恩田 ゆじ（おんだ ゆじ）
神木兄弟おことわり（かみききょうだいおことわり）
第02巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★☆（5点）
一緒に暮らすうち、だんだん心のキョリが近づいてきた色葉（いろは）と神木（かみき）兄弟。そんなとき、兄の蒼一郎（そういちろう）が、学年1の美少女・森下（もりした）カナとデートするというウワサが飛び込んできます。同じ日、弟の橙次郎（とうじろう）とケーキバイキングに行く約束をした色葉だけど、蒼一郎のデートがなんだか気になって……!?
簡潔完結感想文
- 学年で一番の美少女とのデートを中座した時点で、彼の結論は もう出ている。
- 目は口程に物を言う。ビデオカメラで無意識に撮影したのは輝いて見える人の姿。
- 好きと認めない男と、好きを認めてしまったが撤回する女の密室での頭脳戦。
アクセルもブレーキも いまいち利いていない 2巻。
『2巻』でヒーロー・蒼一郎（そういちろう）の「俺様」の仮面が あっという間に崩壊する。その変わり様や それでも強がるところが可愛らしく面白く読める。だが そもそも なぜ蒼一郎は女嫌いのように女性を遠ざけていたのか が いまいち分からないまま、話は恋愛方向に特化していく。全体的に作者の脳内設定を作品内に還元できていないような気がしてならない。
そして どうも主役の2人が恋に落ちる最短距離を進んでいる。その展開の速さが読者を飽きさせないのだろうが、物語の中の「好き」が説得力を持たない副作用もある。私には男家族で女性に免疫のなかった2人の兄弟が、四六時中一緒にいることで発情しただけのように見える。心情的に想いが募っていくというよりは、『1巻』で蒼一郎が言っていたように「皮膚接触」をしすぎて惚れたりしてしまっただけでは ないのか。年頃の男女を狭い空間に入れて共同生活したら、そりゃ そこに異性としての意識は芽生えるよね、という恋愛リアリティ番組のような印象を受けた。半強制的に恋愛をさせようと仕向けているように見える一方で、そこに至るまでの筋書きが見えない。蒼一郎が何がキッカケで態度が軟化したのか、好意を持ったのか いまいち伝わらないままで、2人の気持ちは発情の連鎖ぐらいにしか見えない。
好きという話を進めるアクセルも分からない部分が多いが、義兄妹という2人の関係を進ませないブレーキも上手く働いていない。互いの親が 今回 始まった同居生活で これまでとは違う穏やかな日々を過ごしているという描写でもあれば、それを壊してはいけないという気持ちが子どもたちに芽生えるのも分かる。だが本書は その描写が極端に少ない。『1巻』でも書いたが、ヒロイン・色葉（いろは）の母親は娘を騙して同居生活を開始しているのも心証が悪いだけで、母親が やっと掴んだ幸せや安定の描写は特にない。
蒼一郎たち兄弟の家族の来歴は最後まで明かされない。彼らの母親は死別なのか離別なのか、そして父親との関係や愛情も伝わってこない。特に蒼一郎の家は、子供が小さければ父親が再婚する必要性やメリットもあるだろうが、兄弟が10代半ばになった段階で、今更 異性の連れ子がいる女性と同居する意味もないように思う。
家庭も裕福で これまでの生活に何の支障もなかった所に、降って湧いたような再婚話。これは蒼一郎たちが反発して不思議ではない状況なのに、彼らは父親の再婚に何も思うところがない。もしかしたら当初の蒼一郎の色葉に対するキツい対応は父親には言えない再婚や環境の変化に対する不満の表れなのかもしれないが、その相手に あっという間に恋に落ちて、彼の不満は一切なくなる。
新しい家族の構築によって、それを壊してはいけない と色葉たちが思うようになるのなら、惹かれ合うことへの罪悪感に共感できるのだが、そんな描写を挿まないまま、ただ禁断の関係として義兄妹の間柄を利用するから切迫感が生まれない。
特殊なシチュエーションに利用できるものは利用するが、一方で その背景を描き込まない。そうして世界観は薄っぺらくなり、家族や家庭が書き割りのように見えてしまう。恋愛だけでなく、新しい家族としての微妙な関係性も描き込めていれば良かったのではないか。
そして連載作品だから仕方がないが、1話の終わりで「引き」として衝撃の言動があっても、次の回では1ページ目でリセットされているのが気になった。特に本書の場合、遭難や密室といった状況での引きではなく、その人の言葉で終わることが多いので、それを無かったことにするのは無理があるだろ、と思わずにはいられなかった。
色葉に対して自分らしくない行動をしてしまう蒼一郎は、その原因を欲求不満と考え、これまで作らなかった彼女を作ることを決める。その話は 瞬く間に広がり、学校で一番の美少女が名乗りを上げる。
これに対し色葉は、蒼一郎の急接近で2人の間に微妙な空気が流れたことを気にしていたが、彼の変わり身の早さに怒りを覚える。ここには無意識に嫉妬も含まれているだろう。
そんな2人の関係を見て漁夫の利を狙うのは弟の橙次郎（とうじろう）。蒼一郎は弟と色葉の接近を快く思わないが、蒼一郎のことを忘れるために色葉は橙次郎の遊びの誘いに乗る。そして やっぱり色葉は蒼一郎には彼の役作りの「俺様」に振り回されているが、橙次郎に対しては無自覚に彼を翻弄している小悪魔となる。
蒼一郎は まるで罰ゲームのように美少女とのデートをこなすが、キスする雰囲気になっても色葉の顔が浮かんで躊躇する。相手に失望されたところに、色葉が大変だという橙次郎からの連絡が入り、一目散に家に向かう。これによって蒼一郎が どの女性を選ぶのか、最優先にするのかが答えが出ている。
実際、家に帰った蒼一郎は大変な状況になっている色葉に対して縋るような言葉を呟く。だが事態が思った以上に悪くないと知り、冷静になった蒼一郎は先の言動は家族としての感情だと訂正する。本当は違うことは蒼一郎自身は分かっているが、そう自分を偽ってしまう弱い蒼一郎。もう実質的な両想いで、あとは2人が自分の感情を認めるだけである。思ったよりも呆気ない。もうちょっと蒼一郎のドＳ 改め ツンデレを楽しんでいたかったし、無自覚に兄弟を振り回す色葉を見てみたかった。
実際に2人は言い争いながらも、衝突しないようになっており、観察者である この家の父親に仲良くなったと認められている。
橙次郎は そこに危機感を覚える。だから自分の中学の学園祭に色葉を招待する。色葉は友達のセリナと2人で参加。セリナには まだ家庭の事情が話せていないため、橙次郎は色葉の いとこ として処理される。別行動で蒼一郎も来校している。そこでも恋する少年・橙次郎は2人の兄姉の間に流れる空気を敏感に察する。
橙次郎のクラスの出し物・コスプレ喫茶でシンデレラに仮装した色葉は橙次郎に靴を履かせてもらう。だが橙次郎の人気に加え、蒼一郎も その場にいることが発覚し、女生徒たちが大挙して押し寄せる。そのパニックを色葉が抑制しようとしたが、女生徒たちに揉みくちゃにされ、肘で打たれる。その様子を見た蒼一郎は色葉の手を取り、色葉が倒れ込んだ後は お姫様抱っこをして安全な場所へと助け出す。
そして途中で脱げてしまった靴を、シンデレラ衣装の色葉が かわいい と言いながら履かせてくれた。
しかし この話は蒼一郎の逃亡によって終わる。それでも蒼一郎が回していたビデオには、彼の内心が よく表れていた。それに気づいた蒼一郎は、ビデオを紛失したことにする。
その蒼一郎の言葉に嘘の匂いを かぎ取った橙次郎は蒼一郎の部屋にビデオはあるはず と勝手に家宅捜索を開始する。そんな時、出掛けたはずの蒼一郎が友達を連れて家に帰ってきて、2人はクローゼットの中に隠れる。これは『1巻』1話の蒼一郎との同衾に対応するイベントかな。
橙次郎は色葉との身体の接近にドキドキする。更にはクローゼットの中でビデオを発見して手を伸ばそうとして色葉の胸を掴んでしまう。彼の欲望が対象物を間違えさせたのか（そもそも胸を押し当てられて好きになってるしね…）。
そこで物音を立ててしまい大ピンチになるが、2人の存在に気づいていた蒼一郎の機転によって友達に見つかることはなかった。だが色葉は蒼一郎に失望されたと落ち込む。
ビデオも消去され、証拠隠滅を図った形跡があったが、橙次郎によって自動転送するよう設定されており、映像は無事であることが確認される。そこに映っていたのは蒼一郎の視点から見た色葉。来校できない父親のために弟を撮影するはずが、彼は無意識に色葉ばかりを撮影していた。映像を見返した蒼一郎は その無意識の行動に気づかされ、誰にも知られたくないからカメラを隠し、映像を消去したのだった。
落ち込んでいた色葉は その事実に胸キュン。お手本のような展開である。そして蒼一郎に真意を確かめようと近づくが、彼女から溢れ出たのは無意識の「好き」という言葉だった。
自分でも驚く その言葉に色葉は逃亡する。だが2人は義兄妹。好きだと自覚しても好きになってはいけないという禁忌が待っていた。だから色葉は放課後に蒼一郎を誰もいない教室に呼び出し、言葉のリセットを希望する。こうして色葉は好きということも忘れて、家族として存在しようとし続ける。ここは、上述の通り 家族描写が不足しているから切迫感のない場面になってい待っている。
蒼一郎はリセットの提案を受け入れる。だが話し合いは終わったが外から鍵を掛けられ、2人は教室内に閉じ込められてしまった。色葉はケータイを置いてきてしまっており、そして蒼一郎はスマホを持ち歩いている事実を隠す。それは色葉と同じ空間にいたいからだろう。芽生えた気持ちをリセットできないのは蒼一郎が よく分かっているだろう。
リセットしたがっている色葉は距離を取るが、蒼一郎は教室内でグイグイと距離を縮める。脱出を試みる色葉と、出来るだけ長く ここに留まりたい蒼一郎の頭脳戦が始まっている。
やがて窓から身を乗り出して危険なことを始めた色葉が落下しそうになるのを蒼一郎が助ける。それを機に2人は密着する。そして蒼一郎は色葉に好きだってこと忘れるとか無理でしょ、と まるで自分に言い聞かせるかのように言葉を絞り出す。
そこで蒼一郎のスマホが鳴り、嘘がバレ、密室問題は解決する。だが色葉は蒼一郎に、リセットが解除された告白の返事を求める…！ また次回の1ページ目で上手く かわされ、無かったことにされそうで心配だ…。
