、彼女との友情は疑ってもいいと思う。

そのカワイイ見た目に加え、橙次郎はゲームやアニメなど いわゆるオタク系の知識が豊富。セリナは可愛いものが好きで、自分の好きなものを追求しているだけで、オタク気質だから気が合うのだろうか。セリナがゲームが好きという設定は どうも方向性が違う気がして、いまいち納得できないが。

セリナは自分の趣味に他人は必要ない。そして人が苦手だから、いざ話す際には言葉遣いも不自然になり、どうしてもキツい言葉を選んでしまい、それが人間関係を悪化させるという悪循環に陥っている。

セリナがカワイイで武装するのも、そうすれば他者が自分を見てくれるから。そしてカワイイを持たない自分を無価値だと思っているから。こうして彼女は現実世界で こじらせた問題から逃避するためにSNS中毒になるのだろう。承認欲求を満たしたいからSNSを活用して自己表現する。これは21世紀型のヒロイン像だ。新しいが、特殊すぎて読者の共感は現役世代かつ同じ悩みを持つ一部に限られるだろう。


る日、セリナは学校で1人の男子生徒から声を掛けられデートの誘いを受ける。自分だけを見てくれる人が欲しい、自己肯定感の低いセリナはその話に乗る。だが その話を聞かされた橙次郎は心配になり止めるが、それがセリナの負けん気に火をつけてしまう。それでもセリナの不安を感じた橙次郎は尾行をする。橙次郎は いつも誰かのデートを尾行している気がする。

だがデートをした相手は、セリナを快く思わない男子生徒たちからの差し金だった。それに気づいたセリナは、そのことより自体も、そうされる自分に慢心があったのではと羞恥を感じる。
そんな落ち込んだセリナを浮上させてくれるのは橙次郎。そして橙次郎はセリナに感謝され、手を握られ、名前を呼ばれただけで恋に落ちる。意外にウブなのだ。もしかしたら学校では兄・蒼一郎同様に神格化されて、誰も気軽にスキンシップをしてこないからかもしれない。色葉やセリナといった年上で橙次郎を無害だと思い込んでいる人たちは気軽に彼に触れてくる。だから橙次郎は年上の女性ばかりを好きになってしまうのかも。

セリナは翌日、デートの相手に誰かに使われてばかりでは人生ダメにする、と忠告し、この問題を清算する。この場面、セリナは格好いいんだけど、男側が手間暇かけてセリナを嘲笑するメリットも動機も弱すぎて話が不自然である。もうちょっと男受けしないセリナが学校内で男性のプライドを無自覚・無意識に傷つけているとかの場面があればいいのだが。騙されたのは自分が悪いというセリナの自罰的な思考回路も いまいち分からない。それを橙次郎が救うのなら分かるが、セリナをフォローしたのはデートの相手。セリナは もう恋はしないという結論で、橙次郎が青ざめている。読者は橙次郎がんばれ と思えば良いのだろうか。いまいち読み方が分からない作品である。


次郎はセリナを好きと言えないまま、セリナから恋愛対象外のような友達関係を継続する。これでは色葉の時の二の舞である。

一方、セリナは橙次郎との写真を上げていたSNSで橙次郎とカップルに見られてしまう。SNSでは勝手に話が進み、なすすべがなくなり橙次郎と距離を取ろうとするセリナ。
そのことに橙次郎は腹を立てる。セリナは現実の橙次郎に向き合わないし大事にしないで、仮想空間上の人たちを重視している。そこで橙次郎は同じように勝手に判断して勝手に行動して、セリナを遊園地の迷路内で途中で置いてけぼりにする。そこで孤独の寂しさを思い知ったセリナ。

振り回し振り回される関係ということを描きたいのだろうか。写真が得意じゃない橙次郎の写真をアップすることで、自分のカワイイの純度を上げているセリナは完全に彼を装飾品にしているのが気になる。承認欲求を満たすために失敗してしまった実例なのかもしれないが、セリナのことを好きになれない一例でもある。2話目まで来ているのに 未だにセリナの実像が掴めず、情緒不安定に気分をアゲサゲしているように見えた。

SNSで こじらせた人格を矯正するのが恋愛なのだろうか。アカウント消去でハッピーエンド?

リナは色葉に誘われて、両親の旅行中の神木家にお泊りをする。ここではセリナを迎えた蒼一郎が、セリナとは とことん気が合わないのが笑える。もし橙次郎の嫁として義理の兄妹になったら地獄だろう。

だがプライベート空間で見る色葉と蒼一郎カップルは学校内より格段に甘い空気を醸し出していた。それを見てセリナも恋愛を再び意識せざるを得なくなる。だが いつも一緒にいてくれる橙次郎も誰かと恋をしたら自分は隣にいられなくなる。セリナは その恐怖を改めて感じた。

夕食用の買い物を終えた2人は、室内でキスをする色葉たちを目撃する。声を出しそうになるセリナの口を橙次郎が塞ぎ、そして唇に触れてから手を離したようにセリナには感じられた。そのため2人に妙な空気が流れる。

唇に触れた回(4話目)のページ数が異様に少ないのは なんなんだろう。1話目が長かったから その調整があるにしても短すぎる。そして内容も唇に触れただけで終わっている。計画通りなのか、それとも作者側の問題なのか気になるところ。