藤間 麗（とうま れい）
黎明のアルカナ（れいめいのアルカナ）
第09巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★★（6点）
従者・ロキの秘めた想いを知ってしまったナカバ。唯一無二の存在・ロキに応えたい気持ちと、愛する夫・シーザへの想いとの間で戸惑いを隠せない。しかし、母国へ戻る期限が迫り、ナカバはロキに究極の選択を迫られて…？「このまま私の腕の中にいるか、シーザ王子に会われるかで、この先の運命が大きく変わるとしたら…どうなさいますか？」
簡潔完結感想文
- この巻の半分ぐらいヒロインは現実を生きていない。それが面白いと思う？
- プライバシー侵害のアルカナで悲恋を演出する手法も飽きた。この国に用はない。
- やってることがレミリア殺害未遂と同じに見える。作品の違う未来はないの？
海外進出が汚点になり始めている、の 9巻。
ただでさえ寄り道にしか思えない他国の内政への干渉に加えて、どうにも無駄なコマ・ページが多すぎて あっという間に1巻を読み終えてしまう。話を作るのが遅いのか、作画が丁寧すぎる（遅い）のか、月刊誌連載なのに1話あたりの内容が これでは満足できない。
内容的にも恋愛漫画として見ると、一度は決着がついた三角関係を無駄に再燃しているように見える。少女漫画では敗者となった当て馬が いつまでもヒロインを想っているというのは よくあることだが、ヒロインが自分の過去を知って、当て馬が どれだけ自分を想っているのかという情報を後出しじゃんけんで付与するのがズルい。
結局、本書においてヒロイン・ナカバのアルカナの能力は、本来は知り得ない悲恋・悲劇の内容をナカバが都合よく見ることにしか役立っていない。『8巻』の感想でも書いたが、脇役たちの想っても想われていない悲恋を作者が描きたいだけなのではと疑ってしまう。
それをナカバがアルカナで視る必要性が あるのかな、と首を傾げる。例えば今回の悲恋も あの人の走馬灯として回想されるだけでも読者にドラマとして伝わる。相手の冷酷さをナカバが知るために必要という考えも、だからといってナカバが動き出した国の将来を改変できる訳じゃないから否定される。アルカナは勝手に発動してしまうようだが、どうも不必要な情報までナカバが握っていて、無駄に悩み、それがヒロインの悲劇と特権のように使われている。
そしてナカバがアルカナは身体に負担がかかると知ってから乱発しているのが気になる。暴走状態なのかもしれないが、これではナカバは長くないのではないか、と邪推してしまう。
繰り返されるアルカナによって『9巻』は体感で半分ぐらいがアルカナの発動中だったように思えた。これが内容の薄さに拍車をかけている。更にはアルカナ能力の不完全さと相まって ずっと もどかしい気分が続く。そこに迫力のない砂嵐や、アルカナ発動時の扉の描写など無駄にページが割かれるから本編と言える部分が更に少なくなる。特殊能力者という特権がナカバをヒロインにしているが、この能力が作品の足を引っ張り始めている。
ここから その人の命を救えるのか というレミリア編と同じような展開になりそうなのが憂鬱だ。運命を回避したと思ったら失敗 の繰り返しではなく、レミリア編とは違う未来を作者が選んでくれることを願うばかりだ…。
身体に負担がかかるのに、またもアルカナを連発するナカバ。やっぱりジャンキーである。廃人、もしくは病人になる日も近いか。
そこで見たのは この国の第一王子と盗賊団を率いる蛇の亜人の密会。彼らは裏で繋がっていたのだ。アーキルに その情報を伝え、アルカナ能力者としての最低限の役目を果たしたナカバは、母国に戻るシーザの見送りに行く。砂漠の砂嵐やロキに自分かシーザかの選択を迫られたりしたが、ナカバはシーザを選ぶ。そうして愛を確かめ合って2人は それぞれの場所に赴く。
一方、母国ではシーザの母親によって、亡きカイン王子の婚約者であったルイスとシーザの結婚が計画されていた。ルイスの父親は将軍であるため、軍を後ろ盾にするのが母親の目的。夫である国王に その教育法の誤りを指摘されても、結局 子供の人生を支配しようとする毒親である。もしシーザが初登場のような無気力な生き方のままだったら、結婚を親に支配され、相手の女性の人権を無視して お別れを選ぶ傀儡の王子様になっていたかもしれない。
シーザを見送り王都に戻ったナカバたちが見たのは盗賊団に襲撃された光景だった。アーキルや彼が王位に就かせたい兄王子も捕縛されていた。
ロキが盗賊団のトップである蛇の亜人を打ち倒そうとする直前、第一王子が矢を放ち、盗賊団を討伐する。盗賊団の盗伐は王位継承権を獲得する重要な条件。こうしてアーキルたちは政治的敗者となってしまった。
その権力争いに加担していたナカバは この国でも逃亡者に ならざるを得ないようだ。そして それは子供の従者・リトの母親の人質解放が叶わないということでもあった。
蛇の亜人の処刑前に、ナカバはアルカナを使って彼らの過去を覗き見る。蛇の亜人は現国王から第一王子に与えられたもの。息子の冷酷さを見込んだ国王が、道具として利用するために与えたのだ。父王もまた蛇の亜人を使い、危機を演出し、そして亜人を倒すことで英雄となったのだった。同じように第一王子も蛇の亜人を暗殺の駒として使い、そして その首を刎ねることで英雄の階段を上っていく。本書においては死だけが その愛を永遠にする。
その冷酷さに怒りを覚えるナカバだったが、ロキにより これが この世界の現実だと教えられる。そんな時、再度 アルカナが発動し、ナカバはアーキルと彼の兄王子の どちらかの命しか救えない未来を視るが…。
うーん、要約が これだけで済むとは…。人気に乗じて海外進出をしたのは失敗だったのではないか。
